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違和感のある剣術

 アイリスやリーリア、ルクラリズに俺の剣技を教えて半日が経った。もう日が傾き、夕日が差し込み始める。少し暑かった外の空気も落ち着きを取り戻し、過ごしやすい気温へと変わっていく。


「……お兄様、こうでしょうか」


 俺の目の前でアイリスが丁寧な所作で剣を引き抜くと一気に横方向へと瞬裂閃を繰り出した。もちろん、それは非常に強力なもので、木剣ではあるものの十分に殺傷力のある技となっていた。

 細かい部分まで俺が指導したからな。最初の見様見真似よりかはかなり上達している。さすがは最高成績を叩き出しただけはある存在だ。その証拠に彼女の前にある木製人形野首には鋭くも深い裂傷ができていた。両断はできていないものの人であれば致命傷となっていることだろう。


「よくできたな。しかし、入刀角度が少し甘かったな」

「まだ足りなかったでしょうか……」


 俺がそう指摘すると彼女は人形にできた裂傷を観察し始めた。すると、納得したかのように大きくうなずいた。


「なるほど、完璧とは程遠いですね」

「そうかしら。見たところ水平だったように見えるけれど……」


 そんなアイリスにルクラリズが話しかける。

 確かに一見するとうまくできているものの、それはまだ見様見真似の段階を超えたばかりの話だ。俺の技を完全に習得するには更に数段は超える必要がある。


「いいえ、この裂傷では人に勝てても魔族には勝てません。お兄様のように両断する勢いで斬り裂く必要があります」

「まぁそうかもしれないけれど」


 人間のような見た目をしているルクラリズだが、本質は魔族そのものだ。この一撃を喰らえば相当なダメージにはなるかもしれないものの、即死させるにはまだ威力不足と言えるだろう。

 それにこれは人型の相手に限った話だ。より大きな巨躯の魔族であれば大したダメージにはならない。


「エレイン様、私のはどうでしょうか」


 俺のメイドのリーリアが心配そうな表情で話しかけてくる。彼女も同じ瞬裂閃を練習していたが、少し不安なところがあるようだ。

 確かにアイリスと比べれば威力不足で深い裂傷とはなっていない。ただ、彼女と違って入刀角度は合格点に達しているようだ。


「自主練の成果が出ているようだな。入刀角度はまず問題ない。とはいえ、まだ剣に迷いがあるように見える」

「……やはり、そう見えますか」

「そうだな。最初は所作は気にせず、勢いを付けてやってみるといい」

「それでは先ほどの細かい指示はできないのではないでしょうか」

「最初のうちはそれでいい。剣の動きに慣れるところからだな」

「そうですか。わかりました」


 リーリアはアイリスよりも先に俺の訓練法を実践していた。最初は隠れてやっていたようだが、俺が指摘してからはしっかりとできている。見真似ではわからなかったところも今ではよく理解している。

 そんな彼女だからこそ、剣の動きにもっと慣れるべきだ。


「私は、やっぱりだめよね?」


 そんなリーリアを見ながら、ルクラリズがそうつぶやくように話した。


「だめではない。この技との相性がよくなかっただけだ。ルクラリズには別の技のほうが習得しやすいのかもしれないな」

「じゃこれはあまり意味なかったの?」

「訓練法としてなら意味はあるだろう。まだ力任せに剣を振っているように見えるからな」


 剣に慣れていないうちはかなり力任せに振ってしまうものだ。本来刃のあるものは強い力を使わなくても鋭く斬れる。その感覚を覚えるためにこの練習を続けるというのは彼女にとって意味のあるものだろう。

 実戦で使う技は彼女に合わせるべきだがな。


「ただ、その点は俺も考えておく。少し派手な技もいいかもしれないな」

「派手?」

「もっと華麗な技というべきか」

「お兄様の言う通りです。美しいルクラリズさんにはそのほうが良いと思います」


 アイリスがそういうとルクラリズは頬を少し赤くして俺から視線を逸らす。


「美しい技って、どういうの?」

「そうですね。例えばこういうのとか……」


 すると、アイリスは美しい流線形の剣閃を描く剣技を披露する。アレクと訓練をして覚えたのだろうか。真似事にしてはかなり完成度の高いものになっていた。


「これならルクラリズさんの美しい体の線や銀色の髪も魅力に見えます」

「そんな、演舞みたいな技が実際の戦いで通用するの?」


 まぁ確かにアイリスの披露した技は演舞としてありそうなものではある。本当のところ、アレクの得意とする流線的で連続的な斬撃を繰り出すことのできるかなり完成された技なのだがな。

