表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
564/675

対処の矛先

 私、アレイシアは考えていた。自室でユレイナは寝る準備をしてくれている。足の不自由な私のためにこうしてベッドを整えてくれている。私も頑張ればできないわけではないが、議長としての仕事などで疲れているのだろうと彼女が善意で行ってくれているのだ。


「アレイシア様、終わりましたよ」

「いつも助かるわ」

「いえいえ、これぐらいすぐですので」


 確かに整えるだけなら足が不自由でなければすぐなのだろう。私としてはベッドなど定期的に、それも一週間に一度変える必要もないと思っている。ただ、睡眠の質を向上させるためにも、さらには美容のためにもベッドのシーツは交換しなければいけないのだそうだ。

 もちろん、聖騎士団として活動していた時はそのようなことは気にしたことがなかった。当然と言えば当然だ。戦場でそのようなことなど気にしている場合なのではなかったからだ。まぁ周囲からは折角の美貌が台無しなどと言われたこともある。美男美女の家系として生まれたのだ。その時ぐらいからもう少し気にかけていたら……

 いや、その時から誰かとお付き合いしていたらエレインと出会っていなかったのだろうか。


「アレイシア様、少しお顔が赤いように見えます」

「っ! 気にしないで」

「疲労が溜まってたりしないですか?」

「自覚できる範囲ではないわ。それに、風邪とかじゃないから」

「そう、それならいいのですけれど」


 そんなことよりも、早い段階で解決しなければいけないことがある。それは私やエレインを暗殺しようと企んでいる団体がいるということだ。


「……ユレイナ」

「なんでしょうか」

「明日の件、覚えているわよね」

「はい。視察のことですね」

「そのことは内密にできてる?」

「大丈夫ですよ」


 そう一言だけ、まっすぐな目で彼女はそういった。明日、私はユレイナとで外に向かうことにした。もちろん小さき盾のみんなにも内緒でだ。囮としてではなく、本当に視察に向かう予定があったのだ。

 いつまでも守られてばかりではいけないのだ。特にドルタナ王国の問題もある。自分の身ぐらい、自分で守らないといけないのだから。


   ◆◆◆


 翌日、時間を見ると正午前となっている。エレインである俺はリビングの窓からルクラリズとアイリスの訓練を見ていた。ルクラリズは以前より明らかに成長している様子で、小さき盾たちとの訓練でそれなりに経験も積むことができたのだろう。さまざまな戦いを経験したり、知ることで彼女自身も本当の意味で実力を身に付けてきている。それは俺としても見守るべきことであり、応援するべきことだろう。実際に彼女は全力で訓練に付き合ってほしいとアイリスに言っていたからな。とはいえ、まだ少しばかり早い気もする。

 まぁ今は彼女の成長をただ見守る段階で必要であれば俺からも指導する。そうすることで、彼女の中で自分自身の戦いを身に付けていくことになるのだからな。彼女もそろそろ自立を始める頃なのかもしれない。ただ、彼女たちの訓練を見て少し気になるところがあるのだが……


「エレイン様、ミリシアさんの作戦についてどう思われていますか?」


 すると、リーリアがそう俺に話しかけてきた。今朝、ミリシアからとある作戦についての話があった。正直なところ、俺はその作戦についてあまり考えていなかったわけだからな。

 その内容というのは聖騎士団の調査権限を利用して、ラフィンを荷物と一緒にドルタナ王国へと忍ばせると言ったやり方だ。もちろん、俺もそれに同行する形にはなりそうだがな。

 別のそのような作戦で全く問題ないと言えるだろう。聖騎士団の制服などを着込んだとしても完璧な変装なんてできないことだ。それなら少しリスクを取る形になってしまうものの、そのような方法で国内に入る以外は難しい。

 かといって、彼女を使わずに国内を俺たちが統治するなんて方法ははっきり言って難しいことだろう。

 ただ、潜入した後のことはまだ具体的には決まっていない。どのような状況になるのは未確定なことが多いからな。聖騎士団の人たちとのすり合わせもあることだ。追加で情報が入るまでは憶測で考えるのは控えた方がいいか。


「ああ、詳しいことは決まっていないようだが、俺もそれで問題ないと思っている。正面から俺も入れるとは思っていないからな」

「……個人的には聖騎士団を利用しても彼らが納得するとは思えないのですけれど」

「確かに聖騎士団についてはあまり信用されていないようだがな。とはいえ、契約を反故にするのは魔族も控えたいところだろう」


 魔族側からしてもエルラトラムに勘付かれるのは避けたいことだろうからな。とはいえ、向こう側がもしすでに準備が整っている状態であれば、その時点で正面衝突になることもある。

 ただ、ミリシアやラフィンの話から魔族はまだドルタナ王国の全てを乗っ取ることに成功はしていないようだ。


「そうかもしれませんね。私たちエルラトラムに気付かれるのは避けたいことでしょう」

「ただ気になる点といえば、暗殺集団の連中だ。今の今までなんの動きも見せていない」

「はい。気になるところではあるのですが、私たちから動くのは危険ですね」


 誘き出すというのは効果的だ。しかし、だからと言ってそれらを強引に押し進めるのは良くない。少なくとも誰かが囮役となってしまうわけだからな。俺ならともかく、彼らの本当の狙いがアレイシアならそれこそ大問題だ。

