暗殺の目的
私、アレイシアはユレイナと一緒に商店街近くの裏通りへと向かっていた。当然ながら、この場所は通りから少し離れている場所となっているために、あまり人目の付かない場所となっている。私がここに来た理由というのは一つだ。私やエレインを狙っていると言われている暗殺集団のアジトがここにあるということだ。
おそらくこの情報は小さき盾も掴めていないのだろう。なぜなら、この私が直接フィレスから聞いたからだ。彼女も最初は小さき盾という部隊に報告するつもりだったらしいが、ユレイナを通じて彼らには報告しないように伝えた。議会直属の諜報部隊となっている彼女は私の命令を優先しなければいけないからだ。議長という特権を使ってしまうことになったが、これも仕方ない。彼らやエレインにあまり心配をかけたくない。
私も自分でなんとか問題を乗り切らないといけない。小さき盾や剣聖にばかり頼っていてはいけない。
「アレイシア様、そろそろアジト近くでございます」
しばらく歩いていると、ユレイナがそう周囲を警戒しながら言った。
確かに今の状況では私の護衛は彼女一人しかいない。どれだけの人数が暗殺集団として集まっているのかはまだ未知数ではあるが、少なくとも一斉に攻撃を仕掛けてきたのだとすればいくら私たちでも対処できないのは目に見えている。
ただ、私がここに来た理由は単純にその集団に捕まりに来たわけではない。壊滅させるつもりでここに来たのだ。このために私は色々と小さき盾に隠れて根回ししてきた。作戦に抜かりはないはず。このためのシミュレーションなら何度もしたのだから。
「すべて予定通りよね」
「はい。進行に狂いはありません」
「じゃ行くわよ」
私は杖を突いて、一歩前へと踏み出す。ここから先は暗殺集団のアジトだと言われている場所だ。彼らは私を狙っている連中、敵地へとわざわざ踏み込みに行くというのは危険な行為でもある。
それでも、私は問題を解決するためにそうしなければいけない。何もこれは私の考えた囮作戦というわけではないのだ。怖いことなんてない。作戦が完璧なのだから。
「……まさか、本当に踏み込んでくるとはな」
すると、私の目の前に一人の男性が現れた。手には聖剣を持っている。剣先が鎌のように曲がっており、相手の四肢に引っ掛けることで大きな傷を与える。そして、聖剣の能力で傷口が焼かれ治癒を困難にさせる。
もちろん、カインの持つ聖剣ほどの強い修復力のある能力であれば問題ないのだろうが、少なくとも現地でその攻撃をまともに受ければその激痛に苦しむことだろう。
「俺のことは調べ上げてんだろ」
「ええ、もちろんよ。私も一応聖騎士団の出身だからね」
「そうか。それじゃどうしてあいつを匿ってんだ」
「匿っているわけじゃないわ」
目の前の男が話すあいつというのはエレインのことだ。彼は元々聖騎士団の人間でセルバン帝国の調査に踏み込んだ数少ない一人でもある。彼もエレインのことや小さき盾の存在も知っているし、その高い実力というのもよく理解しているだろう。
私はすぐにエルラトラムへと戻ったために調査はあまりしていないが、あの惨状で生き残っていたというだけでも異常だと知っている。
それはともかく、私は彼らのことを匿っているというわけではない。どう言ったところでそう言った誤解が生まれたのかはわからない。
「じゃ、なんであいつらだけを特別扱いしてるんだよ」
「特別扱いじゃないの。それは実際彼らに実力があるからよ」
「実力ってのは俺ら聖騎士団も同じじゃねぇか」
「いいえ、聖騎士団以上の実力を彼らは持っているの」
「聖剣の使用経験からしても俺らが一番だってのはお前も知ってんじゃねぇか。聖騎士団でお前は頑張ってたんだろうが」
確かに私も聖剣使いとして聖騎士団で頑張ってきたつもりだ。しかし、いくら頑張ったからと言ってもいつか限界が来るもの。それも経験だけが全てではない。その道の才能というものもあるだろう。
男女という体格の差を無視するとしても、私よりも強い人は多くいる。当時団長だったブラドに手も足も出なかったのは事実だからだ。いくら頑張っていても、いくら聖剣を使っていたとしても、それら経験だけでは追い付けないものもあるのだ。
そして、小さき盾や剣聖という称号を与えているエレインにはそう言った経験や知識といったものでは計り知れないような能力を持っているのはもう言うまでもないだろう。
「実力ってのはそう言うものだけじゃないってあなたも知ってるでしょ」
「だけどよ」
「彼らは私たちとは違う環境で育ってきたし私たちの知らない能力を持っているの。そんな彼らのことを私たちの常識に当てはめるのはよくないわ」
いくら努力したとしても追い付けない領域というものがある。人は生まれ持っての才があると言われている。その才を重点的に伸ばすことなんて普通ではなかなか難しいと言える。誰もその才に気付くことができないからだ。
しかし、セルバン帝国はなんらかの方法で彼らを見つけ出し、地下訓練施設と呼ばれる場所で文字通り最高の教育や訓練を施した。彼ら帝国がどのようにして生まれてくる剣士としての才を見つけ出したのかはまだわからないが、少なくとも私たちの常識の範囲では考えられないようなことをしている。
