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弾かれた剣

 俺、レイは控室から出て会場へと案内された。この国で初めての剣術競技ということで勝手がわからないところもあるが、案内された通りにやるしかないだろう。

 ミリシアは控室に残っている。あそこからでも試合の様子は見ることができるからな。まぁ俺なりに手加減はするつもりだ。ミリシアの手を煩わせることはしたくない。それに相手を怪我させたくないってのは俺も同じだ。

 そのために彼女は相手の剣だけを狙うよう言ってきたのだろう。相手の剣を攻撃すれば怪我をさせることもないだろう。それなりに実力があるって言うぐらいだ。腕がやられる前に剣を手放すはずだ。


 試合会場の中央へ立つと、奥から決闘を挑んできた男も歩いてきた。話によれば彼は数年前まで現役でそれなりに強かった剣士のようだ。俺からすればそこまで高い実力を持っているようには見えないが、この国では高い実力を誇っていたらしい。名前はラチェスというようだ。

 彼本人から名前を聞くことはなかったが、スタッフの話によると顔を見ただけでわかるほど有名とのことだ。確かに特徴的な目や鼻をしている。


「それでは試合の説明をします」


 そういって審判らしきスタッフがそう話を始める。

 基本的には普通の剣術競技と同じではあるが、一つだけ通常とは違うところがある。それは俺が木剣で、相手が聖剣を持っているところだ。


「原則として相手を無力化した時点で勝ちとします。致命打はもちろん武器を落とすことも敗北とみなします」

「一ついいか?」

「……なんでしょう」

「武器を破壊するってのはどうなんだ?」


 すると、俺の目の前にいるラチェスが笑い始めた。


「木剣ごときで俺の剣を破壊するってか?」

「なぁどうなんだ?」

「できることならそれでも構いません」

「お前、剣術競技のことをどれだけなめきってんだよ」


 そうラチェスは挑発した目で俺のことを睨みつけてくるが、木剣で聖剣を壊せないなんて素人のようなことを言ってくるところを見るとやはり聖剣での戦闘経験が低いのだろう。

 エルラトラムの剣術競技では聖剣を使って主に戦っていた。この国では木剣を使って競技をしているようだ。技の競い合いという意味では確かに意味のあるものなのだろう。しかし、技をいくら極めたところで人間離れ、常識離れした魔族相手にはそういった技術は通用しない場合もある。


「吠えてねぇでさっさとしようぜ」

「ふざけてんのかっ 審判、早く始めてくれっ」

「わかりました。試合を始めます」


 そんな彼の様子を横目に審判が俺の方を向いてきた。


「本当にいいのですね?」

「問題ねぇよ」

「それでは……始めっ」


 その審判の合図と同時にラチェスが剣を引き抜いて高速に接近してくる。何故か俺に対してかなり怒っているようだから仕方ないとして、そのような稚拙な攻撃だと簡単に避けることができる。


「はぁあ!」


 普段であれば相手の攻撃を剣で受け流すところだが、今俺が持っているのは木剣だ。まともに正面から斬りかかっていてはすぐに俺の持っている木剣が破壊されてしまうことだろう。

 それに、さきほどの剣術競技を見学したときもそうだったのだが、この国ではまっさきに攻撃を仕掛けて鍔迫り合いに持ち込むのが定番なのだろう。

 俺はさっと横にずれるようにして避ける。そして、剣を引き抜いて軽く構えてみせる。まずは相手の行動を見てから攻撃を考えることにしよう。普通の戦いとは違って今回は相手の剣を破壊するといった無力化がメインだ。自身の技を思う存分繰り出すだけで十分なのだが、それをしてしまっては相手を怪我させてしまうことだろうからな。


「避けただとっ!」

「驚くことはねぇだろっ」


 すぐに追撃してくると思ったが、そうではなかったようだ。それなら俺から攻撃を仕掛けるべきだろう。

 思い切った突きを彼は剣で不器用ながらも弾く。


「甘いんだよっ」


 そうドヤ顔で言い返してくる。もちろん俺も弾かれる覚悟で攻撃した技だ。ただ、それが本当の攻撃だと思われては困る。

 弾かれた衝撃をうまく吸収して、俺はそのまま追撃を仕掛けることにした。


「まだ攻撃するのかよ」

「油断してる場合か?」

「っ!」


 一気に繰り出される俺の攻撃にすぐに対応できずに相手は姿勢を崩しながらそれを避ける。別にそれ自体は問題ない。俺も想定していたからな。本来であればとどめを刺すところではあるが、今回は相手の武器を破壊して無力化することが目的だ。

