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妹様の登場

 ドルタナ王国第二王女ラフィンと小一時間ほど話したところでユレイナが俺たちのところへと戻ってきた。


「ドルタナ王国第二王女ラフィンの亡命を一時的に認めることにしました。私たちエルラトラム議会は人命を第一に考える存在であるべきだとして議会一致で承認しました」


 エルラトラムは人類の脅威となる存在を除き、すべての人命は守るべきだという信念を持っている。もちろん、俺もその考えに同意だ。


「一つ、よろしいでしょうか」


 ユレイナからそのような説明を受けるとラフィンはゆっくりと立ち上がって質問を始めた。


「はい。なんでしょうか」

「議会の人たちは私が嘘を付いているという可能性を考えなかったのでしょうか。もし私が本当の反逆者だとすれば、エルラトラムとドルタナ王国の関係は今後も進展しないと思います」


 確かにラフィンのいうことは正しいだろう。自国の反逆者を匿っているとなれば、双方の関係は悪化こそすれ、進展することはない。

 当然ながら、議員の人たちも馬鹿というわけではない。そのことを考慮した上で承認したはずだ。


「ラフィン王女が嘘をついている可能性ですか。しかし、一国の体制に反旗を翻したところで人類の存亡には直接関係のないことです。ラフィン王女は魔族と繋がっているとでも言うのでしょうか」

「……そうですか。一国の反逆者だとしても命は守る、ということですね」

「もちろんです。この世に死んでもいい人間などいませんから。それに、嘘を付いている人が自ら不利になるような発言をするとは思えません」


 ユレイナがそう言うとラフィンは納得したようにゆっくりとソファに座った。さすがの彼女も一貫した議会の考えに反論することができないだろう。


「エレイン様、議会の決定に異議はありませんか?」


 すると、俺に視線を向けて彼女は質問をしてきた。


「ああ。ここで話していてわかったことだが、彼女に問題があるとも思えないからな」

「私もエレイン様と同じ意見です」

「わかりました。議会にそう報告します。次の報告ですが、今はラフィン王女の亡命を許可しただけで住む場所はまだ確保しておりません」


 今朝、急にエルラトラムへ来たラフィンの住む場所をすぐに提供できるはずもない。宿もないわけではないが、あらゆる可能性を考えてそういった場所に住まわせることはできないだろう。

