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事情を覗く

 今日やることを決めた私たちは宿を出てアギスと出会った広場の方へと向かうことにした。彼は防壁警備隊としての業務の中で王城に関する情報を集めておくと言っていた。私たちが泊まっている宿の場所も伝えているし、何かあればすぐに連絡してくれることだろう。

 それに今日明日ですべての問題が解決できるとは私も思っていない。当然ながら、複雑に絡み合った問題だ。一つ一つ確実に解決していく必要がある。私たちがこれからやろうとしていることはこの国の剣術競技のことについてだ。直接的な問題ではないにしろ、末端である可能性はかなりある。この国の軍事力を引き下げる目的で魔族が意図的に低レベルな剣術を広めているのだとすれば大きな問題だ。


「時間も十時過ぎなのに人が少ないわね」


 広場へと到着するが、外を歩いている人はかなり少ない。


「見てみろよ」


 すると、レイがそういって近くの看板へと指差した。

 私もその看板を見てみるとどうやら今日は剣術競技でそれなりに有名な人同士が戦うというイベントが行われているようだ。

 ちょうど十時半ごろにその試合が始まるらしい。


「全員がこの試合を観に行ってんのか?」

「そうでみたいね。昨日も試合はやっていたみたいだけど、そこまで人気のある選手じゃなかったのかしら」


 試合をしているというのは話を聞き回っているときに知っていた。しかし、こうして看板が立てられたり、広場から人がいなくなるほど人が集中しているわけでもなかった。


「走ればまだ間に合うみてぇだが?」

「ええ、急ぎましょう」


 私はその看板に書かれた場所へと走り出した。広場を抜け長い商店街を一気に駆け抜けるとすぐに人集りが見えてきた。走っているとき商店街も臨時休業をしている場所がところどころあった。やはり国全体で剣術競技が盛り上がっているというのは本当なのだろう。


「ここみたいだな」

「そうね。まだ試合は始まってみたいね」


 大きく息を吐いて整えると私たちはその人集りへと入ることにした。観客となる彼らを抜けると広く開けた場所へとたどり着く。どうやら剣術競技が行われる土俵のようで広い場所を取り囲むようにした観客が今か今かと視線を向けている。

 剣術競技の試合は基本的には無料で一般公開されているようでこの国に滞在している外国の私たちでも簡単に試合を見ることができる。


「試合会場にしては質素な作りだな」

「円錐状に作られているから試合を見る場所なのでしょうけれど、国力を上げて盛り上げているにしては微妙な作りね」

「それにあの地面を見てみろよ。乾燥して砂埃が舞ってやがる」

「ええ、意図的にそうしているわけではないみたいね」


 競技という割には公正な環境が保たれているわけではないようだ。わざとそうしているのかはわからない。だけど、あれでは本当に技を競い合うことができるんだろうか。

 乾燥した地面は状況によっては滑ってしまい、踏み込みや踏ん張りが難しい。それに激しく戦闘した際の砂埃で非常に視界が不明瞭になってしまう。実戦に近い環境ではあるかもしれないもののそれでは競技とは言えないだろう。


「そろそろ始まるようだな」


 私の横でレイがそういうと一人の男性が中央に立つ。すると、両側から一人ずつ剣を持った人がゆっくりと入場してくる。

 遅れて入ってきたために近い距離で試合を見ることはできないが、アギスの言っていたように稚拙なものかどうかは遠目からみてもわかることだろう。

 中央に立っている人は何かを話しているようだが、それ以上に観客の声の方が大きいようだ。どうやらあの中央の男性が盛り上げているようで徐々に会場の興奮が増していく。


「人気があるってのはいいことなのかもしれねぇが、これだとただ祭り騒ぎだなっ」

「……そうねっ」


 歓声が絶頂を迎えたと同時にパンッとなにかが破裂するような音が聞こえた。

 そして、それと同時に両側に立っていた剣士が剣を構えて走り出した。その直後、カチィンと金属の音が聞こえて剣士二人の足が止まる。どうやら鍔迫り合いになったようだ。

 それに応えるようにしてまた観客の声が大きくなる。


「なんだあれ」

「競技なのだからもっと激しい戦闘をするものだと思っていたのだけど……」

「はっ、ただのパフォーマンスだろ。これから本気の戦いが見れるんじゃねぇか」


 確かに彼の言うように観客を盛り上げるという目的もあるのかもしれないが、私にはそうには見えない。本気で鍔迫り合いをしているように見える。もちろん、持っている剣は金属製ではあるものの、聖剣を使っているわけではなさそうだ。剣格の平等性も担保されているために剣士自身の実力勝負となっているのは間違いない。


 バチィンッ!


 弾けるような音を立てて剣士が互いに距離を取り始める。


「おっ、始まるか?」

「……どうかしら」


 距離を取り、姿勢を整えた一人は再び地面を蹴って攻撃を繰り出す。もう一人の方は少し奇抜な構えをしてその攻撃を待つ。彼にとっては防御の姿勢なのだろうが、遠目から見てあの構えではまともに防御ができているとは思えない。


 バチィン、バチィンッ!


 攻撃が仕掛けてきた剣士の二連撃は奇抜な構えをしている剣士に防がれる。もちろん、どちらの技術もそこまで高いものではない。まず攻撃側は力任せに剣を振っており、あれではせっかくの二連攻撃が遅くなってしまっている。それにもっとひどいのが防御の方だ。そちらの方も技巧的な攻撃の受け流し方でもなければ、身を守るためだけの防御というわけでもない。

 その時点で剣術学院の生徒の何倍もの弱い人たちであるのには変わりない。いや、もはや対等に見てはいけないのかもしれない。


「ただ振り回してるだけじゃねぇか」

「ええ、そうね」

「あのアギスってやつが言ってたことは事実だったってことのようだ」

「……流石にここまで弱々しい剣術競技を見せられてはね」

「このまま低次元の戦いを見とくのか?」


 彼は不機嫌そうな表情をして帰ろうと促してくる。

 もちろん、私もそうしたいところだが、どうしても気になるところがある。この剣術競技の最後はどのようにして締めくくるのだろうか。

 普段を知らないためにどうしても気になる。この状況では決着がつくのも時間の問題だ。本当にこのままずるずると試合を続けていくつもりなのだろうか。


「おいっ」


 すると、観客の一人が私たちのところへと険しい表情で向かってきた。その視線はどうやらレイに向けられているようだ。


「あ?」

「低次元だと言ったな? よそ者のあんたらにはこの崇高な戦いが分からねぇんだろ」

「はっ、わからねぇな。少なくとも俺にはまともな競技にはみえねぇ」

「お前っ」


 少しばかり面倒なことになってきた。

 私たちに絡んできた男はどうやら同じくドルタナ王国剣士のようで、腰には聖剣らしきものを携えている。

 これ以上面倒なことにはなってほしくないのだが……


「観光客だか、なんだかわからないが決闘だっ!」

「いいぜ? どっちが低次元なのか見せてやるよ」


 私が対応するまでもなく、レイが勝手にそう返事をした。こうなってしまってはもうどうすることもできないか。

 私はこの状況を丸く収めるということを諦め、レイの側に立つことにした。彼は手加減というものを知らない。本気の勝負をすれば目の前の男は大怪我をすることだろう。もうこうなってしまったら仕方がない。

こんにちは、結坂有です。


なかなか面白い展開になってきましたね。これまで隠れて調査を続けていたミリシアとレイですが、これからは思い切った行動に出るようですね。

それにしても、決闘を挑んできた男の人はどうなってしまうのでしょうか。気になるところです。


それでは次回もお楽しみに……



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