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解決の裏側

 私、リーリアはルクラリズと共に商店街の方へと向かっていた。とは言え、この商店街で何かが起きているという印象はない。普段と変わらず市民たちは生活している。

 暗殺集団と一戦交えようとしていることは彼女の言動から察することができていた。それはエレイン様もわかっている様子だ。ただ、その作戦内容というものまではわからないでいた。彼女の雰囲気から察するにかなり確実な方法で彼らを追い詰めようとしているのは確かだが、無論、私の能力も完全に相手の思考を読み取ることができないために仕方がない。


「ここに来るのも何回目だろうね」

「……そういえば、よくここに来てましたね」


 思い返してみれば、彼女と私はエレイン様とは別にここへとよく遊びに来ていた。遊びといっても名目としては彼女の私服などを揃えるために来ていたのだ。彼女はそこまで服は必要ないと言っていたが、そういうわけにもいかない。

 容姿と言うのはその人の第一印象を大きく左右させるものでもある。彼女は十分に可愛くなれる素質があるのだ。私としては彼女のその美しくも可愛らしい容姿をもっと活かしてあげたい。そうすれば、彼女に対する若干の敵意を孕んだ視線は少しばかりは改善されるだろうからだ。


「今となっては小さなタンス一つ分の服を用意してもらったわ。本当によかったの?」

「問題ありません。エレイン様もアレイシア様も可愛らしくなったルクラリズさんのことを気に入っている様子です」

「そ、それはそうかもしれないけれど」


 彼女の容姿が美しくなるのは私としてだけではなく、アレイシア様もよく思っているようだ。そのための費用も彼女が負担してくれている。もちろん、私も費用という面では役に立てるわけではないが、化粧の仕方であったり特殊な服の着方などと言ったことは教えることができる。

 それもあってか彼女の容姿は非常に可愛らしくなっている。髪も定期的に美容室へと行くことで美しく保たれている。

 魔族と言う印象すら全く感じさせない今の彼女は人としての、いや美少女としての魅力を手に入れつつあるのだ。


「何も気にする必要はありませんよ。ルクラリズさんはこれから人として生きていくのですから」

「……今はその言葉に甘えることにするわ。でも、いつかはリーリアにも、アレイシアにも、何よりもエレインにも恩返しをしたい」

「はい。人としての普通を手に入れた時にはエレイン様の従者として活躍してください」

「ええ、そのつもりよっ」


 そう元気よく彼女は返事をする。

 こうして見てみると本当に人間のように感じる。もちろん、彼女の本質は魔族そのものだ。それは忘れてはいけない。しかし、それすらももう気にする必要はなくなるのだろうか。

 彼女は徐々にだが変わりつつある。私たちも魔族に対する印象というものを改める時が来るというのだろうか。人と魔族の共存、そんなものがあり得るのだろうか。


「それにしても、ここの商店街は何もなさそうね」

「……そうですね」


 少なくとも今はそのような共存といったことを考えている場合ではない。アレイシアの作戦はどうやらこの商店街ではないようだ。目に見える範囲だけでもここで何かが起きているわけではないのは明らかだ。

 事前に諜報部隊の調査からして彼女やエレイン様を狙う暗殺集団はそれなりに規模があると言われている。怪しい集団がこのような商店街に堂々と隠れ家のようなものを作るとは考えられないか。


「あれ、リーリア?」


 そんなことを考えているとミリシアが話しかけてきた。彼女の後ろにはアレクやレイもいるようだ。


「小さき盾の皆さま、そちらの方はどうでしたか?」

「……あまり大きな声では言えないけれど、アレイシアの方は大丈夫よ」

「そうでしたか」


 彼女たちはどうやらアレイシアの作戦を見てくれたようだ。それに彼女の言い方からして深刻な状況になっている様子はなく、順調にその作戦は進んでいるようだ。

 ただ、それだとしてどうして彼女たちがここにいるのだろうか。


「じゃなんでミリシアたちがいるのよ」


 私が質問するよりも早くルクラリズが彼女の話をした。誰でも思う疑問だろうからだ。


「取りこぼし…… いや、逃亡者というべきか」

「まぁそんな奴がいるってことだ」

「この商店街にですか?」

「ちょうどその人を追いかけてたところなのよ」

「人だかりを切り分けて走っていくのを見かけたからな」


 アレイシアの作戦は順調に進んでいるようだが、それで壊滅させることはできない。それはエレイン様も危惧していたことだ。

 その予想通り、彼ら暗殺集団は逃げるルートすらも考えていたのだろう。

 そして、何よりもその逃げ出した連中というのは暗殺計画を立てた主要人物である可能性が高いということだ。彼らの背後に何がいるのかは彼らから話を聞けばわかることだろう。


