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幕間:仮定の話

 私、リーリアはエレイン様とアイリス様がラフィンのところへと向かった後、ルクラリズとリビングで話をしていた。最初、話の内容は化粧の仕方とか髪の整え方などだったものの、途中からエレイン様に対してのことになった。


「……それで、エレインとはどうなの?」

「どう、ですか。いつも通りご主人様にお慕えしているだけでございますが」

「そういうことじゃなくてさ。ミリシアも言ってたんだけど、最終的にはどう付き合っていきたいの?」


 彼との今後の展望について聞いているのだろうか。別にこのままずっと彼のメイドのままでも構わないと思っている。いや、そうしたいと思っている。それ以上を求めるわけでもないのだ。


「このまま生涯メイドのままお慕えしたいと考えています」

「本当にそれだけでいいの? 結婚とかは?」


 彼女は一体ミリシアたちとの交流の中でどこまで人間社会のことを知っているのだろうか。


「結婚などは考えておりません」

「好きなんでしょ? 彼のこと」


 小さき盾の人たちと交流していくことでより人間的になった彼女は徐々に恋愛的なことについても理解するようになってきたのだろうか。もしそうであれば、私の思っていることも理解していているということになる。


「もちろん大好きでございます。しかし、それは叶わぬ夢というものです」

「叶わぬ夢?」

「はい。以前にもお話ししましたが、私は彼の知らない秘密まで知っています。知ってしまったのです。恋愛的感情があったとしてもそれは許されないことだと考えています」


 私には誰にも言えない彼の秘密を知ってしまった。私の魔剣で彼の精神分析をした時、彼の深層記憶に接続した。彼の忘れてしまったような幼い記憶なのだ。もちろん、彼はその記憶を知ることはない。自覚することもない。

 知ってしまった秘密、それも私の自分勝手な考えで覗いてしまった記憶。到底許されるようなものではない。裏切り行為だと言われても否定することはできないのだから。


「そうは考えてるけど、感情はなかなか付いて来れてないんでしょ」

「……それに関しては否定しかねますね」


 事実、彼女の言う通りだ。そう思っていたとしても彼に対する想いの全てを制御することはできない。今はスカートの裏に隠している魔剣の力で制御できているとはいえ、その安全装置が外れてしまった場合、またご主人様に迷惑をおかけすることになってしまうのは目に見えている。

 日々蓄積されていく想いはいつか何かで昇華しなければいけない。精神的な訓練は十分してきたつもりだが、こうした恋愛感情を制御することなんてなかなかできることではない。理屈を超えた特殊な感情なのだから。


「でもさ。セシルから聞いたんだけど、この国って一夫多妻制なんでしょ?」

「はい。伝統ある貴族の方々がおられますし、古くから血筋などを大切にしている一族も多いことですから」

「だったら、第二位とか、内縁の関係になるとかあるんじゃないの?」

「っ! ルクラリズさん、一体どこまで聞いているのですか?」

「あっ、取り乱してる」


 そう言われ、彼女から視線を逸らしてゆっくりと息を吐く。

 どんな表情をしているのかはもう言うまでもないだろう。きっと耳や頬が紅潮しているはずだ。無意識ながら髪を触ってしまっているのがその証拠だ。

 そう自覚してそっと手を下ろす。


「……正直なところ、ルクラリズさんの言うような関係でもいいのではないかと思っていました」

「案外すんなりと認めるのね」

「否定したところで意味がありませんので」


 彼女は「ふーん」とだけ言って机の置かれた紅茶を飲み干した。

 私ばかりが質問されるのはどうも不公平に感じる。彼女もエレイン様に対して強い想いのようなものが芽生えていると私は考えている。


「……逆にルクラリズさんはどう考えているのですか?」

「私? 私はくっつきたいと思ってるわ」

「くっつきたい、ですか」

「気になるでしょ? 私とエレインの……」


 そこまで言って彼女は私を試すように覗き込んでくる。一体どこでそのようなやり方を覚えたのだろうか。きっとミリシアさんが変な入れ知恵をしたに違いない。しかし、私はそのような問答には慣れている。


「子供とか」

「っ!」


 直前までの余裕は彼女の”子供”発言で一瞬にして崩れてしまった。


「ダメですよ。人間と魔族となんて前代未聞です」

「人間の世界ではそうかもしれないわね。でも魔族の世界ではよくある話、事実魔族の子を人間が産むってことがあるからね」

「そ、それは……」

「どんな子が産まれると思う? かっこいいかしら、かわいいかしら」


 エレイン様は比較的美形な男性だ。フラドレッド家系のキリッとした鋭い美しさというよりかは余裕のあるゆったりとした、それでいてたくましさも含んでいるイケメン。対してルクラリズさんは人形を思わせるような可愛らしさを持っている。その透き通るような銀髪はシルクを想起させ、大きく丸い瞳は本当に宝石のようである。

 もし二人のいいところだけが集結したら、一体それはどんな……


「考えたところで意味はありません。仮定の話は仮定でしかありませんから」

「私のこともそうだけど、リーリアとの子供はどうなのかしらね。想像したことある?」

「……」

「もしもってことがあるでしょ? だって寝るときも一緒なんだからさ。エレインも人間な訳だし、起きるかもしれないじゃん」

「起きるかもしれない……」


 彼女が一体何のことを言っているのかわからないほど、私は純粋というわけではない。もし私と彼との情事の結果。仮定の話はしたくない。でも、考えてしまう。


「私の想像ではさ」

「ルクラリズさんっ」


 私は彼女の発言を遮るように言った。

 彼のことを愛しているからこそ、なぜか沸々と思考が湧いてきてしまう。考えるなという方が難しい。


「ん?」

「買い物に行きましょう」

「え? なんで?」

「買うものが増えたのです。もしものことがありますからっ」

「何が? って、ちょっと」


 私は彼女の腕を引っ張るようにして家を出ることにした。こんなこととは一生無縁だと思っていた聖騎士団時代の私が見たらどう思うだろうか。きっと堕落している、余計なことを考えているなんて言うだろうか。

 でも人というものは徐々に変化していくもの、自覚していなくても日々変化しているのだ。

 それから私たちはみんなが普段集まるような商店街ではなく、少し変わった場所へと向かうことにしたのであった。

こんにちは、結坂有です。


本人のいないところでこのようなやり取りがあったようですね。

これからリーリアとルクラリズは何を買いに行くのでしょうか。それはみなさんの想像にお任せします。


現在『カクヨム』にて一部加筆・修正した物語も順次公開していますので、そちらの方でも楽しんでいただけると幸いです。


それでは次回もお楽しみに……



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