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限界は超えられる

 フードを羽織った男が液状の何かの中へと飲み込まれるようにして入っていくとその塊は禍々しく不気味な音を立てて妙な外骨格が形成されていく。


「……カニみたいですね」

「いや、エビに近いと思うがな」

「そうですね。美味しくなさそうです」


 まさかとは思うが、アイリスはこれを食べたいと言うのだろうか。いや、冗談だろうな。


「その、冗談ですよ?」

「わかっている」

「貴様ら、どこまで侮辱するつもりだっ」

「悪いのですけれど、そのような容姿にはなりたくないものです」


 確かにあのようなカニともエビとも、ましてや巨人とも取れるような容姿にはなりたくないものだ。そして、何よりもあの体では人間としての尊厳も何もなくなってしまうではないか。

 そんな不気味にも捉えられる相手を前にして俺は魔剣を引き抜くことにした。


「何にしてもだ。人間の限界というものは確かにあるだろう。ただ、それらを超えることだってできるものだ」

「……アリエナイッ」


 もはや人間としての声を失っているのか、低く嗄れたような声で彼はそう言った。


「肉体的な限界はあるのかもしれません。ですが、それを補うようにして精霊と共存していくべきなのです」

「ああ、俺たちは精霊と一心同体であるべきだ。そうすることで俺たちはどこまでも強くなれる」


 実際にアンドレイアと出会った時もそうだ。人間的な限界を迎えそうになったとて彼女の力を受け入れることでそれすらも超えることができた。そして何よりも、俺たちは人間としての尊厳を失ったわけではない。精霊たちは俺たちの力を、意志を信じてくれている。もちろん俺たちも彼ら精霊を信じている。

 魔族化は今までの経緯からして人間としての理性や本能すらも失われていくと言われている。無論、そのようなことは俺たちが容認するはずもないだろう。それに結局は全ての人間が彼らの言うように救済されるわけではないのだ。魔の力に適合しない人間がいたとすれば、その人はどうするのだろうか。魔族の奴隷として、いや道具として一生過ごすことになる。


「ニンゲンノ、マケナンダ……」


 もはやあまり聞き取れないところまできたが、かすかにそのように聞こえた。


「お兄様、もういいですよね」

「ああ、大体の情報も掴めたことだしな」


 人間を液状化し、それを外骨格のようにして身に纏うとは今までなかったことだ。しかし、その程度で俺の魔剣の斬撃を完全に防ぐことなどできないことだろう。あのゼイガイアですら防ぐことができなかったのだからな。


「アイリス、あいつを引きつけろ」

「はい。お兄様」


 俺がそういうと彼女は一気に駆け出した。それと同時に彼女の影も彼女から離れるようにして何処かへと走り出す。


「コザカシイッ」


 そう言って魔族に変わり果ててしまった男はその外骨格で覆われた巨躯をアイリスへと叩きつけようとする。

 しかし、その腕を彼女の影が防ぐ。


「ナッ!」

「残念ですね。私は一人ではないのですよ」


 少なくとも彼女と戦うにおいて、初見で対処するのはなかなかに難しいと言えるだろう。彼女から離れていった影も同じく把握しておく必要があるからな。いつどこから彼女の影が攻撃を仕掛けてくるか、ましてや攻撃を防がれるかわからない。

 俺も彼女と本気で戦うとすれば、多少なりとも苦戦することは間違いないだろう。


「イッタイドコカラッ!」

「影です。実体と影は同じなのですよ」


 アイリスがそういうと影の表情が少しだけ微笑んだように見えた。気のせいだろうと思いたいが、彼女曰く魔剣に宿っている精霊はどうやら悪戯好きのようだ。


「オノレッ!」


 すると、魔族は非常に強力な腕力で影の呪縛を解き放つ。

 しかしそれでは遅過ぎる。彼女の攻撃は既に始まっているのだからな。


「はっ!」


 彼女の高速な剣撃がその外骨格へと斬り刻まれていく。ただ、その攻撃によって完全にそれが破壊されることはない。それほどに彼の外骨格が強固だと言うことだ。そろそろ俺も攻撃を仕掛けるべきだろう。

