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第二王女との雑談

 俺、エレインはドルタナ王国第二王女のラフィンと一緒に控室へと向かっていた。俺の横にはリーリアも立っている。会議が長引いているのかまだアレイシアやユレイナが戻ってくる気配はない。

 俺は控室でラフィンと雑談を交わしていた。彼女は亡命した後でも王国の心配をしているようだ。直接心配だと口では言っていないものの、そういった思いがあるのは察しの悪い俺でもわかる。

 少なくとも彼女は王家としてではなく一人のドルタナ王国民として王国の未来を心配している。王家という血筋などは関係なく、王国民の将来を深く考えている。それこそが民を統べる本来の王のあるべき姿だろう。大きな権力を振りかざすことが王の役目ではないのだ。

 と、そんな事を考えながら、ラフィンの語るドルタナ王国の話を聞いていた。俺の横で立っているリーリアは当時からほとんど変わっていない国民性に驚きを隠せない様子だった。


「ラフィン王女の話を聞いているとドルタナ王国民は自主性がないような気がします」

「自主性、ですか」

「はい。国王に頼るばかりで自発的な生活ができているとは思えません」


 確かに独裁体制では主権者である王家などがすべて決定するだけに国民の自主性はないように思える。しかし、魔族が蔓延るこんな世の中でのびのびと暮らせるわけがない。ドルタナ王国は地形的にも魔族に狙われやすい場所にある。そんな所では不安や恐怖ばかりが募るだけで、自主性などと言っている場合ではないのかもしれない。

 それならいっそのこと、王家などがすべてを決定すればいいだけの話だ。


「国王に頼るばかり、確かにその通りなのかもしれませんね」

「私はあの国を調査したときに思っていました。王国民は王の奴隷なのではないかと……」

「私の感想ですが、民は私たち王家を自発的に頼っているように思います。民の多くは魔族の恐ろしさを知っていますからね。そんな彼らが誰かに縋りたいと思うのは当然でしょう」


 リーリアがそう言うと、ラフィンが彼女の言葉を遮るようにそういった。

 王国の成り立ちは彼女の話で聞いた。魔族の侵攻により混乱した前体制は崩壊。そこで彼女の先代である初代国王が自ら聖剣を持って民を導いたようだ。そういった経緯があるからこそ、民は王家に絶対の忠誠を誓っているのだろう。


「リーリアはメイドで、自分のことよりも俺のことを優先するのだろう?」

「……はい、そうですね」

「窮地において、俺の身代わりになれと言われればそうするか?」

「もちろんでございます」

「それはつまり、俺の奴隷ということか?」

「いえ、私は私の意志でエレイン様に忠誠を誓いました。奴隷ではなく従者であると自覚しています」


 俺がそういうと彼女ははっきりとそういった。

 おそらく彼女の言葉とドルタナ王国民の意見は同じようなものだ。彼らは伝統ある王家の従者だと誇りを持って言うだろう。それは虐げられる奴隷ではないのかもしれない。

 エルラトラムの民主的な議会とは違って、そもそもドルタナ王国のような絶対君主制なやり方は即断即決が強みだ。もちろん民主的か、独裁的かで善悪の区別はできない。ここで大切なのは結果なのであって、それら手段は関係ないのだ。

 ラフィンの話からは民衆が虐げられているというわけではなく、皆楽しく平和に過ごしているようだ。つまり彼らには安全が担保されているということでもある。専制主義の結果として安全と平穏が保たれているのだとすれば正しいと言えるだろう。


「なら、経緯は違えど、王国民も同じだろう。彼らは自発的に従者になっただけで奴隷になったとは思っていない」


 すると、彼女ははっとしたのか俺から視線をそらしてラフィンの方へと向いた。


「申し訳ございません。私はラフィン王女と対立したいとは思っていません。先程の無礼をお許しください」


 そういって彼女は丁寧に頭を下げた。


「いえ、私も少し感情的になってしまいましたね」


 彼女の謝罪をラフィンは受け入れてくれたようだ。確かに思想の違いはしばしば対立を生むこともある。だが、しっかりと話し合えば、納得できる点もあるはずだ。無意味な対立は避けるべきだ。


