知らない方が良い情報
議会での会議が終わり、会場から議員が大量に溢れてくる。
今、議会と聖騎士団は敵対関係にある。直ちに戦争状態になるということではないようなのだが、緊張状態が続いているというのは変わりないようだ。
「ユウナ・スティングレイか」
「はい。お待ちしておりました」
私、ユウナは議会の外で目的の人を探していた。
「セルバン帝国の剣士と聞いていたが、何ともか弱そうな腕だ」
私はエレインとともに訓練を続けていたのだが、ある日エレインがある男によって特殊な施設へと運ばれてしまった。
彼がどんな訓練をしているのかとずっと疑問であったとはいえ、今こうして強くなっているのは確かだ。
だから私はあの訓練を酷いものだとは思っていない。
過酷を極めていた訓練は今こうして強い存在へと成長させてくれた。
まぁ教官に休みたいといえば自由に休ませてくれたのだが……
「腕力が全てではありません。剣術というものはどのように剣を振るか、それだけなのですよ」
「ほう、確かにその通りだ」
私が今話している男の人はこの国でそれなりに名を馳せている剣士のようだ。
それで議会の改革を望んでいる人でもある。
「ところで、聖騎士団の動きはどうだ」
「はい。命令によれば魔族の侵攻を引き起こそうとしているようです」
「いい兆候ではあるか。お前の地位についてだが……」
そういうと男は発言を一旦止めた。
セルバン帝国が滅んだ直後、私とミリシアさんはすぐにエルラトラム聖騎士団団長によって保護された。
ミリシアさんは団長直属の護衛騎士として、私はそのまま聖騎士補佐に抜擢された。
聖騎士補佐とは見習いのようなもので、普通は学院などで聖騎士団に入るのが一般的なのだが誰かの推薦によって聖騎士団とは別の補佐として指名されることがあるそうだ。
もちろん、正式に団員として認められるには学院を卒業する必要がある。
今は聖騎士補佐という地位なのだが、彼に協力することで討伐軍に正式に入隊させてくれるそうだ。
「どうかしましたか?」
「いや、このままいけば討伐軍の地位は保証する。だがその前に討伐軍が壊滅しなければいいのだがな」
確かに魔族の侵攻に耐えることができなければ、討伐軍は壊滅してしまうかもしれないのだ。
「そうですか。私は討伐軍に入れなくても大丈夫です。しっかりとした地位に落ち着けるのなら」
「……そうか、もし壊滅してしまったら別の代替案も検討しておこう」
「ありがとうございます」
実はこの話し合いはブラド団長は知っている。
団長は革命派の議員を利用することで議会の内部から変革を起こそうとしているようだ。
そして、私の中途半端な地位も獲得できるという一石二鳥というわけなのだ。
「私たち議員がするべきことは国の治安を整えること、そのためなら敵である魔族を利用することも検討しているからな」
「……できることならそうしたいところですね」
私は魔族が嫌いだ。
私とミリシアさん、そしてエレイン様の故郷を破壊したのだから。
そうだけど、憎しみだけでは何も変わらない、生まれない。
利用できるのなら利用して目的が達成すれば、殲滅するのもいいのかもしれない。
その目的とは、私とミリシアさんが無事にエレイン様と合流することなのだ。
そのためならなんでも利用するべきではないだろうか。
そして、そのあとはあの憎き魔族を見返してやるのだ。
「では、その方向でよろしくお願いする」
「はい。これからも情報は提供いたします」
「頼んだぞ」
私は議員の男に軽く頭を下げた。
団長はこうすることで議会を内部から変革することができると言っている。
そこまで私も頭がいいわけではないが、ミリシアさんと一緒に考えたと言っていることから信頼できる作戦ではある。
大きな戦争を起こさずに議会の仕組みを変えるにはこうするしか方法がないのだろうから。
それから私は聖騎士団本部に戻った。
聖騎士補佐だから、当然内部に入ることができる。しかし、それでも入れない場所はいくつかあるものだ。
警備があるところには入ることが許されていない。
とは言っても誰かが付き添っていれば問題ないとのことだそうだ。
「お待たせ」
自分一人では入れない場所である人を待っていると、廊下の奥からその人が現れた。
「ミリシアさん。そこまで待っていませんよ」
「それならいいんだけどね」
そう言って彼女は警備の人に自分の紋章を見せる。
