間を縫うように
私、ミリシアはレイの試合を控室から見ていた。何か審判らしき人と会話しているような気もするが、心配する必要はないだろう。レイはあのように粗暴な人ではあるもののしっかりと善悪を弁えている。それもそのはずで、それらのことを教えたのはこの私なのだ。
まぁそのあたりのことは大丈夫だとして、問題は一人になった私を狙う何者かの存在のほうが気になるか。窓の外から見えるレイもこちらの方を気にしている様子だ。彼もおそらくは勘付いているようだ。
「あまり気は乗らないのだけど、レイの魔剣もあることだし……」
基本的に彼の魔剣は堕精霊の自我が強いために簡単に具現化できるもの、危険が迫れば自分で脱出することもできる。ただ、ドルタナ王国では魔剣の存在を知っている人もいなければ、堕精霊すら知らないはずだ。そんな中で魔剣から堕精霊が出現でもすれば直ちに魔族騒動に発展するだろう。
私たちが来たばかりにそのような行動は避けたいところだ。少なくとも市民の人たちにはそこまで目立つようなことはしたくない。
「……入ってくる気配はない、か」
私のいる控室の外になにやら様子を窺っている人が数人いるのは気配からわかる。それでもまだ攻撃を仕掛けてくる気配はまったくない。
一人なのだから襲撃してきてもいい頃合いなのだが……。上層になにか連絡でもしているのだろうか。
再び窓の外を見てみる。
いつの間にかレイと喧嘩をふっかけてきた男が戦っているようだ。動き的にはレイが若干押されているものの、それは木剣と聖剣の差というものだ。本来であれば木剣を持った彼がすぐにでも制圧されるはずなのだが、それでもうまく男の攻撃を受け流しているところを見るに実力の面ではレイが勝っている。
隙を見つければすぐにでも勝敗が決することだろう。
そんな様子を窓から覗いているとドンッと後ろの扉が開いた。攻撃の気配がないと思っていたが、どうやら動き始めたようだ。
「お前の相方が戦っている間は一人みたいだなぁ」
「それがどうかしたのかしら?」
「剣は持っていても所詮は女一人、俺ら三人に勝てるわけがない」
「……あなたたちの常識はそうなのでしょうね」
私はそう言いながら、自分の動きやすい位置にまでゆっくりと移動する。相手は余裕そうに笑っているが、全力を尽くすべきだと私は思う。弱い小動物だと思っていても急に牙を向いてくることがあるのだから。
「はっ、エルラトラムではこの状況でも出られるってか?」
「聖騎士団五人以上に囲まれたこともあったけど、なんとか切り抜けることができたわ」
「その聖騎士団が弱いってことだろ。俺たちはそこの剣術競技で上位に入賞したことがあるんだ」
どこまで彼らは剣術競技のことを神聖視しているのだろうか。実際に魔族と戦ったことのないような彼らが、本当に聖騎士団を超える実力を持っているとは思えない。それに彼らの立ち居振る舞いを見てもとても実力のある人とは思えない。
まぁ聖剣に認められている時点でそれなりに戦える人なのかもしれないが、私や聖騎士団には到底敵わないといったところだろう。
「ちなみに聖騎士団と戦ったことは?」
「あ? あるわけねぇだろ」
「そう、それなら都合がいいわね」
多少手を抜いても問題はないか。聖騎士団と同じぐらいの技量で彼らを圧倒することにしよう。
私が剣を引き抜くと同時に彼らも剣を引き抜いた。
「おとなしくしとけりゃ怪我をさせずに済むのによ」
「怪我をさせるつもりなの?」
「可愛いからって容赦しねぇよっ」
すると、彼らから最初に攻撃してきた。当然ながら、その一撃はそこまで強いものではなく、なんとも簡単に避けられるものだ。
さっと私が横に避けると同時に剣を振り下ろし、相手の剣を叩き落とす。この技はアレクがよく使ってくる技だ。ほんの一瞬だけ相手に残像を残しつつ、相手を無力化するこの技は非常に使い勝手がいい。もちろん、攻撃が読まれないよう流れるような動きが必要でそれ相応の練習は必要とするのだが。
「なっ、聖剣の能力を使ったのかっ」
「そう見えるかしら?」
「……てめぇ!」
落とされた剣を再び足で持ち上げて手に取ると彼は一気に私の方へと詰め寄ってきた。聖剣を見ると若干刀身が光っているところを見るに、どうやら彼は聖剣の能力を使っているようだ。
容赦しない、という言葉は事実なようでなんとも大人げない人たちだ。
「ふっ」
私は閃走を使って相手の腹部を剣の腹で叩きつけて彼の後ろへと回る。当然ながら、私のこの動きに付いてこれる人なんてこの世に二人しかいない。そう私は自信を持って彼へと攻撃した。
ゴスッ!
鈍い音が響くと同時に私はさっと振り向く。詰め寄ってきた男は剣を落とし、ゆっくりと床へと膝を突いた。
「許さねぇ……」
「襲っている人がそう言うなんてね。それも多人数で」
「クソッ、お前らっ!」
そう合図すると残りの人が私の方へと剣を向けてきた。
どうやら周りを囲んでいた人たちも私の動きを見切ることはできなかったらしく、若干驚いた表情をしていた。
「ちなみに、私はあなたたちにこの剣の能力は使わないわ。今も、これからもね」
「っ! 今に見てろよっ!」
一人の怒号と同時に一斉に私へと攻撃を仕掛けてくる。大した実力もない相手に対して魔剣の力なんて使うつもりはない。エレインがそうしてきたように私もそうするべきだ。もちろん、私の魔剣は彼の剣よりも剣格が高いわけではない。
神に匹敵するような能力というわけでもない。それでも私は彼に少しでも追いつくために努力している。彼の意志を尊重するのは当然のことだ。
「……無駄なのに、ね」
私は再び剣の腹を相手に向けて走る。
控室ということでそこまで広いわけではない。大きく立ち回ることは不可能、しかし、私は一人でそれなりに小柄ではいる。うまく相手の動きを見切って懐へと入り込み、強烈な一打を与えれば十分だ。必要なら追撃をするだけ。
そんなに難しいわけではない。あの頃の訓練よりも、普段アレクやレイたちとしている訓練よりも簡単なのだから。
こんにちは、結坂有です。
しばらく更新が途絶えてしまいましたね。
最近はさまざまなことが起こりすぎて疲れてしまいますね。今に始まったことでもありませんが……
とはいえ、更新が止まったことは事実です。申し訳ございません。
これからも精進して参りますので、応援のほどよろしくおねがいします!
取り囲まれてしまったミリシアですが、彼女なら余裕で対処できることでしょう。
それにしても急に動き出してきた彼らは何者なのか、そして彼らに命令している人は誰なのか……気になるところですね。
それでは次回もお楽しみに……
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