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境界を越えて

 俺、エレインはラフィンの剣技を見て確信したことがあった。もちろん、彼女の持つすべての技術が俺やアイリスのそれと同じだとは思わない。かなりアレンジされているところがあるからだ。

 彼女に剣技を教えた師匠はセルバン帝国へと向かったことがあると言っていたが、それがある程度関係しているのだろう。


「剣聖エレインがセルバン帝国の人だったのですね」

「ああ、公になっている情報ではないがな」

「……そのようなことを私が知ってしまって大丈夫なのでしょうか」

「ラフィンは秘密を口外するような人でもないだろう。それにここに住んでいる限りは情報を悪用するのも難しい」

「そう、ですね」


 彼女がここで得た情報を流布するのは保護されているという今の状況ではなかなか難しい。彼女の状況も踏まえて俺は秘密を話すことにしたのだ。

 突発的な理由で話をしたわけではない。


「それよりもラフィンにその剣術を教えた師匠とやらに興味があるな」


 俺がそういうと彼女は何かを決心したかのように顔を上げた。


「わかりました。可能性としては低いですが、私がドルタナ王国に戻ることができれば……」

「エレインっ」


 ラフィンがそこまで言いかけたところで訓練場にミリシアが戻ってきた。ドルタナ王国へと向かっていた彼女とレイではあるが、任務が終わり戻ってきたようだ。にしても、予定よりかはずいぶん早い帰国だな。


「ミリシアか、もう戻ってきたのか?」

「今戻ってきたところよ。それより……」

「ドルタナ王国第二王女のラフィンと言います。話はアレクさんから聞いています」

「早速なんだけど、聞きたいことがあるの」


 調査に向かっていたこともあり、王国のことで何か確認したいことでもあるのだろうか。まぁ彼女の剣技についてもよく知ることができたし、別に問題ないか。

 ちょうど時間も昼ごろとなる。昼ごはんを食べるにもちょうどいいことだろう。


 それから俺たちはリビングの方へと向かい、昼食を食べるついでにミリシアの話を聞くことにした。リビングに戻るとどうやら作り置きの昼食が用意されていた。ここではリーリアやユレイナのようなメイドがいるわけでもなく、毎回料理を作っていては時間がもったいないとのことで保存できる料理を一度に大量に作ってそれを食べているらしい。

 それでも味はしっかりとしたもので、これらの料理はどうやらラクアとセシルが考えた料理のようだ。


「私に話がしたいとのことですが、どのような話でしょうか?」


 スプーンでスープを混ぜながらラフィンがミリシアにそう言った。


「色々聞きたいところなんだけど」

「はっ、まずは王城のことじゃねぇか?」


 すると、スープを一瞬で飲み干したレイが口を開いた。確かに彼女は王城での生活が長かったと言っていた。その点でも彼女に聞きたいことがあるということのようだ。もちろん、彼女の聞きたいすべての疑問に答えれるわけではないだろうが、参考程度にはなるはずだ。


