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力の引き継ぎ

 僕は一体何をされているのだろうか。

 右腕は失ったはず、そして左足も。

 そういえば魔族はどうなったんだ。さっきまで横で戦っていた剣士たちはどうなったのか。

 そんな不安から僕は目を覚ました。


「目が覚めたかい? アレク」

「……ここは?」

「エルラトラムの中央議会病院だよ」


 エルラトラム……ああ、あの聖剣を提供しなかった国か。

 どうして僕がその国にいるのだろうか。


「重傷を負った君にセルバン帝国の研究室にあった装置を取り付けてみたんだ。なにぶん私たちの知らない技術だったからね。十数回も実験を重ねてきた」

「なんの……ことだ」

「私たちの望みはセルバン帝国の技術を盗むことだ。特殊な技術を研究していたあの帝国の技術は聖剣を作るのにも使えるのだからな」


 話が全く掴めない。

 いや、理解が追いついていない。

 思考を巡らせると頭が朦朧とする。


「君には薬を打っている。深くは考えられないだろうがな。もう少しで神経を接続できるぞ」

「何を言って……あがぁ!」


 強烈な神経を刺激する痛みが全身を駆け巡る。

 脳内が痛みでピリピリと痛み始める。

 背筋に電撃が走っているようだ。


「おや、薬が効いていないのか? まぁいい。あの国の剣士なのだから耐えられるだろう」

「かっんぐ!」


 そして、脊髄に何かが蠢いている。

 動くたびに強烈で骨が軋むような痛みが走る。


「あともう少しで……」

「あぁ、あぐっ」


 意識が痛みで消えかけていく。

 そんな時だ。

 力が急に漲ってきた。

 失ったはずの右腕に力が集中する。


「お、落ち着いて!」


 ドンッ!

 と鈍い音が聞こえた。

 目を開けてみると金属の塊のようなものが机を破壊していた。

 それに、痛みも消えていく。

 一体何が起きたというのだろうか。


「何が起きたんだ」

「君の右腕が机を叩き割ったんだ」

「ぼ、僕の右腕が?」


 そう言われて確認してみると、金属の腕のようなものは俺の右肩に接続されている。

 よくみると左足にも謎の金属の塊が接続されている。


「気付いたか? それが今の君の姿だ。一年以上も実験を続けてやっと成功したんだよ」

「一年以上も?」


 まさか、僕はあれから一年以上も眠っていたということなのだろうか。

 いや、それにしてもおかしい。

 魔族があのまま侵攻されてきていたら、僕は生きていることなどあり得ない。


「そこの時計でもわかると思うがな」

「……嘘だろ」

「真実だよ。これから君には剣士として訓練を受けてもらう。その特殊な義肢の力を知りたいからな」


 一年以上も経過した。

 それでもあの魔族侵攻から生き残れたのか。

 あってはならないことなのかもしれないが、実際に僕は生きている。

 待て、エレインはどうなった。それに彼に会いに行ったミリシアは?

