意志に反した別の作戦
私、ミリシアはレイとアレクの三人で議会の方へと向かっていた。今朝の段階でエレインやアレイシアには作戦のことを話しておいた。ただ、それよりも先にやらなければいけないことがある。それはこの国のどこかにいる暗殺集団という人たちだ。
ラフィンがこの国に来てからというもの、議会は大きく動き始めた。それでも彼らが何か行動してくることはない。ドルタナ王国の要人が亡命してきたということは新聞を通じてすでに広まっている。その人が第二王女かどうかまではもちろん秘匿にされている。
「そもそも今の今まで彼らが動いて来なかったこと自体が不思議だね」
「ええ、アレイシアやエレインを狙うタイミングなんて今まで何度もあったわけよ」
「でもよ。そいつらもあまり大きく動きたくないんじゃねぇか?」
レイがそういうのも理解できる。私たちがどれだけ強い部隊なのかは彼らのよく理解しているはずだ。それも議会に通じているらしいところもからも当然と言える。自分たちよりも強いとわかっている人たちに対しては慎重に作戦を組んでくることだろうと予想できる。
「だとしてもこちらもずっと待ち続けるのもできない話だ。この間にもドルタナ王国は魔族によって侵略されつつあるからね」
「……つまりは俺らから探し出すってことか?」
「まずそのためには彼らに餌となる情報を提示する必要があるわけよ」
「昨日の夜に言ってた僕たちがドルタナ王国に向かうってことだよね」
そう、彼らの警戒している私たち小さき盾が議会から離れるという情報を流すことだ。それにはリスクを伴うことにもなる。
私たちにはその集団の実力や実情を全く知らないということである。彼らがどのような目的で私たちや議会を狙っているのかわからないからだ。おそらく私たちが彼らを刺激するというのはエレインもあまり望んでいない様子だった。
これに関しては彼の意志に反する、いや彼を騙すような真似でもある。もしかすると私たちが多少危険な橋を渡ろうとしていることは気づいているのかもしれないが、それでも今やらなければいけないことには変わりない。
エルラトラムのためにもドルタナ王国のためにも、そして何よりも……
議会には小さき盾の専用の部屋が設置されており、厳重に鍵もかけられている。しかし、それは見た目だけであって中に入られたからと言って特に問題があるというわけではない。もちろん、家の方に入られては問題だらけではあるが、あの家に誰もいない状況なんてそうそうないわけできにする必要もないだろう。
「それで、わざわざ議会にまで来てどうすんだ?」
レイがそういうのも無理もない。議会に来たところで何か重要な資料があるわけでも、大きな仕事があるわけでもない。ドルタナ王国に出発するのは正式にアレイシアが議長として許可を出してからとなる。
その間は私たちは特に何かをするというわけでもないのだ。
「これも作戦のうちよ」
「作戦?」
部屋の鍵を閉めてから私は口を開いた。
「……具体的に暗殺集団が何をしようとしているのかは全く把握していない状況よね」
「まぁそうだな。情報がないわけだからな」
「ええ、レイなら情報がない相手と戦うとしたらどうする?」
「そりゃ、まずは探りを入れるとかか?」
普通ならそうするだろう。手段はどうであれ、彼らの情報を探ろうとするのが普通だ。しかし、それだけでは不十分である場合もあるのだ。相手が少数の場合なら私もそのようなことをしただろう。
ただ、今回の相手は集団であること、複数人存在することが確認されている。フィレスの報告によれば少なくとも五人近くは存在するらしい。
「レイの判断も間違いではないね。僕なら相手の出方を伺うかな」
複数もの相手の情報をすぐに把握できないとすれば、相手の行動を知ることになるだろう。事前の情報がなくても彼らの行動からその目的や次の動きを逆算したり、推測することができる。
少なくとも彼らはかなり計画的に行動しているのだろうとわかる。それなら私たちから妙な探りを入れるよりも彼らを誘き出してその行動を観察する方が得策だと言える。
「行動からその全てがわかるわけじゃないけれど、彼らはきっと動き始めるのよ」
「動き始めるって、なんだよ」
「アレイシアが部隊の多くをドルタナ王国への出動させるという指令が出た時にね」
「確かに出動命令は聖騎士団が主体となるわけだね。僕たちはこの議会で潜伏しておくってことかな?」
「簡単に言えばそういうことね」
これが本来の私たちの役割、小さき盾としての役割なのだ。懐に隠された強力なその盾は議長の安全を常に確保し続ける。
「今まで名前通りのことをしてこなかったからね」