「そうね。王城ではいつもどのような暮らしをしていたのかしら」

「一般的な生活ですね。とは言っても庶民とは違うのでしょうけれど……」

「私たちが想像するような王家の暮らしで大体会っているってことよね?」

「他の国とほとんど大差はありません。それに王国と言う通り、私たちが政権を握っているようなものですから内政を統治したりしていますよ」


 そう言うラフィンではあるが、ミリシアはまだ納得していない様子だ。そんな彼女の様子を見てラフィンは話を続ける。


「ただ、一つだけ他の王家と違うのは私たちも魔族と戦うことがあると言うことです。それも前線でですね」

「前線で戦うのかい?」

「ええ、元々ドルタナ王国は私たちの先祖である剣士が魔族を退けたことから始まっています」

「……それで王家も剣士として前線に立つことがある、ってことなのね」


 その話を聞いていたアレクやラクアはそう解釈した。確かにそのような伝説があって王家が生まれたのだとすれば、形式上でも前線に立つ必要のだろう。


「その、第一王女の件は?」

「そうですね。王権争いがあってそれ以降はあまり仲が良いとは言えませんね。ただ、子どもの頃はよく一緒に遊んでいたものです」

「第一王女ジェビリーがラフィンを追い出した、それで間違いないわけね」

「大方、その通りで間違いないです。ですが、私自身それには若干の違和感を覚えています」


 すると、彼女は少し落ち込んだ様子でそう話す。

 以前少し話していたことだ。ジェビリーが魔族に乗っ取られていたのではないかと言うことだ。

 しかし、そんなことは今となっては確認することもできない。ミリシアたちが何か情報を掴んできたのなら話は別なのだが。


「第一王女が魔族と結託している、もしくは魔族が彼女に成り代わっていると言う可能性のことね」

「はい。そのような可能性はかなり低いと思いますけれど」


 そうラフィンは言っているが、ミリシアは何か確信があるようだ。彼女のあの目は自分の推測に間違いないと信じている目だからな。


「私たちが王国に調査したのだけど、やはり魔族が何かしら関与していることは明らかよ」

「魔族が、ですか」

「ええ、それも王城に入り込んでいるわ」

「王城に入ったのですか?」

「入っていないわ。でも、私たちに協力してくれたアギスって人が王城の異変に気付いていたの」

「アギス……」


 ミリシアの言ったその名前に何か心当たりがあるのかラフィンはスープを少し啜ると俺の方へと視線を向けた。


「先ほど言っていた私の師匠のもう一人の弟子です。実力で言えば私よりも強いはずです」

「知り合い、なのね」

「修行していた時に少し話した程度です。彼は確か城壁の警備を担当していたと記憶していますが……」

「そうね。それで私たちは何事もなく脱出できたの」


 王国での協力者も見つけたと言うことか。確かに国勢が不安定になれば国家に対して不信感のようなものを抱くのだろう。

 おそらくそのアギスと言う人も自分なりに何かを調べていたのかもしれないな。


「やはり、私の想定は間違っていなかったようですね」

「そのようね。少し私たちにも聞かせてもらえるかしら」


 それからラフィンは自分の想定していたことをミリシアに話すのであった。


   ◆◆◆


 私、アレイシアは少しばかり違和感を感じていた。


「アレイシア様、どうかなさいましたか?」

「ミリシアの報告を聞いてちょっと違和感があったのよ」

「違和感ですか?」

「ええ、第二王女が逃げ出してきたこと、第一王女が魔族と結託している可能性……」

「確かにそうですね。王権争いにしては妙ですね」


 そのことについてはユレイナも感じていたようだ。もちろん、ただの王権争いというわけではないだろう。


「可能性は極めて低いって言ってたけれど」

「魔族が王女と成り代わっている、ということですか」

「そうね。幸いにも第二王女はうまく逃げ出すことができたみたいね」


 少なくとも彼女がドルタナ王国から抜け出すことができなければ、今頃知らない間に国家が魔族によって侵略され、人知れず魔族の統治下にあっただろう。


「少なくともミリシアさんも今頃彼女と話されて気付いていることでしょう。王国のことは彼女たちに任せるべきだと思います」

「私も何かしないと……」


 そうゆっくりと立ち上がって資料を取ろうとした途端、急に体が宙に浮いたような感覚がした。立ちくらみだろうか。


「大丈夫ですか?」

「……ええ、大丈夫よ」

「ここ最近ずっと働き続けています。少しは休むべきかと思います」

「でも私が議長なの。ちょっとでもやるべきことをしないと」


 そう再び立ち上がろうとする資料を整理していたユレイナが近寄ってくる。


「無理は禁物です。アレイシア様、ミリシアさんたちのことをもう少し信用してはどうでしょうか」

「信用しているわ」

「いいえ、まだ信用しきれていないから頑張っておられるのでしょう?」

「……」


 考え直してみれば、彼女の言う通りなのかもしれない。彼女たちのことを私は知らず知らずの間に支援しなければいけない存在だと思い込んでいた。

 小さき盾の彼らが自分たちで問題を解決できると言うことは今までのことからわかっていたことだ。


「ここは彼女たちに一任して、私たちは見守ることにしましょう」

「……そう、ね。少し過保護になってしまったかもしれないわね」

「はい。資料の整理は私がしますので、今はゆっくりと休んでください」

「そうさせてもらうわ」


 私がやるべきことは小さき盾や剣聖の自由を確保することだ。それ以上の問題解決まではしなくていいと言うことだ。今まで少し働きすぎたのかもしれない。

 座っている態勢を少し崩して楽な姿勢となる。足を伸ばすと知らず知らずの間に蓄積されていた疲れを感じる。これからは息抜きをしたほうがいいのかもしれない。私のためにも、彼らのためにも。

こんにちは、結坂有です。


少し働きすぎだったアレイシアですが、これからは少しずつ息抜きを覚えていくことでしょう。

それにしても暗殺集団は何を考えているのでしょうか。気になるところですね。



現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した物語も順次公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。


それでは次回もお楽しみに……



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