乗り越えた試練の先
私は軽い腹部の痛みで目が覚めた。
「ここは……」
先ほどまで森にいたはずだ。
そして、ブラド団長に魔剣で腹部を刺された。
「いっ!」
まだ腹部の痛みが残っている。
しかし、治療は施されているようで包帯が巻かれていた。
しっかりと止血も済まされているようで、安静にしていれば二、三日もすればある程度治っていることだろう。
周囲を見渡してみると、ここはどうやら聖騎士団の本部のようだ。
ベッドの横には私の腹部を貫いたであろう魔剣が置かれていた。
「起きたか?」
すると、扉が開いて団長が入ってきた。
「団長……」
「そう警戒するな。あれは契約の儀式の一つだ」
「……信じられないわ」
急に突き刺してきたのだ。
殺意はなかったにせよ、攻撃を仕掛けるのはどうにも信用できない。
「魔剣の鍔を見てみろ」
そこには小さな赤い宝石のようなものが埋め込まれている。
私が手にした時はこのような宝石はなかったのだが、これは一体なんなのだろうか。
「これは?」
「それはお前の血だ。資格と契約は違うものだ。まず魔剣に勝ったお前はあの剣を引き抜く資格を手に入れた。そして、契約することで魔剣に自らの血を捧げることで本来の能力を自由に操ることができる」
そう説明するブラド団長は自分の魔剣の鍔部分を見せてきた。
確かに私の魔剣と同じ赤い石がはめ込まれており、契約とやらを済ませている証拠だろう。
思い返してみればエレインの魔剣も団長や私のより大きなものがはめ込まれていた。
あの石を作るのに彼は一体どれほどの血を使ったのだろうか。
考えるだけで私の腹部が痛み始める。
「それにしても、先に言って欲しいものだわ」
「魔剣は血の契約と共に持ち主となる人物の全てを把握しようとする。咄嗟な攻撃で本来の自分が現れるからな」
「……納得できるけど、納得できない!」
「そうか」
魔剣の試練だということで色々と覚悟は決めていたけど、まさか刺されるとは思ってもいなかった。
「それで、この剣の名前なんだけど資料のどこにも書いてなかったわ」
私はずっと疑問に思っていたことを聞くことにした。
「ああ、その魔剣は”グルブレスト”という」
私の魔剣はそんな名前だったわけね。
最初のときに自己紹介ぐらいすればいいのに、精霊というのは恥ずかしがり屋なのだろうか。
「まぁいいわ。魔剣グルブレストを手にしてどうすればいいのかしら」
「まずはその剣の力を試してみるがいい」
そう言ってブラド団長は鞘に入ったままの私の剣を指差した。
どうやら今ここで試してみろと言っているようだ。
「わかったわ。やればいいんでしょ」
少し面倒だと感じながらも私は興味に湧いていた。
エレインと同じ強さの魔剣ではないにしろ、少しでも近付くことができたような気がしたからだ。
「その剣の能力である”分散”は未知数だ。我々聖騎士団でも正確には把握できていない」
「それってエレインの魔剣と同じってことよね?」
「ああ」
その言葉を聞いて少し安心した。
未知数と言われるのが、彼と同じになっているような感覚がしたからだ。
離れていてもこの想いは変わらない。
そんな決意を抱きながら魔剣を引き抜いた。
「美しい刀身だな」
団長の言う通り、この剣の刀身は白く陶器のように綺麗である。
そして、レイピア型ということで細く鋭い剣先が特徴的だ。
この細い剣先から繰り広げられる攻撃を分散させることで戦斧のような重たい攻撃まで幅広い戦い方を行うことができるようだ。
「試しに振ってみろ」
「ええ」
そう言って一振り振ってみる。
ただそのままに振ってみると普通のレイピアのようにヒュンっといった刃音が聞こえる。
「魔剣の力を使う時は、その剣にお願いするように念じろ。そうすれば感覚は掴めてくる」
「お願いするみたいに、ね」
私は魔剣に頼み事をした。
次の剣撃は重たい一撃にしたい、そう念じることにした。
すると、魔剣を持っている手のひらが熱を持ち始め力が溢れていることが感覚としてわかった。
これが魔剣の力というものなのね。
「振ってみるわ」
「やってみろ」
縦に剣を振ってみせた。
ブゥウオン!