彼女は団長護衛騎士という聖騎士団とは別の団長だけの騎士である。
もちろん、私なんかよりも何倍も強いミリシアさんにはそれぐらいの地位が与えられても不思議ではない。
「こっちよ」
彼女はそう言って手招きをする。
この警備のある場所は聖騎士団本部にある図書館である。
ここには聖騎士団の保有するあらゆる情報が書類として残っているそうだ。
図書館の中は非常に広く、ここにある書物を読むだけでも三年以上はかかるかもしれない。
三年もかかる前に一ヶ月ほどで私の脳がパンクしそうだが。
「ここにあるの半分ぐらい読んでみたんだけど、やっぱりあの議会は秘密がありそうね」
「秘密ですか?」
「うん。えっと……」
ミリシアさんは背伸びをしてある書物を棚から取り出した。
「これをみて欲しいのだけど」
そう言って本を開いて見せる。
そこには議会の活動記録が残っていた。
今から十年以上も前の資料なのだが、そこにははっきりとこう書かれていた。
『セルバン帝国の聖剣提供要請について』
私たちの国であったセルバン帝国が聖剣を提供して欲しいと今いるエルラトラムに要請したそうだ。
しかし、ここに書いてあるのはそれらをうまく回避するための言い訳みたいなものが羅列されていた。
「拒否理由にはいくつかあるわね。主に国防上の理由で聖剣を提供しなかったみたい」
「それってどういうことなのですか?」
「簡単に言うと、その提供した聖剣を使って何をしたいのかはっきりさせなさいってこと」
聖剣というのは魔族侵攻以降の軍事力を示している。
エルラトラムは世界唯一の聖剣生産国である。そのため他国を引きつけないほどの軍事力を持っていることになっている。
そして、エルラトラムがその聖剣を国に提供することで魔族の被害から世界を守っているのだ。
エルラトラムには非力な国に聖剣を提供する義務があるのだ。
それを国防上の理由と言って一蹴するのは良くないことではないだろうか。
「魔族の攻撃に対して防衛力を高めるため、そうではないのですか?」
「ええ、ここの要請書にもそう書かれているわ。でもセルバン帝国は世界で一番の技術力を持っている国なの。だから聖剣を使って何か悪いことに使われないかと考えたようね」
いくら技術力を持っていたからと言って聖剣を複製することは不可能だ。
聖剣を作るには精霊を宿す必要がある。エルラトラムのように精霊と保護協定を結んでいないセルバン帝国にはそもそも不可能なのだ。
「そんな馬鹿げた理由で拒否したのですね」
「そのようね。エルラトラムにはこうするべき理由があったのかもしれないわ」
セルバン帝国に聖剣を提供しない本当の理由があるのかもしれない。
ここには国防上の問題と言っているが、本当は違う要因があるはずだと彼女は言っている。
「そうなのですか?」
「色々と探してみたのだけど、それについて書かれている書類は今のところ見つかっていないわ。私の推測なんだけど、おそらくエルラトラムがセルバン帝国の何かを知っていてそれが許せなかったと言ったところかしら」
帝国がどのようなことを考えていたのか私やミリシアさんにはわからない。
他国と比べて異常なほどに技術が発達していた帝国なのだ。
エルラトラムが調べないわけがない。
「私たちのような人間を育成しているということですか」
「それもあるのだけど、多分それだけじゃないと思う。もっと裏がありそうね」
それは私たちすら知らない帝国の幹部でしか知らない真相があるのかもしれないということ。
すると、ミリシアさんは本を閉じて口を開いた。
「まぁこれ以上のことは知らない方がいいのかもしれないわね」
「……気になりますが、そうですよね」
国同士の関係だ。
どんな闇が潜んでいるのかわからない。
過去のことを色々と調べる前に現状をどうするか考えるべきなのだろう。
それから私たちは図書館でゆっくりと過ごした。
こんにちは、結坂有です。
今回はいつもより一時間早めの投稿となりました…
政府で考えられている思惑など私たちは知りません。
ただわかるのは結果だけなのです。
エルラトラムが抱える問題というのは色々と謎が深まるばかりですね。
今回にてこの章は終わりとなります。
次章からも戦闘シーンが多くなりますのでお楽しみに!
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