準備、そして妹様の寝起き
俺、ブラドは夜、議会の外を歩いていた。俺が向かっている場所は自身の確保している大きな敷地だ。山の一角で周囲は木々に囲まれており俺が訓練をしている場所を誰かに見られることはない。
フィレスは自主的に修行をしているように俺も訓練をしなければいけない。もちろん、今から新たに技を習得することは難しいだろうが、体が鈍らないようにと訓練は必要なのだ。
まぁ訓練と言っても魔剣の分身という能力を使って自分一人でするのだがな。俺の戦い方は基本的に分身を使ったもので聖騎士団時代には増える剣術とよく言われたものだ。
だが、聖騎士団を脱退してからのこと、魔族と戦うことは少ない。大怪我を負った後ということもあり、かなり体が鈍っているのは間違いないだろう。
議会を出て十数分歩くと訓練場へとたどり着く。俺はいつものように柵を超え、敷地内に入る。随分と長くここに来ていなかったが、いつもと変わらず草の匂いが漂う場所だ。
「ふっ!」
しばらく剣を引き抜いていなかったが、俺は聖剣の一本を丁寧に引き抜くと前に大きく振り下ろした。
ヒュンっと空気を斬る心地よい音が訓練場に響く。俺の流派は我流となっているもののベースとなっているのは閃剣流と呼ばれるものだ。閃剣流は古い剣術で派生する流派もかなり多い。
この国ではあまり知られていないのだが、この流派は外国から入ってきた剣術も取り入れられている。そのためこことは違うあらゆる環境で進化し続けた技が多いのだ。学生時代、修行をしていた俺は知らなかったが、結果として聖騎士団に入ったときも異国で環境が変わっても一定の戦績を出し続けることができた。
「はっ」
振り下ろした剣の位置を変えずにさっと体を前に移動する。こうすることで剣を自分の体で隠すことができる。そして、足を一歩だけ大きく踏み出して横一文字に斬り裂く。
閃剣流で一番基本となる型の一つを俺は繰り出した。
別に大した技術でもなんでもなく、シンプルな技ではあるが、動作の基本が全て一つに揃っているものでもある。多くの高度な技のほとんどはこれの応用だからな。
「……軸足をうまく使えていないな」
振り返って先程の足跡を見てみる。どれも深さが一定で踏み込むときにしっかりと重心が移動できていないことがわかる。これでは相手に伝わる剣の重みがない。簡単に受け流されたり弾かれたりする。
もちろんだが、想定している相手は人間よりも強力な力を持っている魔族だ。甘い攻撃はまったく通用しない。
俺は魔剣の一つを引き抜き地面に突き刺すと黒い分身が数体出現した。そして、彼らは剣を引き抜いて俺の方へと構えている。
「少し実戦形式の訓練でもしないとな」
感覚を取り戻すためにと意識しながら俺は剣を構え直す。
一呼吸置いて一気に地面を蹴り、分身の方へと斬り込んでいく。速度を徐々に加速させながらも剣に重さを加える重心移動を意識しつつ攻撃を続ける。分身は攻撃こそしないものの俺の攻撃を避けるようにして動いている。ただ立っているだけでは訓練にもならないからな。
「はぁっ!」
俺は攻撃の手を緩めることはなく、さらに加速させていった。聖騎士団時代を思い出すように一撃一撃しっかりと意識して訓練を続ける。
しかし、どれだけ激しく加速させたとしても感覚は全く変わらないままだ。明らかに俺は以前と比べて弱くなっているのを自覚したのであった。
◆◆◆
翌朝、ゆっくりと目を覚ました。
俺、エレインは妙な生暖かさを左半身に感じた。
「……んっ」
左の方を向いてみるとアイリスが寝ていた。距離がかなり近いように感じた。彼女の寝息が撫でるように俺の肩に触れる。明るくなり始めた朝日が彼女の頬を照らすと寝間着が崩れているのが見えた。ただでさえ露出の多い服装だったために今の彼女はかなり際どい状態となっている。
俺はそんな彼女の体を掛け布団で隠すようにして俺はベッドから起き上がった。
「お兄様ぁ?」
ベッドから出ると背後からアイリスが話しかけてきた。寝起きでいつも凛々しくしっかりとした口調からゆったりと甘い吐息混じりの声となっている。
「起こしてしまったか?」
「……大丈夫ですぅ」
目元を軽く擦りながら彼女もゆっくりと起き上がる。
すると、掛け布団がするりと落ちて隠していた彼女の体が顕になる。
「ふうぅん……落ちちゃいましたねぇ」
そう子どものようにあどけない表情とふわふわとした口調でそういった。その表情とは打って変わって、ふんわりと膨らみを持った胸元がかなり際どく開けており、その姿はかなり色気の含んだ大人な雰囲気を漂わしている。
「へ? 乱れて、ますか?」
「かなり崩れているように見えるがな」
そういって俺は近くに置かれた服を取り、着替えることにした。
「もうお兄様はぁ、大胆ですねぇ」
寝間着を脱ぐ俺の姿を見ながら彼女は優しくふんわりとした笑みを浮かべながら言った。
「普段着に着替えるだけだ」
彼女は自分でも朝はかなり弱いと言っていたが、まさかここまで弱いとは思ってもいなかった。いつもの彼女の様子とは全く違って愛玩動物のようにも見える。ここまで愛くるしい表情をした彼女は普段ではまず見れないだろうな。
しかし、愛くるしいのと同時にお酒に酔っているほどにふわふわとしている。寝起きは思考速度が低下しているために仕方のないことではあるのだが、これはこれで少し問題ではあるな。
「俺が脱がしたわけではないとだけ言っておく」
「えへへ、もっと見ちゃいますかぁ」
「……もうすぐ朝食の時間だ。それまでに着替えれるか?」
「むぅ、わかりましたぁ」
まだ思考速度が上がっていないのか、ふわふわしたまま彼女はそう返事をした。
俺の前だからいいものの、これでは他人と一緒に眠ることは難しいだろうな。少なくとも相手が男性であれば問題事になるかもしれない。
そんな良からぬ想像を振り払うようにして俺は自分の部屋から聖剣を携えて出ることにした。
こんにちは、結坂有です。
寝起きのあどけない表情と大人な雰囲気を併せ持った今回のアイリスをもし、リーリアが見たりでもすれば……
今回は運が良かったとしか言えませんね。
それでは次回もお楽しみに……
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