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大雑把な戦い方

 それから倉庫街の方へと進んでいくと徐々に魔族の気配が強まってくる。逃げ出したのは魔族ということだ。それならどうして今まで気付かれずにいたというのだろうか。いや、そもそも魔族というわけではなく、人間が魔族に変わった可能性もある。

 セシルの父も同じように魔族へと変貌してしまった。そこには信念のようなものがあった。

 おそらくは彼のそれに近い考えを持った人間が魔族化したということなのだろう。そうに違いない。


「ミリシアさん、相手の方はもしかして……」

「ええ、複数存在するわ」

「複数いるのですね」

「その様子だと別のことを聞きたそうだね」


 私の表情を見てアレクは私の方へと話しかけてきた。当然ながら、魔族であることは気配からして間違いない。ただ、それが複数存在するらしい。


「はい。相手は魔族、それも人間だった人ですね」

「まぁそうみてぇだな」

「それは以前のゼイガイア軍勢の仕業ということでしょうか」

「……その可能性はないと思うわ。魔族化という技術がゼイガイア軍勢だけのものではないみたいだからね」


 確かにザエラ議長を魔族化したのはゼイガイアではなかった様子だ。グランデローディア軍勢も同じ技術を使っていた。しかし、それにしても妙なことが考えられる。ただそのことは今考えるべきことではないか。


「……考えてること、わかるよ」


 すると、私の横を歩いていたルクラリズがゆっくりと口を開いた。どうやら彼女も私と同じような考えを抱いているらしい。


「エルラトラムだけでもここまで魔族化した人がいる、だとしたら他の国だって同じようなことが起きているはずです」

「まぁその通りだと思うわ。そもそも魔族化すれば全ての問題は解決されると考える人が多いのも事実だし」

「そうだね。最悪の場合、国民全てに魔族化を施そうとする国が出てきてもおかしくないね」


 思い返してみれば、確かにそうだ。魔族化すれば呪縛から解放されると考えたのは何もこの国にいる連中だけではないはずだ。今に始まった事ではないのだとすれば、わたしたちの敵は魔族だけというわけではないのだろう。


「その時は魔族と人間が入り乱れる大混戦になるでしょうね」

「……想像したくはないけれどね」


 アレクは呟くようにそういったが、その目はどこか近い未来に想像したことが現実になると確信している様子でもある。どのような思想を持つか、他人が強制することは難しい。魔族になるべきだと考える人も一定数いることは不自然なことではない。

 少々危険な思想ではあるが、それを支持する人も多く存在するはずだ。そして、それに反対する人もまた多く存在する。

 数は少なくなったとはいえ、人間も地球全体でまだ一〇億人程度の人口が存在している。その中の何割が魔族化思想を持っているかは不明だが、決して無視することのできない数の人がそれを支持することだろう。


「基本的にはあまり考えないことよ。それより倉庫街にいる連中をまずは対処しないとね」

「そうだぜ。もう近いからな」


 確かにこんなところで無駄話をしている場合ではない。人類の未来を考えるにしても目の前の戦いに勝たなければいけないのだから。

 再度私は気を取り直して漂う魔の気配へと集中する。

 複数存在するのだとしたらこの気配の強さは妥当と言える。私も聖騎士団時代に何度か魔族の拠点へと向かったことがある。その時とは全く違うが、油断してはいけないのは確かだ。


「……」

「アレク?」

「そこのシャッターにいるね」


 すると、アレクが立ち止まって近くの倉庫へと指差した。


「はっ、隠れたって意味ねぇよっ!」


 その直後、レイが一気に走り出してその倉庫のシャッターへと走り出す。大きく剣を振り上げたかと思うと、そのシャッターが急に開き始めた。


「っ!」

「こちらとて来るのはわかっていたことだ」

「自分から出てきやがるとはなっ」


 それでもレイは勢いを殺さずそのまま男へと斬りつける。

 しかし、その刃は出てきた男の皮膚を斬り裂くことはなく、その表面を滑るようにしてレイの攻撃を躱した。


「てめぇっ」

「力を手に入れた。聖剣に頼るだけの貴様らとは格が違うのだからな」

「それはあなたも同じよ。魔の力に頼ってるだけなのよ」

「……違うな。我々は平等な力の分配が必要だと言っている。精霊に選ばれなければ力を得ることができないというのはなんとも不公平なものだ」


 確かに彼のいうように精霊に認められなければ聖剣を引き抜くことはできない。つまりは扱うことができないということだ。その点で言えば、確かに不公平なのかもしれない。

 ただ、正しく強い意志と剣を扱えるだけの実力があれば普通であれば認められる。もちろん、格の高い精霊であったり、強力な能力を持った魔剣と呼ばれるものに関してはそれだけでは不十分だが。