「……ところで、話によれば剣聖エレインは我流の剣術だと聞いております。よろしければ、その話を聞かせてもらえないでしょうか」


 ラフィンはドルタナ王国の話を終えると、俺にそう話しかけてきた。別に隠すような内容でもないか。我流の剣術だというのは剣術学院時代から広まっていることだしな。


「確かに俺は我流の剣術使いだな。エルラトラムのどの流派にも属さない」

「既存の流派から派生、進化したというわけでもないのですか?」

「そうだな」

「私からも補足させていただきます。エレイン様の剣術はどの流派にも属しません。議会の地下書庫にある剣術の派生系譜からも確認できます」


 エルラトラムでは新たな流派を立ち上げる時、その創始者の経歴を基にして派生系譜が追加されていく。当然ながら、もともとセルバン帝国にいた俺にはこの国での経歴はなく、この国にはないまったく新しい剣術だ。

 それに地下訓練施設でも教えられた技を自分なりに変えたりしていたからな。そういった点でもほとんど我流と言ってもいいだろう。


「……記録にもない剣術、ですか」

「ただの創作剣術ではありません。対人戦だけではなく、魔族との戦いでも通用する実戦剣術です」


 さらにリーリアが補足を入れる。まるで自慢するかのように楽しくはきはきと話している。そんな彼女を横目にラフィンの表情を見てみる。

 少し考え込んだあと、大きく頷いてラフィンは机に置かれた紅茶を一口飲んだ。


「どちらかに特化したのではなく、双方にも通用するということですか。話だけを聞くと恐ろしいお方ですね」


 恐ろしいと言いながらも彼女は少し面白そうな表情でティーカップを机に置いた。


「面白いか?」

「ええ、私も王家という血筋のため剣術を学んでおりました。私に剣術を指南していただきました特級剣士の方もどちらにも通用する剣の使い手でしたから」


 師匠となる人と似ていたということだろうか。エルラトラムは現在、魔族に特化した戦術が多く広まっている。対人まで視野に入れたものは近年ではなくなりつつあるらしい。

 剣術競技が盛んなドルタナ王国は少しだけ違うのだろうか。


「珍しいですね。王国は確か対魔族戦だけを視野に入れていたはずです」

「……よくご存知ですね。剣術競技が盛んだとはいえ、魔族との戦いが基礎となっています。もともと魔族との戦いを想定した訓練から発展したものですからね」

「それならどうして対人戦の技を知っていたんだ?」

「彼はセルバン帝国に剣術修行に向かったことがある人です。当時はかなり非難されたそうですが、当の本人は気にしていないようでした。王国のために剣を磨く、そのためなら誰になんと言われようと構わないとまで言っていましたね」


 そうラフィンは思い出話をするかのように話した。

 その話を聞いたのも彼女が幼い頃の話なのだろうか。ただ、俺はそんなことよりも彼女の師匠が一度セルバン帝国に来ていたということが気になった。

 もし、会えるのだとすれば事態が落ち着いたときにでも話をしてみたいものだ。ちょうど彼女が幼い頃に帝国に向かっていたのだとすれば、俺が地下訓練施設にいた頃と時期が合う。当時の地上の様子は一体どうだったのだろうか。


「そうか。それなら一度会ってみたいものだな」

「私の無実が証明できれば、可能でしょう。彼もあなたに聞いてみたいことがあるはずですから」


 そういって彼女は紅茶を飲み干したのであった。

こんにちは、結坂有です。


更新が遅れてしまい、申し訳ございませんでした。


ラフィンは国民思いのいい王女のようですね。

ところで、本当の第一王女はどのような人なのでしょうか。そして、どこに彼女はいるのでしょうか。


それでは次回もお楽しみに……



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