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動きつつある影

 昼食を食べ終え、食器を片付けているとミリシアが俺に話しかけてきた。


「私がいない間、アレイシアとはどう過ごしてたの?」

「ラフィンがここに来てからは忙しそうにしているが、家では普通に過ごしていたな」

「家ではそれなりに交流があるわけね」

「そうだが、何か問題でもあるのか」


 俺がそういうと彼女は少しだけ考え込んだ様子で俺の方を向くとゆっくりと口を開いた。


「エレインはあまり気にしていないみたいだけど、彼女も本当はゆっくり休んでエレインと一緒にいたいと思ってるはずよ?」


 ミリシアがアレイシアに対して心配するとは思ってもいなかった。確かにアレイシアとはあまり会話をする時間が少なくなっていたのも確かだ。事態が少し落ち着いたら彼女との時間を作るのは別に悪いことではないはずだ。

 多少長く彼女が休暇を取ったとしても誰も文句は言わないだろう。議員も含め、彼女が頑張っているということは誰もが認めているからな。


「わかった。アレイシアのことも少しは考えてみる」

「ええ、その方がいいわ」


 ドルタナ王国でのこともある。その問題が終わればゆっくりと少し長めの休暇を取らせるべきだな。


   ◆◆◆


 私、フィレスは今日もセシルの祖父であるガダンド師範に剣術の指導を受けていた。議長やエレインを暗殺しようと企んでいる集団に関しては引き続き調査しているが、時間を見つけてはここで私は剣術の指導を受けているのだ。

 もちろん、諜報部隊としての仕事はしっかりと遂行している。


「それにしても本当に頑張り屋さんなのね」


 ガダンド師範から教わった型を繰り返し練習していると、カインがそう話しかけてきた。彼女はまだ彼の治療が完璧ではないとして定期的にこの屋敷へと訪れている。


「こうした機会は滅多にないわ」

「……確か、パベリの出身だったわよね」

「ええ、そうよ」

「そんなにエルラトラム剣術が知りたかったの?」


 それは当然のことだ。聖騎士団に憧れのようなものを抱いていた。剣術に触れ始めた頃からの夢でもあったのだ。いつかエルラトラムにある剣術を学ぶ機会があればとずっと考えていたのだ。

 パベリで生活している以上はそんなことできるはずもなく、自警団で教わる剣術を必死に学んでいた。ただ、エルラトラムで有名なサートリンデ流剣術での基本的な動作は他の剣術と比べて大きく変わっているわけでもない。どこかパベリ自警団の基本型と通じるところがある。


「ずっと自警団での剣術しか知らなかったからね。こうして他の剣術も学べるとなると自分としても成長できる気がするのよ」

「成長、ね」

「私はもっと強くなりたいの。そう思うのは悪いことかしら?」

「魔族が襲いかかってくる時代だからね。間違ってないわ」


 最低限自分の身を守るためには魔族の圧倒的な力に対抗できるだけの実力が必要なのだ。前の魔族との戦いで私は何もできなかったことがある。馬の足を斬られ動揺してしまったのは事実だが、それでも私自身がもっと強かったらあの場でも逃げ出すことができたかもしれない。

 少なくとも剣聖であるエレインや小さき盾のレイなんかは絶対に逃げ出すことができたり、なんならあの三体の魔族を倒していたのかもしれない。

 すると、彼女は続けて私に向けて口を開いた。


「でも、誰でも限界があるものよ。その限界を超える強さを求めるのは本来間違っていると思うの」

「というと?」

「つまりはね。自分に見合った強さを手に入れるべきってことよ」


 どこか彼女は何かを思い出すようにそういった。どこかで聞いたことを思い出しながら話しているのだろうか。どちらにしろ、彼女の言っていることは間違いではないはずだ。

 今の私がエレインやレイのような技を会得できるかと言われればそれは一生かけても難しいのかもしれない。

 自分に合った実力というのが必要なのかもしれない。今ここで教えてもらっているサートリンデ流剣術が自分に合っているかどうかはわからない。それでもガダンド師範が私の素質を見込んで教えていただいているのだ。少なくともその期待には応えないといけないだろう。


