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新たな次元を求めて

 アイリス、リーリア、ルクラリズの三人を連れて訓練場へと入る。フラドレッド本家の訓練場は宗家という屋敷ながらも小さいものとなっている。もちろん、流派から分かれた分家が数多くあり、それぞれの家で訓練をするという形になっているために一つの大きな訓練場などは必要ないのだろう。

 しかし、理由はそれだけではないのだ。訓練場の価値は広さだけでなく、様々な状況を想定した場所が必要となる。

 この家の訓練場は屋内と屋外があり、特に屋外の地面はあえて水捌けの悪い地面にしている。そうすることでぬかるんだ地面などを再現したりもできる。足場の悪いぬかるんだ地面での戦闘は体幹の強さが重要となってくる。屋内の安定した地面とは違って環境の方にも意識を向ける必要がある。

 もちろん、そういった予想できない状況に早い段階で慣れておくことで応用力なども鍛えられる上に、体幹も同時に鍛えることができる。

 そういったことを訓練の段階に取り入れていたことこそ、今までフラドレッド流剣術が実戦で多大な功績を残してきた理由と言える。それに様々な武器に慣れておけるよう木剣の種類も多く揃えているというのも大きい。魔族の中にも武器を使ってくる連中もいるからな。

 どのような武器にどういった長所や短所があるのか、自分の感覚として身に付けておくことで戦いを有利に運ぶこともできる。

 実戦においても剣術競技においても高い成績を収めてきたフラドレッド家はやはりそうなるための理由があったということだ。


「お兄様、訓練は木剣で行いましょう」


 訓練場へと入るとアイリスはそういって自分の剣の形に合った木剣を手に取った。対する俺は聖剣イレイラと同じ形の木刀を取る。鞘付きの木刀でイレイラよりかは短いものの扱いとしてはそれと大差ないものだ。


「ルクラリズは自分の慣れた武器で大丈夫だ」

「ええ、わかったわ」


 俺がそう言うとルクラリズは長剣を手にして軽く構えてみせた。彼女が持つその長剣は両刃の剣で立てると彼女の顎下近くまである長さのものだ。それゆえに扱いが非常に難しいものだ。

 筋力的には魔族であるために問題ないだろうが、扱いが難しいのは変わりない。

 リーリアも俺が言う前に短剣を二本手にしていた。


「それで、何から始めるんだ」

「そうですね。まずはユウナさんがよく話している光る剣というのを見せてほしいです」

「アイリスも同じ技を使えると思うが?」

「結果だけを見れば同じ光る剣です。しかし、技の本質はそれではないと私は思っています」


 確かに彼女の言う通りだ。

 やり方が人それぞれというように同じような技でも細かい部分が違ってくるというものか。

 そういうと彼女は剣を前にして防御の姿勢になる。


「私が受け止めますので早速始めましょう」

「ああ」

「私は強いです。本気でお願いします」


 そう言われては手を抜くわけにはいかないな。アイリスほどの実力者であれば俺が普段手を抜いているというのはわかっていることだろう。


「木剣が壊れない程度に本気を出すとしよう」


 フラドレッド家が使う訓練用の木剣は一般的に売られているものとは違って軸に鉄の棒が埋め込まれている。木剣としての重量や強度を増したりしている。

 そうとはいってもやり方次第では木剣同士のの打ち合いで両断することもできるからな。


「はい。わかりました」


 俺は防御の姿勢を取るアイリスに向かってゆっくりと進んで、彼女が間合いに入ったと同時に鞘に納まった状態の木刀を自分の前に出して、瞬時に横方向に斬撃を繰り出す。

 状況によっては円状に斬撃を繰り出すこともできる瞬裂閃という俺の得意とする技の一つだ。光る剣の技で簡単な部類に入る攻撃術で連続的な斬撃もなく比較的再現しやすいものだ。しかしながら、この技を再現できた人は小さき盾を含めてまだ誰もいないのだがな。


 バゴォンッ


 剣閃が輝くと同時にアイリスの木剣から鈍い音が鳴る。


「っ!」


 その強烈な衝撃に彼女は弾かれたように仰け反るが、剣を落とさずにすぐ体を反転させてうまく衝撃を逃がして姿勢を整える。

 立て直しはそれなりに早かったものの、もし俺が追撃しようと思えば今の速度では遅すぎる。


「……凄まじい攻撃でした」

「これでも木剣が壊れない程度には抑えたほうだ」

「では、本気の一歩手前ということですか」

「そうではないかもしれないな。レイに言わしてみれば弱々しい剣だと言うだろう」

「なるほど、本気と言うにはあまりにも粗末な技だったということですね」


 すると、少し離れていたリーリアが一つの古い木製の人形を引きずり出してきた。

 ここの訓練場に設置されているものは木剣を含めかなり強度が高いものだ。あの人形もかなり古いものだが、形としては端に置かれている人形と同じものだろう。当然ながら、あの人形の中にも金属の骨組みが組み込まれているはずだ。


