表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
560/675

戻ってきた潜伏者

 私、ミリシアはアギスの協力もあって無事にドルタナ王国から脱出することができた。状況としてもまだ私たちが手配される前だったということで城門も警備がまだ手薄だったことも大きいだろう。

 早い段階で脱出を決意したのは今となっていい判断だったと思っている。その決断を促してくれたレイには感謝しないといけない。

 ドルタナ王国から脱出した私たちはまた数日間かけてエルラトラムへと戻ることにした。どこかに行くということもなく、早くあの王国の状況を伝えないといけなかったからだ。


「にしてもここに戻って来るのは久しぶりだな」

「ええ、第二王女とは入れ違いになってしまったけれどね」

「もう少し早く来てくれたらよかったのにな。まぁ今考えたところで仕方ねぇよ」

「まぁそうね」


 エルラトラムに到着した時刻はちょうど九時を過ぎたばかりだ。関門近くの店も徐々に賑わい始めている。魔族が占領していた領土を聖騎士団と私たち小さき盾が奪還したことにより、貿易が今までよりも自由に、安全にできるようになった。

 それからのこと、ここでは国外からの貿易品などが以前より活発に販売されるようになったのだ。当然ながら日に日にこの場所は発展するようになった。

 こうして貿易などを通じて、互いを支え合うことでより強固になっていく。国家の関係も結局のところ人と人との交流なのだ。こうした協力は絆をより強固にするのだから。

 そんなことを考えながら、街中の様子を馬車の中から眺める。そして、私たちが向かった場所は小さき盾の拠点ではなく、議会の方へと向かっていた。


「それで、議会へはどう説明すんだ?」


 議会の中を歩いているとレイがそう話しかけてきた。まぁそう考えるのも当然のことだ。私たちは物的証拠なんてものは何一つ持ってきていない。ある情報というのは全て私たちの証言のみとなる。


「大丈夫よ。私たちはあの国であった事実をただアレイシアに報告するだけよ」

「事実?」

「ええ、あの国で起きていることは普通に考えても異常なことばかりよ」


 そのことについてはレイも気付いている事だろう。自分たちの身に起きた事実だけでもあの国の異常性は説明できる。物的証拠はなくとも私たちの証言となればある程度は信用してもらえることだろう。

 一つ懸念があるとすれば、私たちの証言の後のことが気になる。あの国では異常事態が水面下で起き始めているというのは間違いない。ただ、他国であるエルラトラムができることなどあまりないように思える。もちろん、国家として追求することもできるだろうが、少しでも手段を間違えてしまうと国家間の戦争となってしまいかねない。私たちエルラトラムとドルタナ王国とではそこまで仲がいいという関係ではないからだ。


「どちらにしろ、証言しなければいけないわ。その後のことはまた考えればいい話よ」

「……まぁそうなるか」


 そうしていると、議長室の前へと到着した。どうやらまだアレイシアは仕事しているようだ。

 私がノックすると中からユレイナが返事をしてくれた。


「……ミリシアさん、レイさん、無事に帰ってこれたのですね」

「ええ、予定よりも少し早い帰国だけどね。それよりもすぐに報告したいことがあるのだけど」

「報告ですね。アレイシア様はまだ会議中でございます」

「じゃ、中で待たせてもらうわ」


 私がそういうと彼女は部屋の中へと案内してくれた。

 議長室の机は以前と変わらず紙の山に埋もれている。議長としてやらなければいけないことは多いとは聞いているが、今回は少し違うように感じた。


「アレイシア様は色々と調べている最中でございます」

「何を調べているの?」

「具体的にはこの国のどこかに言えると思われる暗殺者集団のことでございます」

「解決はまだできそうにないってことね」


 私たちがドルタナ王国へと向かう前にアレイシアとエレインを狙う集団がいるという情報があった。直近の問題というわけでも、魔族が直接関与していないということで後回しにしていたのだが、同時期に起きたと考えると何かしらの関与があるのかもしれない。

