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真相への第一歩

 試合のジャッジが終わると俺、レイはすぐに控室の方へと向かった。試合中、嫌な予感がずっとしていた。おそらく俺がミリシアのもとを離れたと同時に攻撃を仕掛けたのかもしれない。

 もちろん、俺がこうして駆けつけなくても彼女なら倒すことができるだろう。それができなくとも逃げ出すことぐらいは簡単なはずだ。それでも俺は不安があった。そんなどこからかともなくやってくる不安を感じながら俺は足取りを速め、控室の扉を開く。


「おいっ」


 扉を開くとそこには三人の男がいた。やはりかと思い、俺は周囲を見渡す。


「なっ」


 そこにはロープで縛られたミリシアがいた。胸元のボタンが外れており、口には声を出さないようにするためか布が詰められている。普通の男なら彼女の実力でどうにかなるはずなのだが、いったいどういうわけだろうか。


「……連れの男が戻ってきたところでもう遅い。お前には聖剣がないのだからな」


 俺の持つ魔剣は確かに男どもの奥にある。彼らは聖剣と呼んでいるが、魔剣だということは知らないようだ。いや、そんなことよりもミリシアにひどいことをしようとしていることが許せなかった。


「聖剣だとか魔剣だとか関係ねぇ。俺の仲間に手を出した時点でお前らは敵だ」

「木剣しか持っていないお前に聖剣を持った俺らに叶うとでも?」

「だから関係ねぇって言ってるだろ」


 俺の頭はもう怒りで満ち溢れている。とても冷静でいられる状況ではない。改めてミリシアの方を見てみると、彼女は全力で首を横に振っている。その目はまっすぐ俺を見据えていることから助けを求めていることは明白だ。


「話がわからない奴だな。俺らは聖剣を持って……っ!」


 彼はそう言いながら剣を引き抜いた。その刹那、俺の木剣は彼の脇腹を貫いた。


「聖剣だかなんだか知らねぇが、この俺には関係ない。お前らに俺は止められない」

「くそっ、挟むぞっ」


 俺がそう言うと一人が指示を出す。どうやら俺を挟み込むように攻撃をするようだ。しかし、そのようなとっさの指示で完璧にタイミングを合わせることなどできやしない。

 左右を挟むようにして移動してきた男たちは聖剣を引き抜き、俺の方へと攻撃を開始してくる。左右を見比べて右のほうが若干早い。


「オラッ」


 突き刺した木剣を手放し右の方へと強い蹴りを加える。斬り下ろす形だったが、速度的に言えば蹴り出す方が速い。要は切っ先が俺に触れるよりも速く攻撃すればいいだけだからな。

 攻撃は最大の防御なりという言葉があるぐらいだ。


「ぐふぉっ」


 男は俺の全力の蹴りを喰らい、強烈に壁へと叩きつけられる。うまく受け身を取ったために背骨は折れていないことだろう。まぁ相手の怪我なんざ知ったことではないがな。


「このっ」

「うるせぇっ!」


 左から攻撃してきた男は俺の攻撃を見て一瞬戸惑ったが、剣を寝かせて俺の方へと突きを繰り出してきた。攻撃として見るなら一番速いものではある。ただ、そんなことは俺には関係ないからな。

 俺は足を組み替え、軸を横へと相手の突きを避けるようにずらす。そして、流れるようにして肘を使い、相手の顔面に強烈な一撃を喰らわす。激しく彼の頭が揺さぶられ、脳震盪を起こして地面へと倒れる。殺すつもりはなく、ある程度手加減はしてみたが、右は悶絶し、左は転げ回っている。正面のやつに至ってはいつまでも切っ先が突き刺さあった脇腹を手で抑え続けている。