「エレイン様、この人形は廃棄予定のものです。これなら完全に破壊してしまっても問題ありません」

「助かります。これならお兄様がわざわざ力を抑える必要はありませんね」


 まぁ人形相手なら人を怪我させることもないか。それに廃棄予定であればなおさらだな。


「そうだな。本気を見せろと言われて手を抜いていたのでは意味がないか」

「では、お願いします」

「私からもお願いします」


 アイリスとリーリアがそう言うとルクラリズも早く見せてほしいと目で訴えてくる。

 確かにこうして他人に見られながら思いっきり技を披露するというのはあまりないからな。小さき盾の四人以外なら、四大騎士の一人ルカに見せたぐらいだ。


「わかった」


 自身の木刀の具合を確かめると再び俺は鞘に納めてその人形のもとへとゆっくりと歩いていく。

 そして、さっきと同じ要領で前に出すとそこから一気に鞘から引き抜き、横方向に斬撃を繰り出す。その剣閃は閃光のように光を放ち、先程よりももっと速く、もっと強く繰り出された斬撃は音速を優に超えている。


 ジュバンッ!


 さっきとは違って空気ごと斬り裂かれるこの斬撃は大きな鈍い音を立てない。ただ物体が斬り裂かれていく音が残され、遅れて破裂するような音と同時に斬り離された人形の首が超音速の圧によって上方へと吹き飛ぶ。

 そして、若干の木が焦げた匂いが漂う。


「えっ!」


 まっさきに声を上げたのはルクラリズだ。

 人形がどのように斬れたのかを目で確認した俺は振り返って三人の表情を見てみる。

 ルクラリズは大きな口を開けて驚き、リーリアは真剣でいて超常的なものを見たかのような唖然とした表情で斬られた人形を見つめ、アイリスは真っ直ぐな目で人形と俺の木刀とを見比べていた。

 エルラトラムに来て初めてこの技を実演したが、どうやら誰でもミリシアやアレクと同じような反応をするようだ。まぁレイは力技でやってのける男でそこまで驚きはしていなかったか。


「エレイン様、先程のは……」

「瞬裂閃という技だ。俺が技の名前を付けたわけではないが、そう捉えてくれていい」

「瞬裂閃……その名前の通り凄まじくも恐ろしい技ですね」


 転がった木人形の首を拾い上げてアイリスはそういった。彼女の持つその首の断面はなめらかではあるものの、高温のバーナーで焼かれたかのように薄黒く焦げている。

 俺の木刀も削れてはいないものの熱で若干焦げた跡が残っている。

 すると、ルクラリズが目を丸くして口を開いた。


「エレインの剣がほとんど壊れていないってのはどういうことっ! あんな勢いで人形を斬ったっていうのに……」

「ルクラリズさん、簡単な話です。光る剣というのは刃の周りに薄く空気の層を作るものです。音速を超えるときに生じる衝撃波をうまく利用して作るのですよ」

「つまりはその層が刃が壊れるのを防いだってことなの?」

「まぁ大体はアイリスの解説で合っている。俺の瞬裂閃はその空気の層をもっと薄く維持するものだ。断面を見てわかるように乱れはほとんどない」


 その断面は波打つようにして焦げた色が付いているだけで平らで滑らかなものとなっている。

 すると、その断面を見たリーリアが俺の方を向いて口を開く。


「そのような力をどうやって引き出しているのでしょうか。筋力だけに頼ってるようには見えませんが?」

「全身の力を剣先に集中させるんだ」

「全身?」

「足から指先にかけてのすべての筋肉をうまく作用させる」


 一つでは小さな力だが、連鎖させてうまく利用すればより大きな力へと変化する。鋭くも小さく動かした鞭の先端が音速を超えるのと同じく、力をうまく繋ぎ合わせて大きくするのだ。


「本当にとんでもないお兄様です」


 そういったアイリスはまっすぐと凛々しい目をしているが、尊敬の意志も感じられるそんな目で俺を見つめていた。

こんにちは、結坂有です。


エレインの久しぶりの瞬裂閃という技が出ましたね。それも本気バージョンの……

木刀でそれなりに強度のある木人形を両断してしまうなんてとんでもない技術です。強い木刀とはいえ、やはりエレインはこの世界において最強の人間だということなのでしょう。


それでは次回もお楽しみに……



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