 そのことをルクラリズに話そうとした瞬間、訓練場の扉から声が聞こえた。


「通用するかどうかは練習次第だよ。それは僕の技だからよくわかる」

「えっ?」


 突然の声に驚くルクラリズだが、それも仕方ない。俺たちの練習を邪魔させないよう、音を立てず静かに入ってきたのだからな。


「急に話しかけて悪かったよ」


 そう爽やかな表情で彼はそういうと俺の方へと視線を向けた。その様子からなにか俺に要件があってここに来たのだろう。


「ルクラリズの技はまた考えるとして、どうかしたのか?」

「僕の個人的な頼みではあるんだけど、ラフィンの技がどうも奇妙だったものでね。エレインならなにかわかるだろうと思って来たんだ」

「奇妙?」

「うん。静と動の使い分けっていうのかな。少しエレインと似てたから」

「なるほど」


 そういえば、ラフィンも剣術を習っていたと言っていたな。その証拠に聖剣を携えている。どのような能力なのかは全くわからないが、そのことは今は関係ないか。


「それなら明日にでも彼女のところに行こう」

「わかった。本人にもそう伝えておくよ」

「それ以外に話したいことは?」


 俺がそう質問すると彼は一瞬だけ視線をそらした。そのことを伝えに来ただけなのだろうか。他にもここに来る理由があるのだと思うのだが。


「いや、それだけだよ」

「……訓練の様子でも見に来たのですか?」


 俺の横からアイリスがそう質問する。


「まぁそれもあるかな。訓練の邪魔をしては悪いし、僕はこれで失礼するよ」


 そういって彼は足早に訓練場をあとにした。


「何か隠していますよね」

「無理に聞き出すのはよくない。話したいときに話してくれればそれでいい」

「そうですね」


 アレクのことは信頼している。彼が何かを隠していたとしてもそれをわざわざ聞き出す必要はない。誰にでも秘密はあるものだからな。


「エレイン様、私は夕食の準備をしてきます。そろそろアレイシア様も帰ってくる頃です」

「ああ、わかった」


 リーリアはそういって先に訓練場から出る。それを見送ると、アイリスが俺の方をみて何かを話しそうにしていた。しかし、言葉が口から出てこないのかなかなか話そうとはしない。

 その様子をルクラリズもわかっていたようで、彼女はアイリスに話しかける。


「なにか言いたいことでもあるの?」

「その、ずっと思っていたことなのですけれど……」


 そこまで言うアイリスだが、それ以上はなぜか言葉を詰まらせた。


「……いえ、なんでもありません」

「そこまで言っておいて。気になるわよね?」

「根拠のない直感でお兄様のことを悪く言いたくはないです」


 どうやら根拠のない自分の直感はあまり喋りたくないようだ。確かに内容が悪ければわざわざ話すことは彼女はしたくないことだろう。俺も似たような考えだ。憶測でモノを話すのは避けたい。

 ただ、俺には彼女が何を言いたいのか想像できた。それは訓練中の彼女の様子からも見て取れたことだ。


 俺の言う”本気”と”実力”は違うのではないか。


 当然ながら、俺は本気を出すと言うのは相手を殺すつもりで剣を振るうということ。真の実力を出し切るつもりでは俺も戦っていない。真の実力を見せるときは、相手を確殺するとき以外にない。そして、その実力を第三者に見られてはいけない。その当事者も確実に処理する必要があるのだからな。

 そうしなければ自分の脳力を分析されてしまう。分析されれば対策される。全くの隙を見せないと言えるほど、完璧とは俺は思っていない。だから、俺は本気といいながらも実力を隠し続ける。誰にも俺の能力を悟られないようにだ。

 アイリスは直感だけで俺の吐く嘘を見抜いた。それも他の誰よりも早くに。それは彼女の持つ高い能力が出せる業でもある。


「その直感はおそらく正しいだろう。ただ……」


 俺は振り返ってアイリスの目を真っ直ぐ見つめながらゆっくりとわかるように話すことにした。


「俺を試そうなどと考えるな」

「…………わかりました」


 少し長い沈黙からもわかるようにアイリスは納得した。もちろん、彼女を信用していないわけではない。少なくともリーリアと同じぐらいは信頼している一面がある。それでも踏み込んではいけない領域と言うものは存在するものだ。

 いくら信用があるからと言えど、それはできない。あの地下訓練施設の頃からわかっていたことだ。


 俺は、純粋な人間ではないのだから。

こんにちは、結坂有です。


どうやらエレインにも秘密があるようですね。それも他言できないようなもの。

それが彼の枷となるのか、それとも利点となるのかはまだわかりませんね。



それでは次回もお楽しみに……



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