 様々な疑問が出てくる。


「一つ聞きたいことがあるんだが、エレインはいるのか?」

「エレイン? ああ、生きておるよ。魔族千体斬りをしたと噂になっているな」

「会わせてくれないか」


 はっきり言って一年以上も昏睡状態だったのだ。

 知らないことも彼なら教えてくれるかもしれない。


「今は無理なんだ」

「今は無理、どういうことだ?」

「我々議会軍の命令に従うのであれば、会わせてやってもいい」


 議会軍、僕の知らない単語ではあるのだがどうやらエルラトラムを統治している組織のことだろう。

 そこの軍の命令に従うことでエレインに会えるというわけか。


「犯罪紛いなことは避けたいが、どう言った命令だ」

「……聖騎士団を壊滅させろ」

「聖剣を持っている人たちのことかな。その理由は?」

「議会を裏切ったんだ。我々の命令に従わない存在は排除するべきだろう」


 確かにそうなのかもしれないが、相手は聖剣を持っている騎士団だ。

 聖剣すらない僕に対抗する手段などあるのだろうか。


「言い忘れていたな。これが君の聖剣だ」

「……僕の聖剣?」


 そこには流線型を描いているサーベル状の剣があった。


「わざわざ君の特性に合った聖剣を選んできたんだからな。資格があればそれを引き抜くことができるようになる」

「資格?」


 僕はそのまま聖剣を引き抜くことに成功した。


「一回で引き抜いただと……」


 すると、目の前の男がひどく驚いた。

 確か一度魔剣というものを抜こうとしたが、引き抜けなかった記憶がある。

 簡単に引き抜くことができないのかもしれないな。


「普通の聖剣なら引き抜けるのかもしれないな」

「それは普通ではない。大聖剣と呼ばれる高位の聖剣だぞ」


 色々と言っているのだが、僕たちには聖剣を引き抜く力があるということは知っていた。

 それは最後に宰相にあったときに伝えられたからだ。


「……次は討伐軍の奴らと訓練をしてもらう。その腕や足に慣れるためにもな」

「ああ、これにも慣れておかないとだね」


 薬の効果が切れてきたのか頭が冴えてきた。

 本調子とまではいかないが、自分が自分でいられるようになってきたのは確かだ。


 それにこの金属の腕や足は思い通りに動かせているとはいえ、まだ力加減がわからない。

 とても強力な力を持っているように見えるが、僕の繊細な剣技を再現できるかわからない。

 そのためにも誰かと訓練をすることで感覚を修正していく必要がありそうだ。

 無事聖騎士団を壊滅させることができれば、エレインに会わせてくれると言っている。

 いや、聖騎士団を壊滅させるのはいいことなのか。


「話は戻るんだけど、本当に聖騎士団を壊滅させてもいいのかい?」

「どういうことだ」

「聖騎士団は世界中に強い聖剣使いを派遣していると聞いているよ。そんな重要な組織を壊滅させたら世界の安全はどうなるのかと思ってね」


 魔族に対する防衛策として世界で活躍する組織が壊滅となれば、安全はどうなるのだろうか。

 安全面ではどうなることのか、当然不安定になるのは目に見えている。


「聖騎士団なんて動いてなどいない。セルバン帝国が被害に遭った時などそうだ。すぐに行動に移らなかっただろう?」


 言われてみればそうだった。

 すぐに準備をして防衛のために動いていれば、少なくとも三時間以内には到着できたはずだ。

 それなのに一向にこちらに向かっている気配がなかった。

 いや、それは議会が断ったからではないだろうか。

 色々と情報が錯綜している。


「……そうかもしれないね。とりあえず、聖騎士団を壊滅させる方向で考えておくよ」

「ああ、助かる」


 そう言って男は扉を開けて部屋から出た。

 目が覚めると義肢を取り付けられていたり、エルラトラムの議会に協力を依頼されたりと頭が混乱する。

 一つ一つ調べていく必要がありそうだ。


   ◆◆◆


 私は別の作業に取り掛かっていた。

 夕方はユウナと一緒に図書館で調べたのだけど、そこまで進展はなかった。

 それにブラド団長の言っていた私たち以外のもう一人の生存者についても気になるところだ。

 聞いてみても議会病院に連れられた後の行方が分からなくなっているとのこと、それも調べる必要がありそうだ。


「はぁ」


 本部の廊下を歩いているとふとため息が漏れた。

 私たちの頃の訓練よりもさらに難易度が増しているように思えるのは気のせいではないだろうか。

 あの施設での訓練は自らの技術を極限まで引き上げることだけを考えていた。

 だが、今は違う。


 他人の動きも調べたりしないといけないのは難しいことだ。

 それに個人での動きではなく組織としての動きまでも考えないといけない。

 多くても二人での動きでしか考えたことがなかった。


「ミリシアさん、どうしたのですか?」


 横で歩いているユウナは私のため息を見てそう聞いてきた。


「いいえ、前の環境よりも難しくなったなって」

「組織としての作戦とか考えるのですか?」


 相手が議会という大きな組織というのが難しい。


「そうね」


 すると、ユウナは思いがけないことを言ってくれた。


「相手が団体だろうと個人だろうと利益だけを求めているって教官が言っていました」

「利益だけ?」

「得にならないことなんてみんなやらないですよね? そういうことですよ」


 なるほど、そういうことね。

 確かにそれだけを考えていれば、組織だろうと個人だろうと同じなのかもしれない。


「あなた、たまにはいいこと言うわね」

「え? たまに、ですか?」


 すると、ユウナはムッとした表情でこちらを見つめてきた。

こんにちは、結坂有です。


どうやらミリシアたちと一緒に救助された人はどうやらアレクだったようです。

そして、アレクが議会側についたようです。これからどうなるのでしょうか。

彼が身につけた義肢についても気になりますね。


それでは次回もお楽しみに。



評価やブクマもしてくれると嬉しいです。

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Twitter→@YuisakaYu

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