 さらに言えば、この国は魔族との戦いに備えてあらゆる軍備に予算を割り当てている。当然ながら使うかわからない亡命者専用施設を建設している余裕はない。

 となればこの議会のどこかということになるか。一時期、ラクアやマナと同じような生活をさせることになる。


「別に構いません。私は突然押しかけてきた無礼者です。そのような贅沢をさせてほしいとは言いません」

「まだ会議中ですので、追って報告させていただきます」

「なら、独房でも構いません。安全が確保されている上に管理も簡単でしょう」

「さすがにそのような場所に監禁するようなことは……」


 ラフィンの覚悟に満ちた表情にユレイナは言葉を詰まらせる。

 それもそうだろう。彼女がどこまでの覚悟を持ってここまで来たのかはわからないが、犯罪者扱いされても構わないとまで言えるとはな。

 しかし、独房にしても議会で住むにしても問題があるのは確かだ。


「……小さき盾の屋敷はどうだ?」

「小さき盾の、ですか」

「ああ、あの場所なら独房よりも自由だ。それに議会管轄の組織でラフィンの管理も楽にできるはずだ」

「そうですね。ちょうど今は部屋に余裕があります」


 小さき盾からミリシアとレイがドルタナ王国へと調査に向かっていることだからな。


「確かにそれなら解決できそうですね」

「そこには俺が連れて行こうか」

「わかりました。私から議会にその提案をさせていただきます」


 そういってユレイナは議会の会議室へと向かった。

 すると、俺と彼女とのやり取りを横で見ていたラフィンが俺の目を見て首を傾げながら口を開いた。


「小さき盾、というのは魔族領を初めて解放した部隊のことでしょうか?」

「そうだな」

「……ラフィン様、正確には剣聖であるエレイン様と共闘して解放したのです」

「まぁ、その部隊が住んでいる家があるんだ。そこなら安全だろう?」


 あの家ほど安全が確保された場所はそうそうないからな。少なくとも独房や色んな人が出入りする議会よりかは安全なはずだ。


「本当の部隊、なのですね?」

「ドルタナ王国からは少し遠いが、魔族領の一つを解放したのは確かだ」

「そのような部隊の方々は私のような人を受け入れてくれるでしょうか……」


 何を心配しているのかと最初は思ったが、考えてみれば軍人の集まる家ということだ。王族として育てられてきた自分が馴染めるか不安なのだろうな。

 きっと彼女は筋肉隆々のレイのような人がたくさんいると思っているのかもしれない。


「あまり心配はするな。すぐに慣れる」

「それはどういう意味ですか?」

「行けばわかる」


 そういって俺はラフィンをその家へと連れて行くことにした。

 議会にアレイシアを残すことになるが、ユレイナや小さき盾のユウナ、ナリアもいることだ。それにあの会議からは殺意を感じることはなかったからな。


 それから議会からしばらく歩いて家に到着する。

 最近は本家で住むことが多かったが、内装はほとんど変わっていないことだろう。


「……この家がそうなのですか?」

「ああ、俺も一時期ここで住んでいたことがある。内装は普通の屋敷と大差ない」

「そうなのですね」


 まだ不安のままの彼女を無視するように俺は家の扉を開くことにした。

 扉を開けるとすぐにルクラリズが走ってきた。俺の気配を察知したのだろう。


「エレインっ……様っ!」

「様は付けなくてもいい。久しぶりだな」

「……そうよっ。ここの訓練は大変なんだからっ」


 何日も顔を合わせないでいたが、少しずつこの家の環境に慣れてきているようだ。まぁ純粋な魔族である彼女ならアレクたちの訓練に追いつくことができるだろう。ただ問題なのは……


「エレイン様ぁ! もうあの二人には付いていけましぇーん」


 すると、遅れて奥からユウナがフラフラと歩いてきて、バタッと膝を突いた。


「何があったんだ?」

「もう地獄ですよぉ。あんなの無理ですよぉ」


 いつも以上にユウナが疲弊している様子だ。レイとの訓練でもこんなふうにならなかったのだが、訓練場で一体何が起こっているのだろうか。

 少なくともミリシアやレイに振り回されているわけではないのだがな。


「地獄……」


 俺の横でラフィンがぼそっと不安そうにつぶやいた。ユウナの発言に少し驚いている様子だった。


「まぁそう怯える必要はない。小さき盾のルクラリズとユウナだ。想像していたのとは違うだろう?」

「そうかもしれませんが、外見だけではなんとも判断できません。ただ、人形のように美しい方だなと……」

「え! 私ですかっ!」

「いえ、銀髪の方ですよ」


 ラフィンが優しく微笑みながらそう答えると、ユウナはまたガクッと頭を下げた。


「それより、訓練場に誰か来ているのか?」

「……もうエレイン様はどうしてあんな強い人を普通だと言ったんですかっ」


 そう言いながらも彼女はフラフラとしながらも立ち上がり、俺たちを案内してくれた。

 その彼女の発言で俺は誰がここに来ているのかわかった。

 廊下を歩いていると剣撃の音が聞こえてきた。剣撃とは言ってもそれは木剣で、正確には木が削れるような音だ。


「なるほどな」


 訓練場で何が行われているのか扉を開ける直前に理解した。

 その激しい木剣の音が鳴っている訓練場の扉を開けるとそこにはアレクと俺の妹となったアイリスがいた。


「彼に似て鋭い攻撃だね」

「ありがとうございます。アレクさんもお強い方なのは確かですよ」

「まったく、この感覚は懐かしいよっ」


 ダッと地面を蹴ったアレクは勢いよくアイリスの懐へと突撃する。それでもアイリスの体勢が崩れることはなく、安定して流動的で連続的な彼の攻撃を受け流していく。

 アレクのあの攻撃は訓練施設での頃と比べてかなり洗練されているように見える。魔族と戦っていき、さらにはミリシアやレイとの訓練で日々進化しているのだ。変わっていないほうがおかしいか。


「見えましたよっ」


 さっとアレクの横へと回り込んだアイリスは彼に鋭い突きを入れる。


「っ!」


 それでも彼は体を器用に動かしてその攻撃を避ける。しかし、その無理な回避行動が裏目に出てしまったのかその崩れた体勢に彼女は一気に攻撃を加え、畳み掛ける。


「アレクさんがあんなに……」


 ユウナが彼らの戦いをみてそういった。確かにあれほどに素早く勢いのある戦いはそう見ることはできないからな。


「……僕の負け、だね。見事だよ」


 崩れた体勢を整えることができず、剣を弾かれたアレクはそう負けたことを告げた。


「ありがとうございます。ですが、私もさきほどアレクさんの一撃を受けました。致命傷ではないかもしれませんが、鋭い一撃でしたよ」

「つまりは引き分け、ということかな?」


 なるほど、アイリスは昼間、いつもここで彼らとともに訓練をしているようだ。

こんにちは、結坂有です。


ひさしぶりのアイリスたちの登場ですが、これからは彼女たちとラフィンの関係はどうなっていくのでしょうか。

面白くなりそうですね。


それでは次回もお楽しみに……



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