「そうね。頑張り過ぎるのもよくないわね」

「……本当に」


 そう言い残すように彼女は言うと訓練場から出ていった。私のことを心配してくれていたのだろうか。どちらにしろ、気負い過ぎていた気持ちが少し軽くなったのを自覚した。


 それからしばらく訓練を続ける。時刻は昼を過ぎた頃だ。流石に一日中訓練をし続けるわけにもいかず、私は議会の方へと戻っていた。

 議会に戻るとなぜか職員の人たちが忙しなく動いていた。話によるとドルタナ王国の調査に向かっていたミリシアとレイが戻ってきたようだ。予定からかなり早い帰国となるのだが、議会でのこの状況といい何かがあったに違いない。

 それにしても第二王女ラフィンがエルラトラムに亡命してからのこと、かなり事態が大きく動き始めた印象だ。

 私が暗殺集団を議会に報告した時とは違った雰囲気が漂っている。何か良くない予感が私の中に募っていく。


   ◆◆◆


 俺、ブラドは議会の地下にある諜報部隊の拠点でとある資料を見つめていた。それはフィレスが報告した暗殺集団についてのことだ。

 報告に関して疑問はないものの、今のところなんの動きが見られないのが奇妙で仕方がない。

 そんなことを考えながら資料を眺めていると扉が開いた。


「訓練はもういいのか?」

「はい。大丈夫です」


 彼女は暗殺集団を発見した時に、サートリンデ流の師範と出会ったそうだ。それからは彼の元でエルラトラム剣術を学んでいるのだそうだ。段階としてはもうサートリンデ流の奥義の一つぐらいは覚えているぐらいだろうか。彼女には高い素質があるからな。それにパベリにいた頃ではかなり基礎訓練を積んでいたそうだ。それは彼女の戦いを見ていてよくわかることだ。


「私の報告書を読んでいたのですか?」

「ああ、この報告からそれなりに時間が経っているのに何も動きがないのが不気味でな」

「確かにそうですね」


 そのことに関しては彼女も不気味に思っているそうだ。とはいえ、何も動きがないのであればこちらとしても行動できないのも事実だ。アレイシアやエレインを囮にするわけにもいかないからな。彼女の報告によると聖剣を使っているのは事実なようだしな。そんな危険なことはやらない方がいいか。

 ただこのまま何も起きないでいては少しばかり強行的なことでもしないといけないのかもしれないが。


「……まぁ状況として何も起きていないように見えて、裏では何者かが動いているのだろうな」

「私たちの知らないところで、ですね」

「そもそも議会も聖剣使いの全てを把握しているわけではないからな」


 聖剣の登録はもちろん義務付けられているものの、それも全てが完全に機能しているわけでもない。事実、魔剣と呼ばれるものは把握することが難しい。理由としては魔剣に宿っている堕精霊の気まぐれで所有者が変わることだってあるからな。

 話によればユウナに奇襲を仕掛けたバグドール流棒術宗家、ベルゼ大師範が使っていた魔剣も急に機能しなくなったのだからな。当然ながら、ほんのちょっとしたことで魔剣に宿っている堕精霊は自分の主人を切り替えるのだからな。

 俺も気を緩めていると手にしている魔剣が使えなくなってしまうかもしれない。まぁ小さき盾やエレインの魔剣がそう主人を見限るようなことはないのだろうがな。


「登録されている聖剣使い以外の人たちが関わっているのですか?」

「これだけ調べても集団の尻尾すら、なんなら足跡すら見つかっていない。登録されていない連中による計画だろうな」

「その場合はどうすればいいのでしょうか」


 まぁフィレスもそう疑問に思うのも仕方がないことだろう。聖剣使いは必ず登録されているものと思っているのだからな。ただ、現実はそうじゃない。議会の職員が試算した数ではあるが、百人近くは未登録の聖剣使いがいるらしい。


「調べるのが難しいのならこちらとしても打てる手が限られる」

「やはり、以前言っていた囮作戦でしょうか」

「少なくとも今はそのようなことは考えていない。ただ……」

「なんでしょうか」


 このことに関してはエレインやアレクも知っている。作戦を考えられるミリシアももう戻ってきているとのことだ。俺たちが何かをする前に彼らが行動を起こすかもしれないな。


「いや、剣聖や小さき盾の動向に関しても監視する必要があるだろうな」

「彼ら自身で解決するかもしれない、と言うことですね」

「まぁそう言ったところだろう」


 他のスタッフにも声をかけて彼らの活動についても少しは調べてみる必要があるな。

こんにちは、結坂有です。


ついに諜報部隊も暗殺集団の動きについて警戒し始めた頃ですね。

それにしてもフィレスはどこまで強くなっていくのでしょうか。彼女の成長にも注目したいところですね。


現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した物語も順次公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。


それでは次回もお楽しみに……



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