 俺は魔剣を手に地面を蹴る。それと同時に魔剣の歯車が高速に回転を始め、激しく火花を散らす。


「コノ、コノオレガッ!」

「っ!」


 外骨格へと攻撃を仕掛けていたアイリスが弾き飛ばされる。しかし彼女も弱いわけではない。受け身をしっかりと取ることですぐに体勢を整える。ただ、彼女がこれ以上攻撃をする必要はない。


「お兄様、それはっ……」


 俺はそんなアイリスの横を高速で駆け抜けると一気に魔剣を振りかぶる。


『愚者は時の流れを知らぬ』


 アンドレイアが言うと途端に耳を劈くような轟音が鳴り響く。そして、その音と同時に魔族の外骨格と時空とが大きく斬り裂かれる。


「ッ!」

「……砕けろ」

『時の剪断』


 アンドレイアの声を合図に時空の狭間が生まれ、彼の外骨格が大きく斬り裂かれて砕け散る。


「お兄様、任せてくださいっ」


 アイリスが俺の背後からそう言って、その斬り裂かれ剥き出しとなった中身へと魔剣を突き立てる。


「グッ!」

「終わりですっ!」


 そして、彼女の透き通るような声とともに大量の鮮血が彼の残っている外骨格の隙間という隙間から噴き出す。よく見てみると彼女の影がないようだ。


「グガアァアアッ!」


 強靭な外骨格に覆われた魔族ではあったが、俺とアイリスからすれば大した敵ではない。いくら強靭であったとしても自然の摂理を打ち破ることはできない。それにしても、アイリスの最後の技、一体何をしたというのだろうか。

 魔族と成り果ててしまった男が頽れると、アイリスは刀身に付着した血糊を払ってから魔剣を鞘へと納めた。


「確実に倒すことができました」

「そのようだな」

「……今後、このような魔族が出てくるということでしょうか」

「ああ、警戒すべきことなのには変わりない」


 彼らだけが特別そうだということはないはずだ。おそらく同じような魔族がいると考えるのが普通だ。ただ、あのような強靭な外骨格がどれほどのものなのかはよくわからなかった。レイほどの莫大な力があればそこまで気にする必要はないのかもしれないが、あのような魔族が何体も列を成して攻め込んできた場合は少しばかり厄介なことになるだろうな。


「確かに厄介な相手でしたね」


 そう言って彼女は再び外骨格を持った魔族へと視線を向ける。その目は明らかな敵意を孕んでいるようであった。


「……それよりも」「気になることが……」


 同時に何かを聞こうとして言葉が互いに詰まってしまう。


「お兄様から話してください」


 すると、アイリスは俺の目を見ながら話を譲ってくれたようだ。まぁ彼女も俺の技について聞きたいことがあるのだろう。彼女の前では初めて見せる技だったわけだからな。


「……最後の技は何をしたんだ?」

「あれですか。魔族の体内へと自身の影を潜り込ませて内側から破壊したのです」

「その影はどこでも入り込めるのか」

「まぁそうですね。剣を通して入り込ませるのです」


 剣を突き刺し、それを突破口として影を潜り込ませることができるそうだ。そのような力があるとは思ってもいなかった。


「ですが、これを実戦で使ったのは初めてです」

「巨大な魔族相手でも十分に戦える技だろう。もう少し技を理解した方がいいだろうな」

「実験してみたいのですが、なかなかに難しそうです」


 技が強力過ぎるが故に何度も実験するのはできないかもしれない。まぁどちらにしろ、彼女もまだ魔剣の能力については理解できていない部分があるのだろうな。


「……その、お兄様の技も強力でした」

「ああ、あれは『時の剪断』と言う技だ」


 それから俺は彼女に技のことを教えることにした。教えたところでそう真似できるものでもないからな。互いにどのような技があるか把握しておけば、今後も連携を取る際に必要になってくることだ。

 これを機に話しておいてもいいだろう。

こんにちは、結坂有です。


とても強そうな相手でしたが、エレインとアイリスの前では大した敵ではなかったようですね。

それほどに二人は最強なのでしょう。

それにしても、小さき盾やアレイシアの方はどうなっているのでしょうか。気になるところです。


現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した物語も順次公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。


それでは次回もお楽しみに……



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