「……やりすぎだし」


 すると、いつの間にか拘束を解いたミリシアが俺の横に立っていた。


「っ! おいっ、大丈夫なのか?」

「当たり前でしょ。この私がこんな奴らに遅れを取るとでも?」

「だけどよ、捕まってたじゃねぇか」

「最初は懲らしめてやろうと思ったけど、いい機会だし少し遊ばせて情報を聞き出そうとしてたのよ」


 どうやらわざと捕まっていたようだ。それを俺が邪魔したといった形のようだ。


「全力で首を振ってたからよ。それに胸元も開けてるしよ」

「やめるようにってつもりだったし、ボタンも動いたときに取れちゃったのよ」

「そんなの口で言わねぇとわかんねぇよ」

「喋れなかったんだから仕方ないでしょ……でも、ありがと」


 確かに俺が見たときは布を詰められていたな。まぁ勘違いだったとはいえ、俺は助け出したんだ。

 そういって、彼女は俺に奥に立て掛けられていた俺の剣を渡すと腕を引っ張って控室から出ようとする。


「どこに行くんだ?」

「逃げるのよ。こんなところに長居してたら問題でしょ」

「そうかもな」

「それにあの人たちは自分が悪いことをしてるって自覚があったのよ。下手に通報なんてことはしないはず」


 そんな彼女の分析をしっかりと聞いて、会場から逃げるようにして抜け出した。

 しばらく走り出し、商店街の方へとやってきた。

 彼女の分析通り、下手に追いかけてくるような気配はない。ただ、一人に重傷を負わせたのは事実だ。復讐とか言ってまた戻ってくるのは間違いないだろうな。


「ちょっと、こっちに」


 すると、彼女はまた俺の腕を引っ張って路地裏へと引き込んでいく。


「なんだよ」

「ここだったら恋人の密会っぽくていいでしょ」

「そうなのか?」

「そうなのよ」


 言いながら彼女は俺に密着するように体を押し付ける。


「それで、なにかわかったのか?」

「最後まで聞き取ることはできなかったけど、少しわかったことがあるの」

「その口ぶりだとあまり良さそうなことではないような気がするな」

「ええ、第一王女のことだけどやっぱり魔族とすり替わってると思うの。まぁ断片的な情報をまとめただけだから確証はないわ」

「もしそうだとしたら面倒だな」


 第一王女が魔族にすり替わっているなんて言いふらしたところで国民の大多数は信じてくれないことだろう。それに城で大混乱が起きているといった様子もない。おそらくは見た目だけでなく仕草もも似せているはずだ。

 そうだとして、彼女が魔族だなんて口で言ったところで誰も信じてくれはしない。まぁいくら成り済まそうとしたところで若干の綻びが見えることもあるだろうが、そう簡単に気付けるものでもない。ましてや気付かれそうになった時点で口封じでもしていればなおさらだ。


「王族の命令が絶対のこの国ではかなり大きな問題よ。早い段階でエルラトラムに連絡するほうがいいわ」

「だったら、今すぐにでもこの国を出るか?」

「……そうしたいところね」

「無理なわけないだろ。あのアギスって男に頼れば逃げれるはずだ」


 思い返せば確か彼はこの国の門番をやっていると言っていた。彼に協力を依頼すれば脱出に協力してくれることだろう。


「逃げることができたとして、その間この国はどうするの?」

「この国のこと?」

「ええ、エルラトラムに連絡を入れたとして、数日はかかるわ。その間に今の第一王女が大きなことでも起こせばもうこの国には入れないわよ」

「んなこと言ってたら何もできねぇよ。今は即断即決しかねぇ」


 俺がそう彼女に強く言う。彼女はうーんと悩むように声を上げて深く考え始める。詳しい作戦とかは俺には判断できない。最終的な判断は彼女が下すようにしている。俺のやり方はその場凌ぎぐらいだからな。


「……どうにかなるか。一旦エルラトラムに戻りましょう」

「おうよ」

「確証のない推測だけど、少なくとも魔族が王族に何かしら影響しているのは確か。それだけでも十分調査の意味はあったわね」

「そうかもな」

「一緒に逃げましょう」


 結論付いたのか彼女はさっそく宿の方へと歩き始めた。すぐにでも荷物を持ってこの国から出る準備を始めるのだろう。

数ヶ月も更新が滞ってしまいました。

8月以降からは不定期ながら、徐々に更新頻度を増やしていく予定です。


それでは次回もお楽しみに……



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