「それではすぐに向かいましょうか」

「そうね。私たちも彼らが逃げ込む場所は特定できているから」

「……だから、余裕そうなのね」

「ええ、諜報部隊とかアレイシアには悪いけれど、私たちも違った方法で下調べしてたのよ」


 アレイシアは小さき盾含め議会には内緒で今回の作戦を企てていた。そのことは私たちよりも議会に行く機会のある彼女たちがいち早く気付いていた。それを踏まえた上で、彼女たちは独自に調査を仕掛けていたらしい。

 そのような方法をとることができるというのは彼女たちがアレイシアのことを強く信頼しているということ、そして何よりもどのような状況であっても順応できるほどの実力を持っているということでもあるのだ。


「それじゃ、一気に畳み掛けるとするか」


 レイのその言葉を合図に私たちは彼らが逃げ込んだ場所へと向かうことにした。


 商店街から離れ、工業地帯へと私たちはやってきた。

 ここへは私もあまり来たことがない場所だ。どういった場所なのかはよく理解しているものの、ここへは働きに来る以外では私生活で来ることはない。

 当然ながら、私たちが今歩いているこの通りも人気は全くいないと言っていい。


「隠れるには十分って感じだな」

「はい。工業地帯ということで、この時間だとみなさんほとんど屋内にいるのでしょうから」

「それで、どの場所に逃げ込んだのかわかってるのよね?」

「ええ、ちょうど目の前にある倉庫街の方ね」


 そう言ってミリシアは通りの奥にある倉庫街を指差した。


「リーリアならわかるでしょ」

「そうですね。私とミリシアさんと初めてお会いした場所ですね」

「あの時は色々とびっくりしたけれどね」


 奥にある倉庫街はエレイン様と一緒にとある装置を盗み出す作戦を取っていた時だ。あの時はどのようなことをするのか全くわからなかったが、今となっては必要悪だというのは理解している。

 それにその時の精霊族長クロノスがエレイン様に直接依頼したのなら断ることも難しい。そもそも当時の議会が怪しいことをしているというのは私たち聖騎士団の間では広まっていた。私としても公正騎士としての役割があるとのことでエレイン様を止めることはせず、彼に従うことにしたのだ。


「……何か作戦とかあったりする?」

「もちろんないわよ」

「そうだね。僕たちはこの場所を突き止めただけで後の作戦は考えていないよ」

「色々と忙しかったってわけね」

「それもあるけれど、意図的にそうしなかったのよ。アレイシア議長がどのように出るかわからなかったから」


 当然だが、彼女たちが本気で調べようとすればアレイシアの考えている作戦ぐらい簡単にわかることだろう。それを意図的にしなかったのはおそらく彼女の意向を汲んだからだ。

 私たちは少なくとも彼女のやることを裏から支援すること、小さき盾というのは本来裏方に徹するべきなのだ。


「まぁその時々に合わせて臨機応変に動けるってのが俺たち少数部隊の利点でもあるからな」

「……それだけの実力があるってことなのね。わかったわ」


 明確な作戦がないということで若干の不安のあったルクラリズではあったが、レイのその発言を聞いて納得したようだ。彼女はレイと共に訓練をしていたこともあり、彼の人知を超えた実力を目の当たりにしている。


「ってことで、僕たちもそろそろ行こうか」

「ええ、そうね」


 そう言って彼女たちは剣を引き抜いて臨戦体制を取った。

 あの倉庫街のどこかに暗殺集団のアジトから逃げ出してきた連中がいる。私たちが追いかけてくるというのも彼らは想定しているはずだ。私たちがあの倉庫街へと入ったと同時に攻撃を仕掛けてくる可能性だってある。

 もしくは隠れたままでやり過ごそうとしているかもしれない。

 どんな状況になったとしてもすぐに対応できるよう、私もルクラリズも警戒しながら倉庫街を歩いていくことにした。

こんにちは、結坂有です。


暗躍する小さき盾ですが、このまま順調にいけば逃げ隠れた連中もすぐに見つかりそうですね。

このようにどんな状況であっても彼らのように後援してくれる存在がいてくれるのは非常に心強いものです。

エルラトラム議会はこれからも安泰………でしょうか。


現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した物語も順次公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。


それでは次回もお楽しみに……



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