「だが、あいつらは世界のことをなんも知らねぇ」
「……それは私たちも一緒よ」
いくら聖騎士団として世界を飛び回っているとはいえ、全てを網羅しているわけでもない。それは議長となった今も同じだ。もちろん、団長だったブラドも、元団長のアドリスも同じだと言える。
世界の真理なんてものは一人で把握、理解できるほど単純なものではないのだから。そう、神にでもならない限りは。
「仕方ねぇ、話し合っても意味がないことは最初からわかってたことだ」
「そう、私もすぐに納得してもらえるとは思っていないわ」
彼らが私たちを狙う本当の目的は聖騎士団の地位を今よりもさらに引き上げてほしいという想いから来ている。何も自分勝手というわけではない。今よりも聖騎士団の地位や待遇が向上すれば、より自由に活発に動くことができる。
彼らも私たちと同じく世界を救いたいからこその計画なのだろう。
「アレイシア様、では……」
「ええ、やるしかなさそうね」
私がそういうとユレイナは小さく手を広げ、隠れている存在へと合図を出した。
「あなたたちはもう包囲されているのよ。こそこそと隠れながら動いていてもわかってるのよ」
議会の諜報部隊は調査という点においては小さき盾よりも強い権限を持っている。議会の安全保障に関わる情報全てに干渉する権限を与えているからだ。もちろん、フィレスには直接権限は与えていないものの、一番その点において信頼のあるブラドがそれらを握っている。
彼の活躍もあってこのアジトが見つかったようなものだ。
ユレイナの合図と共に剣を持った人が物陰から飛び出してくる。この作戦についてはブラド以外はほとんど知らない。ここにいる人たちも先ほど召集されたばかりだ。ブラドの部下でもあるフィレスは知らないようだ。まぁこの作戦がどう言った経緯で漏れるかはわからないために私とユレイナ、ブラドの三人で直前まで隠していたからだ。
おそらくはエレインもこの作戦には気づいていない。同じく小さき盾もそうだろう。
「お前……」
「悪いけれど、私たちもただでやられるわけにはいかないの」
「俺らだって馬鹿じゃねぇ。やれるだけやってやるよっ」
そう彼が言った直後、アジトの方から七人近くの元聖騎士団員が飛び出してきた。彼らはエレインたちに対して批判的な見解を持っているような人たちだ。アドリスによって除籍させられたのだろうか。どちらにしても、彼らと協力関係を築いていく必要があるというのに悪い存在だと切り捨てようとしているのなら問題だ。
「ユレイナっ」
「はいっ」
すると、彼女は剣を引き抜いて私の前へと立つ。
私も杖に隠されている剣を引き抜いて応戦できる体制を取る。この剣は聖剣と呼ばれるような能力のあるものでもないが、それでも何も武器を持っていないよりかはいいだろう。それに私も多少の戦闘の経験もある。それに片足での戦闘もエレインと訓練をしてある程度は習得できているつもりだ。
「おもしれぇ。力で勝負ってところだなっ」
「私たち議会はそのような暴力には屈しないわ」
「はっ!」
彼は剣を引き抜くと私の方へと一気に駆け出した。何も怖いことはない。私たちの助っ人には議会軍以外にもいるのだから。
「させませんっ」
「ユレイナっ、そこを退けっ」
「アレイシア様には一歩たりとも近付けさせませんっ」
そう彼女がいうと一気に体を回転させて、彼の方へと本気で斬りかかる。その攻撃は魔族に向けるそれと同様に非常に強力なものであった。
「アレイシア殿」
そんな彼女を見つめていると、背後から老人の声が聞こえてきた。彼女はセシルの祖父でもある人物、そして現在フィレスの師匠として彼女を指導してくれている人でもある。
そう、彼はサートリンデ流剣術六代目師範のガダンドだ。
「ガダンド師範、久しぶりね」
「ほほっ、そうじゃったか。最近時間が短く感じての」
「このアジトの情報には感謝してるわ」
「わしの教え子の訓練相手にでもと思っての。ちょうどよかったわい」
彼はそう言っているが、実際は私のために協力してくれたと言ってもいいだろう。ここに集まった人たちは全員彼の弟子だ。フィレスのように直接的な弟子ではないものの、それでも高い実力を持っている人たちだ。剣術学院でも高い成績を誇る未来の聖騎士団とでも言える。
そんな彼らを見て、私はエルラトラムの将来に希望というものを見出すことができた。ここで反乱因子を壊滅させる、そして議会と聖騎士団が密に連携することで魔族に対して強い抑止力になることだろう。それが私ができる最大の作戦なのだから。
こんにちは、結坂有です。
暗殺集団のアジトへと直接攻撃を仕掛けたようですね。しかし、彼らはそれ以外のこともどうやら考えていそうなそぶりでしたね。
それにしても、ガダンド師範が手助けしてくれるというのはとても心強いですね。
現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した物語も順次公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。
それでは次回もお楽しみに……
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