 少なくとも彼ら暗殺集団の本当の目的がわからない以上、そう言った真似はするべきではないし、してはいけない。彼らを刺激するのは今のところ得策とは思えない。

 そんなことを考えていると訓練を一通り終えたルクラリズとアイリスが戻ってきた。


「お兄様、いかがだったでしょうか」


 そこの窓から訓練を眺めていたということは彼女も気付いていたようで、訓練の様子を見ての感想を俺に求めてきた。

 アイリスに関してはいうまでもなく最高に近いパフォーマンスを発揮できていた。ルクラリズの奇襲に対してもかなりの精度で躱すことができていたのも評価できる。まぁ彼女に関しては高い実績を持っているということで今更何かを言うことはないか。それよりも気になることがある。


「ルクラリズの動きが妙に消極的になっていたな」

「えっ?」


 どうやらルクラリズ自身も自覚していない様子だった。確かにアイリスの動きに付いていけるかと言われればまだ彼女は実力が足りない。ただ、今回の訓練ではそれだけが原因ではないように感じたからな。もちろん、体調が悪いなどの要因であれば気にすることではないのかもしれないが。


「気になった点はそれぐらいだ。アイリスとの戦いで前に出ることは難しいか」

「……そうじゃないわ。彼女の動きは小さき盾の人たちとはまた違った機敏さがあるのよ」

「その動きに翻弄されたと言うことか?」

「そんな感じかな」


 彼女の中でもそう感じているのだろう。確かにアイリスの動きはミリシアやアレクのような動きとは違っている。俺に似た体捌きを彼女が知らずの間に習得しているのだからな。それが彼女の枷となっているのであればそれは止めるよう言うべきなのかもしれないが、アイリスの場合は問題ない。

 問題なのはルクラリズの戦い方に妙な癖が付いてしまうことの方が問題だろう。


「アイリス」

「はい」

「今後ルクラリズとの戦闘訓練ではあまりあのような動きはするべきではないだろう」

「私も今回の訓練でそう思いました」

「ちょっと、どう言うこと?」


 訓練場に向かう前、彼女は本気で挑んでほしいと彼女に言っていた。当然ながら、アイリスはその言葉通りにかなり力を入れて戦闘訓練に挑んだ。その結果、普通とは違った戦い方に慣れてしまうことになるのは彼女にとってもあまり意味のないものなのだろう。

 ルクラリズの場合はもっと一般的な戦い方から入るべきだ。


「少なくとも俺やアイリスからは普通の戦いを再現することは難しいだろうな」

「……すみません。私はずっとこのような動きをしていたもので」

「気にする必要はない。リーリア、次回からは頼めるか?」

「わかりました」


 まだルクラリズには応用を学べるだけの基礎、つまりは土台が足りていないのだ。そんな状態でアイリスのような高い技術を持った相手と訓練するのはまだ早いことだろう。それならその土台がしっかりと整ってからの方がいい。

 リーリアなら比較的正統派な戦いを再現できることはずだ。それに彼女の魔剣には相手の精神を読み取り、動きを予測する能力まであることだ。一般的な訓練では彼女に傷をつけることは不可能に近い。


「役不足、でしたか」

「そう言うわけではない。俺でも手加減は難しいぐらいだ」

「……そうなのでしょうか」

「俺も人のことを言えないが、どうやら俺たちの実力は一般のそれとは逸脱したもののようだ」


 そのことはこの国の剣術学院の様子からもよくわかる。最初はどのようにミーナやセシルと付き合えばいいか悩んだものだ。ただ、二人とも基礎訓練はしっかりとできていたために俺の訓練でもそこまで自身の戦い方に狂いは出なかった。

 しかし、そうとは言っても全ての人に俺たちのような戦い方を指導することはできない。ごく一般的な実力者なのだとしたらもっとオーソドックスな訓練をするべきだ。


「確かに言われてみればそうなのでしょう」


 アイリスはまだそのような経験がないのだから仕方ない。普通とは隔離された訓練をずっと行ってきたわけなのだからな。彼女の中の普通は俺や小さき盾の人たちと同じくずれている。


「まぁ自分に実力がないと思わない方がいい。基礎訓練がまだ足りないだけだ。自分の戦い方さえ見つけることができれば飛躍的に強くなれるはずだ」

「本当なのかしら」

「俺が保証する」


 そう真っ直ぐにルクラリズの目を見ながら言うと彼女は照れ隠しなのか俺から視線を逸らした。

こんにちは、結坂有です。


議会やエレインを狙う暗殺組織はなかなか動こうとはしない様子ですね。彼らも慎重なのでしょうか。

それにしても、ルクラリズはこれからもっと強くなっていくのでしょうか、強くなるとすれば、どこまで強くなるのか……

彼女のこれからにも期待ですね。



現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した物語も順次公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。


それでは次回もお楽しみに……



評価やブクマ、いいね!なども大変励みになりますので、押してくれると嬉しいです。

Twitterではここで紹介しない情報やたまにつぶやきなども発信していますので、フォローお願いします。

Twitter→@YuisakaYu

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