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動けないもどかしさ

 私、ミリシアはレイと一緒に街の中を走り回っていた。もはや誰かに見られているということなど気にしている場合ではない。

 少なくとも、この街のどこかで何人かの人間が一斉に死んだのだ。それも奇妙な魔族の力も感じた。魔族の規模こそまだ小さいが、強力な存在であるのには変わりないはずだ。


「ミリシア、人が集まってねぇか?」


 すると、横で一緒に走っていたレイが道の奥へと指を指した。

 その方向を見てみると確かに人だかりができていた。


「……行ってみましょう」


 怒声が聞こえてくることからなにかの騒ぎが起きているのは間違いない。私たちの感じたものとは違うものかもしれないが、確認してみるべきだろう。

 近づいてみると甲冑を着た兵士たちの周りを人々が取り囲んでいるようだ。


「第二王女はどうなるんだ!」

「王家の人間がどうしてあんなことをしたんだ!」

「ジェビリー王女はなんで何も言わないんだよっ」


 さまざまな声が聞こえてくる。確かに第二王女ラフィンが逃亡した以外の情報がない状態だ。王城に集まっている兵士たちなら街で広まっている情報よりも多くのことを知っているはずだ。そんな彼らに人々が問いを投げかけるのは当然のことではあるか。


「……あの兵士、変じゃねぇか?」

「というと?」

「話しかけられているのに何も話そうとしていない。それに動きもあまりないように見えるな。耳栓でもしてるみてぇだな」

「目の前の人たちに反応していないのね」


 確かによく見てみると人々の話を聞いているような素振りもない。ただ自分たちの仕事をしているだけだ。彼らは小さな建物の警備をしている人と物資を入れ替えている者がいる人がいた。

 別にそれ自体に変な点はないのだが……。


「ちょっと変よね。あんなに人が集まってるのに」

「よっぽど根性があるんだろうな。それか思考が停止しているかだな」

「まぁ思考が止まっているっていうわけではないのかもしれないけれど……」


 すると、一人の市民が兵士に近づいていった。


「おいっ! なんか答えろよっ!」


 そういって一人の市民が物資を運んでいる兵士の肩を引っ張った。

 その直後、ものすごい勢いで肩を引っ張った市民が吹き飛ばされた。


「……」


 それでも兵士の人はなにも話すことはなかった。ただ、それが警告となったのか市民の人たちからそれ以上彼らに追及する声が止まった。


「なんだよ。あいつ」

「わからないけれど、あれも王女の命令なのかしら」

「知らねぇよ。ま、あいつら上に立っているって考えるととんでもねぇ奴だってわかるな」


 下の人間がそうであれば、上の人間もそうであるとはよく聞く話だが、この様子をみるとそうなのかもしれないと思ってしまう。

 エルラトラムはアレイシアが議長を務めていることもあって、議会の人たちは柔らかく落ち着いた印象になっている。ザエラが議長だった時は悪い意味で威厳に満ちていた感じだった。

 組織の上に立つ者の印象によってその組織の印象も変わってくるのだろうか。少なくとも私はそう感じてしまった。


「だけど、あの嫌な気配はここではなさそうね」

「……そうかもな」

「兵士たちもただ物資を運んでいるだけみたいだしね」

「あのでかい木箱の中身も知りてぇところだがな」


 さすがに彼らの仕事の邪魔はできない。甲冑に彫られた王家の紋章を見てもわかるようにジェビリー王女やそれに仕える人であることは明白だ。レイの言うようにこの小さな建物が王家にとって何なのかも気になるし、木箱の中身も気になる。しかし、私たちは外部の人間だ。

 私たちが介入できるのは魔族関係のことだけであって、ドルタナ王家の調査はできないのだから。


「もどかしいところではあるけれど、私たちには権限がないからね」

「はっ、関係のない俺たちからすればどうでもいいことなのかもしれないがな」

「まぁここに来た以上は関係あるわよ。とりあえず、別の場所に行きましょう」

「おうよ」


 怪しい場所ではあったが、目で見る以上に調査することはできない。魔族と関係は一見するとなさそうだ。


 それから場所を変えて、広場へとやってきた。

 広場は朝と変わらず何人かの人とすれ違うが、話題も変化することはなくただ王女たちの噂話が続いていた。


「やっぱり王城に行くのが手っ取り早いかもしれねぇな」

「……情報を得るってことだけを考えるとそうだけどね」

「こうやって調べるのは限界じゃねぇか?」


 彼の言うように調査を続けるには王城で情報を集めるほうが効率がいいのかもしれない。それにこの国ではかなり情報統制が敷かれているようにも思える。こうして街からの情報はあまり当てにならない。


「私たちはこの国の調査に来たってことだけど、こそこそとしている場合ではないのかもしれないわね」

「おっ、大胆に行くのか?」

「仕方ないわ。もう少しゆっくり調査していくって決めていたけれど、さっきの気配で気が変わったわ」


 さっきの気配というのは何人も人が死んだという恐怖の波だ。周囲にいた人たちは気付いていなかったのかもしれないが、魔族による侵攻を経験している私たちからすればすぐに気づく。忘れたくても忘れられない息が詰まるような衝動と寒気に駆られる。

 二度と味わいたくないものだが、こうした仕事をしている以上はどうしても仕方がない。


「そうかよ。それでこれからどうすんだ?」

「真っ先に王城に行くのは流石に危険よ。それなら王城関係者に話を聞いてみるのが先ね」

「だが、向こうにいた奴らは話す気がなさそうだ」

「だから、話をしてくれそうな人を探すのよ。隠れている魔族を探すよりも簡単そうでしょ?」


 魔族はいろんな方法で隠れている場合がある。それこそ誰かに変装したりすることだってあるらしい。それに人間とまったく同じような見た目の魔族だっているとなれば、見た目で判断するのは難しい。しかし、その人が王家と関係あるかどうかは紋章の入った服装でわかることだろう。

 それに魔族と違ってリスクが少ないということもある。話をするだけであって、直ちに攻撃されることなんてない。


「確かに言われてみればそうかもな」


 王城へはおそらく招待状のようなものがないと入れないはずだ。少なくとも国家の非常事態に外部の人間である私たちが気軽に出入りできる状況ではない。それなら王城とは別の場所で親しい関係者に話を聞くのがいい。エルラトラムの小さき盾だと言えば何かは話してくれることだろう。私たち小さき盾の活躍はエルラトラム国外にも広く知れ渡っている。

 とはいえ、部隊の存在は広く知られているが、個人の情報は外部には公開していない。だから、こうして街を歩いても変に注目を浴びることはないのだ。


「そうと決まれば早速探しましょう」

「まぁ探すまでもねぇよ。あそこにいるじゃねぇか」


 そういって彼はある人物へと視線を向けた。

 その人の服装には確かに王家の紋章が縫い付けられている。携えている剣も手入れがしっかりしているのか綺麗に保たれている。おそらくは聖剣だろう。それなら王家にかなり近い人である事も考えられる。

 そしてなによりも、彼は王城に向かう一本道の方から歩いてきた。さきほどまで王城にいたのだろうか。

 話を聞いてみるにはちょうどいい。


「行ってみるか」


 そうレイが言って歩き始めた。

 私も彼に続くようにしてその聖剣を持った人の方へと歩いていくことにした。

こんにちは、結坂有です。


ドルタナ王国の問題はかなり複雑なようですね。

すぐに解決できるといいですが、これからどうなっていくのかはまだわかりませんね。

それに魔族がどのようなことを企んでいるのかも気になるところです。


それでは次回もお楽しみに……



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