「力を得るための基礎というものは必要よ。そのために普通剣術学院があるのよ」


 エレイン様と向かわれた学院とは違った聖剣を持っていない人のための剣術学院というのも存在している。そこでは当時のエルラトラム議会軍の標準剣術を教授しているようだ。私もそこには向かったことがないためにあまり知らないが、中にはその普通剣術学院から議会軍、そして聖騎士団へと昇り詰める実力者だっている。

 基礎がしっかりしているということは自身の可能性を広げることにもつながる。訓練生時代の私もそれは十分に理解している。


「普通剣術学院など、本来の機能は果たしていないではないか」

「少なくとも今はそうね。だけど、これからもっと可能性は広がっていくわ」

「うん。僕たちもそこで何度か指導してもいいと考えているからね」


 確かに彼らが指導してくれるのだとしたら、聖剣を持っていない人でも十分以上の実力を身につけることだってできるかもしれない。才能の有無は多少なりともあるだろうが、その点を差し引いても可能性が広がることは大きな利点だと言える。


「……それでも救われない人がいる」

「それはあなたたちのしようとしていることも同じでしょ」


 魔族化は誰でもできることではない。魔の力に適性がなければ理性を失い、自我すら失ってしまう。自我や自意識というものがなくなってはそれは死んでしまっているのと同じではないだろうか。

 少なくとも私はどんなに自分が弱くても意識というものをしっかりと保っていたいと思っている。それが人間として生きるということなのだから。


「話の通じんやつだ。仕方ない。ここでやるしかないようだな」


 そう言ってその男が何か合図のようなものを出すと途端にシャッターの奥から六人のフードを被った人が飛び出してきた。

「まだ訓練段階だが、十分な実力がある連中だ」


「はっ! そうかよっ」


 そう言いながらレイは勢いよく剣を振り回し始める。


 ドンッドンッ!


 強烈な剣撃がそのフードの男へと斬りつけられる。


「っ! 勢いだけでは勝てんぞっ」

「知らねぇなそんなことっ!」


 それでもレイは彼へと続けて攻撃を仕掛ける。


「くっ、疲弊させることが目的かっ」

「どうだかねっ」


 先ほどまで威勢を張っていた男が急に焦ったように口を開いた。どうやらレイはその圧倒的な手数でその男を本気で倒そうとしているようだ。多少の攻撃が防がれた程度ではレイの攻撃を完全に止めることはできない。


「斬れないのならこうするだけだっ」


 そして次の瞬間、彼は剣の腹を使って男の腹部へと強烈な一撃を与える。


「うぐぁっ!」


 血反吐を出しながらも男はまだ立ったままだ。魔の力というのは生命力も上がるということだろうか。


「あの男はレイに任せよう。僕たちは他を相手するべきだね」

「ええ、そうね」

「……わかりました」


 レイの攻撃に何故か圧倒されてしまったが、私たちも戦わないわけにはいかない。アレイシアが作ってくれた機会なのだからここで決着をつける必要があるのだから。


「ルクラリズさん、二人で一緒に戦いましょう」

「助かるわ」

「それでは、行きましょうっ」


 私の合図と共にルクラリズが一気に駆け出していく。それに合わせるように私も地面を蹴る。

 実力は十分だと言っていたが、彼はまだ小さき盾の本当の力を知らない。ここでの戦闘はおそらく長くはならないはずだ。

こんにちは、結坂有です。

ミリシアたちの方も大胆ながら制圧できそうな勢いですね。これで本当に暗殺計画が解決できればいいですけれど、それ以外の問題も大きなものになりそうですね。

果たして、人間と魔族の大混戦が起きるのでしょうか。


現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した物語も順次公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。


それでは次回もお楽しみに……



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