 すぐに解決するだろうと見ていたものの、案外そういうわけでもないのかもしれない。


 しばらく議長室で待っていると、時間になったのかユレイナが会議室の方へと向かっていった。時刻を見てみると十一時となる直前であった。


「アレイシアも大変そうね」

「……議長ってのはそんなにも忙しいもんなのか?」

「本来ならもう少し休めるはずなんだけどね。最近は色々とやらないといけないことがあるでしょ?」

「あぁ、魔族のこととかか?」

「そんなところね。それに今回に関してはドルタナ王国のこともあるだろうし」


 急に他国の要人が来るとなれば確認しなければいけないことが多いはずだ。負担をかけたくないとは思っているが、周り回って彼女の負担を増やしてしまっているのは私たちも反省しなければいけない。

 彼女はエレインに対してかなりの好意を寄せている。それは側から見ていてもわかることだ。彼女ばかりに負担を強いて、私たちが少し楽をしているのは不平等というものだ。

 今回の事件が落ち着いた頃には私たちの方で休ませてあげたい。

 そう考えていると議長室の扉が開いた。


「……あ、本当に帰ってきてたのね」

「ええ、それよりも疲れとか溜まってないかしら?」

「大丈夫よ。山場は越えたところだから」


 彼女はそう言いながらゆっくりと、その紙に埋もれた議長室の机へと座る。

 山場は越えたと言ってもまだやらないといけないことがあれほどあるのは見ているだけで申し訳なくなる。


「それで、報告っていうのは?」

「結論から言わせてもらうと、あの国は現在混乱状態にあるようなの」

「混乱状態、でも第一王女はいるのでしょ?」

「いるみたいだけどほとんど機能していないみたいなものよ。王城に入ったことがある人に聞いてみてもやっぱり何も動いていないようだし」


 脱出する直前にアギスから聞いた話だ。詳しいことまでは彼もわからないらしい。まぁここでの報告で推測を並べるのは意味がないだろう。


「やっぱりラフィンの言ってたことは本当なのかもしれないわね」

「あ、そうそうその第二王女は今どうしてるのかしら」

「今はあなたたち小さき盾の拠点で一時的に保護している状況よ」

「確かにその方が安全ね」

「それより、ドルタナ王国のことに関してはすぐにでも動いたほうがよさそうね」


 そう言って彼女は紙の山から一つの資料を取り出して私へと渡す。


「これは?」

「魔族の関与が少しでもあるようだし、十分に私たちが干渉する理由があるからね」

「まぁ確かにそうだけどよ。誰が王国に行くんだ?」

「……」


 そうレイが彼女に質問すると、彼女はあからさまに落ち込んだ。

 資料へと目を向けるとそこには剣聖エレインを出動させるような内容が書かれていた。アレイシアとしてもあまり許可したくなかったのだろう。

 しかし、事態は今も刻一刻と進んでいる。悠長にしていては本当に取り返しのつかない事態に陥ることだってあるだろう。


「私たちの方でもこのことは検討するわ。明後日にも出撃できるようにするから」

「ええ、助かるわ」

「……それと、心配しなくて大丈夫よ。私にも考えがあるから」

「考え?」


 資料をざっと読んでみたところかなり自由度の高い任務になるということがわかっている。やり方によってはエレインにだけ重責を負わせる必要がなくなるということだ。少し強引ではあるが、聖騎士団とも連携して王国に向かうことだってできるはずだ。


「悲観的になる必要はないわ。私たちがなんとかするから」


 そう私は笑顔で彼女にそう言って見せた。

こんにちは、結坂有です。


ミリシアたちは無事にエルラトラムへと戻ってこれましたね。ですが、まだ一つも問題は解決できていません。王国のこと、アレイシアやエレインを狙う暗殺者に関してはわからないことばかりのようです。



現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した物語も順次公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。


それでは次回もお楽しみに……



評価やブクマ、いいね!なども大変励みになりますので、押してくれると嬉しいです。

Twitterではここで紹介しない情報やたまにつぶやきなども発信していますので、フォローお願いします。

Twitter→@YuisakaYu

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