レイピアからは想像できないような強烈な低音が部屋に響くと同時に私が先ほどまで寝ていたベッドが半分に斬れていた。
いや、叩き斬られていたという表現が正しいだろうか。
それにしてもベッドから十分に離れて振ったのだが、間合いを超えて剣撃が伝わったというのだろうか。
「なるほど、分散と言う能力もなかなかのものだな。まさか間合いの外から攻撃できるとは思ってもいなかった」
「そうね。これならいろんな攻撃ができるわ」
間合いという概念がなくなるため、相手は当然混乱することだろう。
私たちの訓練ではいずれも間合いを意識した戦い方であった。
この剣を使うことでその間合いを崩すことも簡単なのかもしれない。
とは言っても、分散というぐらいだから距離に応じてその威力は下がることだろう。
無理やり面積を引き伸ばしたところで攻撃自体の力は変わらないのだから。
「想像以上の成果だ。よくやった」
「……なんか癪に触るわね」
団長も褒めるのなら言葉を選んでほしいところだ。
その言い方だとあまりにも上から目線過ぎて、嬉しいとは感じない。
私はそんなことを言いながら、魔剣グルブレストを鞘に収めた。
すると、先ほどの反動からか腹部の痛みがひどくなったのを感じた。
「大丈夫か?」
「そこまで力一杯振ったつもりはなかったのだけど、思ったより傷は大きいようね」
細い剣先が突き刺さった程度ではない。
体内を少しだけえぐられているようにも思えた。
この傷は二、三日程度では治りそうにないかもしれない。
◆◆◆
俺はアレイシアの美しい肌をボディソープの泡で優しく洗い、そのまま体を支えながらお風呂に入れさせる。
それから自分の体を洗い始める。
「……」
その様子を見て彼女はムッとした表情をする。
「どうしたんだ?」
「お義姉さんが体を洗ってあげたのに」
そう言って彼女は肘を浴槽の縁に突いた。
お互いタオル一枚という恥ずかしさはもうないのか、耳まで真っ赤になっていた顔が落ち着きを取り戻しているようだ。
「さすがに自分の体は洗える」
「私だって背中ぐらいは流せるよ?」
「そうか。いつか……」
すると風呂場の扉が開いた。
「エレイン様、ここにいたのですね」
「……リーリア」
そうアレイシアは言葉を漏らした。
俺を挟んで彼女とリーリアは視線を交差させる。
「アレイシア様、エレイン様と何をしておられたのですか?」
「っ! リーリアこそ何をしにここに来たのよ」
アレイシアは落ち着きを取り戻していた表情を再度紅潮させながら言い放つ。
「私はただエレイン様のメイドとして、お務めを……」
「そんなお務めなんてないから、エレインも迷惑でしょ?」
できれば、俺に話を振らないで欲しかったのだが仕方ないか。
「別に迷惑ではない。ただ湯船につかることができればいいだけだからな」
「あ、エレイン様。お身体を洗いますね」
「……怪我は大丈夫なのか?」
確か、リーリアは怪我を負っていたはずだ。
詳しくは確認していないが、背中から血が出ていたのを見ていたからな。
「回復系の能力を持った聖剣使いがいたのですぐに完治しました。傷痕もありませんよ?」
そう言ってリーリアは背中を見せる。
「ふむ、綺麗なものだな」
その美しく白い背中にはどこにも傷痕はなかった。
なるほど、聖剣には回復系の能力もあるものなんだな。
「ちょっと、エレイン?」
「なんだ」
アレイシアが浴槽から身を乗り出して聞いてくる。
「わ・た・し・は?」
何かを強調しているようなのだが、その意図がよくわからない。
「一見するとどこも怪我はしていないように見えるが、神経の一部が損傷を受けている。その後遺症で足の動きに制限がある」
「分析じゃなくて、ね?」
「……」
何が言いたいのか考えていると、リーリアが泡を自身にまとわせて俺の体に密着させる。
「っ! ……リーリア?」
俺はその柔らかくも温かい感触に驚きながらそう言った。
「なんでしょうか」
「その洗い方はなんだ?」
俺がそういうとリーリアは上目遣いで俺を見つめてきた。
「ふふっ、メイドはこうするものなのですよ?」
「そんなわけないでしょ! ほら、離れてよ」
アレイシアは俺からリーリアを引き剥がそうと浴槽から立ち上がるが、足がいうことを聞かないのか俺の方へと倒れてきた。
「きゃっ!」
俺は彼女の体を支えながら、そしてリーリアに抱き付かれながら床に倒れてしまった。
「……大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ。エレインは?」
リーリアの泡がアレイシアの体にも付着し、さらには俺のあらゆる部位にもまとわりついている。
彼女たちの柔らかい素肌はその泡でヌルヌルと体にこすれて、どことなく気持ちがいい。
そして、二人分の体が俺を覆っているため全身に未知の感触が伝わる。
これが理性が飛んでしまう、ということなのだろうか。
「エレイン様?」
「すまない……これ以上は……」
「アレイシア様! 大丈夫ですか!」
勢いよく扉を開けたのは夕食の片付けをしていたユレイナであった。
「こ、これは一体どういう状況ですか?」
「えっと……これはね?」
「メイドとしてのご奉仕をしていたところです」
アレイシアとリーリアは真っ直ぐユレイナの方を見る。
「そうですか。では私もメイドとしてご奉仕しなければいけませんね」
「ちょっと、ユレイナまで入ったら浴槽が……」
「密着すれば問題ありません」
そう言ってユレイナは服を脱ぎ出した。
「悪いが、俺は先に出る……」
「ダメよ」「ダメです」「ダメですから」
三人が同時にそう言った。
それから俺は三人の美少女に囲まれ、湯船につかることにした。
これでは疲れが取れないではないか。
まぁこう言ったことは今後、二度と訪れることはないだろうと別の意味で満喫することにした。
その後のこと、俺の部屋に戻るとアンドレイアが話しかけてきた。
「お主よ」
「……どうした」
ベッドの上から俺をジト目で見つめてくる。
「男冥利に尽きるというものじゃの?」
「そうなのかもしれないな」
すると、彼女は顔を風呂場の方へと向けて口を開いた。
「全く、勿怪の幸いとはこのことじゃ」
そう言って再度俺にジト目を向けてくる。
これから彼女と一緒に寝ると言うことが、少し怖くなってきたのは言うまでもないだろう。
こんにちは、結坂有です。
ミリシアの手に入れた魔剣は非常に強力なもののようですね。
これからどう言った活躍を見せるのでしょうか。
それから少しハーレム展開となってしまったのですが、エレインは疲れを癒すことはできなかったようです。
そして、次でこの章は終わりとなります。
それでは次回もお楽しみに。
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