「とは言え、暗殺集団なんて言われるぐらいだ。どんな手を使ってくるかわからないよ」
「少なくとも毒殺なんてことは難しいわね。アレイシアにはユレイナという専属のメイドがいるから」
彼女が食べる料理などに毒を盛るなんてことは現実的に考えて難しい。そもそも議会の食料は畑から直送され、議会の中で再度検査、調理するものだ。その検査に誰かを潜り込ませるにしても結局はユレイナに気づかれてしまうことだろう。そもそも、彼女が先に食べるのだから。
「じゃ少なくとも武器か何かで攻撃してくるってことか」
「だろうね。今までずっと動きを見せなかったんだ。あの発表があればすぐにでも動きそうだね」
「フィレスは彼らのことを見てすぐにでも仕掛けてくると思っていたみたいだからね」
彼女の話から血気盛んな人たちが多いということでもある。集団を指揮している人がいるのだとしたら、おそらく彼がそのような人たちを止めているのだろう。そして、動ける日が来たとすればすぐにでも動きに出ることが予想される。
もちろん、すぐにそう言った動きがないことも考えている。最悪な場合は聖騎士団がドルタナ王国へと向かってからの攻撃だってあり得る話だ。
「とりあえずは……」
そう今後の話をしようとした途端、扉が強くノックされる。
「まだ誰かいますよねっ」
扉をノックしたのはどうやらフィレスのようだ。
私は再び扉の鍵を開けてみる。
「何かあったのかしら?」
「あの、アレイシア議長がどこに向かったのかわかりますかっ」
「えっ?」
私の、私たちの想定していない状況となってしまった。しかし、これでいいのだ。
ただ、私たちには何をするべきかわかっている。
後ろへと視線を向けるとどうやらアレクも次にするべき行動が何か理解している様子だった。レイは……仕方ないよね。
◆◆◆
俺、エレインはリビングで昼食を食べていた。今頃アレイシアも昼食を食べている頃だろうか。それとももう移動を開始している頃だろうか。
「エレイン様、これからのことですが……」
「リーリアはルクラリズと商店街の方へと向かってくれるか?」
「……わかりました。想定が正しければそろそろ動いていることでしょうから」
リーリアの魔剣によれば、アレイシアはどうやら俺や小さき盾に隠れて何か大きな作戦を実行しようと企んでいるそうだ。その詳しい内容まではわからないとはいえ、議会から離れて独自で動こうとしているのは間違いない。
そのことについてはミリシアたちにも伝えている。彼女たちにはアレイシアをあまり刺激しないようにも伝えておいた。当然ながら、彼女が何かやろうとしているということをこちらが気付いていないように見せることが大切なのだ。
今朝もアレイシアにあの作戦の報告する前に俺に相談してくれたのが幸いだった。
「俺とアイリスは議会に直接向かう」
「お兄様。もう行かれるのでしょうか」
「そうだな。すぐにでも移動したほうがいいだろうな」
タイミングが大事だということもある。アレイシアが暗殺集団に狙われ、攻撃を受けた直後でなければいけないのだ。もちろん、その直前であれば暗殺してくる連中に気付かれて折角の機会が台無しになってしまうことだろう。
今から向かうのは少し早いかもしれないが、時間に関してはこちらでいくらでも調整することができるからな。問題ないと言えるだろう。
「では、私たちはエレイン様が向かってしばらくしてから商店街へと行きます」
「そうしてくれるとありがたい。アイリス、準備はできているな」
「はい。いつでも大丈夫です」
俺も剣を携えて玄関のほうへと歩いていく。
アレイシアを囮として使うわけではない。彼女がやろうとしている作戦はおそらく成功するだろう。ただ、不十分なだけだ。彼女の考えている作戦だけではその暗殺集団を壊滅させることができないのだから。
こんにちは、結坂有です。
ついにアレイシアが動き始めたようですね。彼女がやろうとしている作戦というのは一体どう言ったものなのでしょうか。
それにしても、ミリシアたちはあえて暗殺者集団を野放しにしていたようですね。
果たしてその作戦はうまくいくのでしょうか。気になるところですね。
現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した物語も順次公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。
それでは次回もお楽しみに……
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