 相手は俺と違って防具をかなり着込んでいる。木剣程度で下手に攻撃したところで致命打とは判定されない。それなら誰がどう見てもわかるよう武器を破壊することが一番手っ取り早いと言える。

 それを見越してミリシアは武器を破壊しろと言っていたのかもしれないな。


「はっ」


 俺の木剣が彼の持つ聖剣の側面へと直撃する。もちろんだが、相手は俺の攻撃をまともに受け流すことはできていない。それなりの実力者なのだとしたら、うまく衝撃を逃していることだろう。少なくともアレクやエレインは余裕でできることだろうな。


「うぐっ!」


 攻撃をまともに剣で受け止めてしまった彼はその衝撃で盛大に転んでしまう。しかし、ある程度の受け身は取れるようですぐに立ち上がって剣を構える。

 まぁあの程度で勝負が決することはないか。思っていた以上にはタフな男のようだ。


「うまく立ち直せたな」

「……この程度で実力を見せつけれたと思うなよ」

「別に大したことはしてねぇ。お前が下なだけだ」

「いつまでもなめた口だなっ」


 そういって彼は聖剣に力を込める。どうやら聖剣の能力を使ってくるようだ。その点に関しては俺も警戒していたことだが、案外早くに切り札を使ってきたか。もう少し俺としては遊んでやってもよかったのにな。

 とはいえ、ミリシアと一緒にいないという状況はあまりよろしくないかもしれない。早めに決着した方がいいか。


「聖剣を使わねぇって最初は意気込んでいたのにな」

「っ! 気が変わったんだっ」

「気が変わって聖剣の能力を使ったとしてもその程度か」

「お前っ!」


 何度か彼は斬りつけてきている。動きとしては一流のそれに近いものを感じるものの、それでも彼の攻撃には重みは疎か、俊敏さすらも感じられない。よくもまぁこの程度の攻撃でまともに剣術競技ができていたなと思ってしまう。

 この国の剣術の教え方はどうやら動きに重点を置いているのだろう。そう彼の攻撃を見て感じてしまう。


「そろそろ終わりにしようぜ?」

「ふざけてんのかっ」

「いちいち怒んな。それより見せてみろよ。お前の本気ってやつをな」

「……そこまで言うのならやってやる。覚悟しとけっ」


 大怪我や死の覚悟をしろと彼は言いたいのかもしれないが、俺からしてみればそういう風には聞こえなかった。どこまでその攻撃が稚拙な攻撃なのか覚悟しろ、とそう俺には聞こえてしまった。


「正中……縦断撃っ!」


 大きく振りかぶったかのような構えから勢いよく走ってくるラチェスは俺の頭上から勢いよく剣を振り下ろしてくる。それも聖剣の能力でその斬撃の能力を引き上げているようにも見える。

 それが彼の見せる本気の技というらしい。確かにこれほどに勢いのある攻撃だとその辺にいる素人では受け止めるのは難しいだろうな。しかし、そのような技で俺に傷を付けるどころか、俺の木剣すらはかいすることはできない。


「はぁ!」


 その攻撃に合わせて俺はうまく木剣で聖剣の腹を叩きつける。適切な力加減で適切な角度から叩きつければ金属でできた聖剣でも折れてしまう。もちろん、斬撃での破壊は不可能だ。

 しかし、そういった技術をうまく使うことで木剣でも聖剣に勝てるということだ。


「なっ」


 事実、彼が気付いたころには彼の聖剣は使い物にならない程度にまで折れ、その刀身は彼の後方へと転がっていたのだから。

こんにちは、結坂有です。


先日、こちらの不手際で更新が停滞してしまいました。

今後ともそのようなことがないよう気をつけます。


レイとラチェスとの対決でしたが、いかがでしたでしょうか。

木剣相手に負けてしまったラチェスはこれからどうなるのか気になりますね。

それよりミリシアは彼からうまく情報を聞き出すことができるのか……


それでは次回もお楽しみに……



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