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恐怖の波

 ドルタナ王国には王城と呼ばれる建物が二つある。一つは国王やその配下が集まり、住み込んでいる城だ。そして、もう一つは王城が何者かに攻撃されたときに使われる城、つまりは隠れ家のようなもの。それでも機能はしっかりとしており、いついかなる時でもすぐに使用できるよう手入れが行き届いている。もちろんだが、この城を知っているのは私たちジェビリー王女近衛騎士を含め、十数人しか知らない。

 逃亡者である第二王女の護衛や近衛騎士は牢獄に閉じ込められている。その中には私の同期もいたが、ジェビリー王女の命令には逆らえない。感情がどうであれ、反逆行為を許すわけにはいかないのだ。

 今、私たちは緊急会議をしている最中だ。それもここ隠れ城の中でだ。その内容はと言うと……


「ジェビリー王女が偽物だというのか?」


 近衛騎士団長の一人がそう声を上げた。


「静かにしてよ。まだ可能性の話なんだから……」


 そう、ジェビリー王女が偽物であるという可能性が出てきたのだ。

 様子が変だと思ったのは数日前のこと、防壁付近の基地での出来事だ。防壁周辺で異音が聞こえたために私たち近衛騎士が率先して調査に出た。そのとき、近衛騎士の一人を彼女の側につけさせるべきだったが、魔族の襲撃ということを考え全員でその異音の調査に向かってしまった。

 ただ、基地内には甲冑を着た何人かの兵士もいたためにそうすぐに基地が陥落することはないだろうと私たちは調査を続行した。それから小一時間ほど謎の音について調べてみたのだが、周囲には特に何もなく魔族が潜んでいる様子もなかった。耳を劈く奇妙な音はなんだったのだろうか。

 それはさておき、その一時間弱の間、私たちはジェビリー王女の側にいなかったということだ。

 そのときは気にしていなかったが、言動がおかしくなり始めたのもその頃だ。


「にしても、たった一時間であの基地が陥落するのか? そもそも、甲冑を着た兵士の数だって二十人はいたはずだ」

「そんな数をすり抜けて王女と入れ替わる……とてもじゃないが、不可能だろうな」

「入れ替わるって、そもそもどこに本物を隠しておくんだ?」

「待って、可能性の話だって言ったでしょ?」

「……まぁそうだけどよ」


 混乱し始めたのを一人の女性が止めると、団長がゆっくりと口を開いた。


「ふむ、可能性と言っているが、かなり低いものだろう。無視してもいい問題のような気もする」

「でも、事実だったらどうするのよ」

「……君はどう思っている?」


 すると、団長が私の目を見てそう投げかけてきた。この問題に関してはかなり難しいところではある。

 近衛騎士という存在はそもそも王女と常に一緒なのだ。何をするにしてもそうだが、責任問題というのも同じ。連帯責任に近いものがある。

 王女の身に危険があれば近衛騎士の責任であり、近衛騎士の身になにかあれば王女が責任を取る。主従の関係ではあるが、王女も近衛騎士も一人の人間だ。

 しかし、王女が何者かに入れ替わっていると言った場合はどうなるのだろうか。よくわからないが、自分の中で考えたことを答えてみることにした。


「私としては王女が偽物と入れ替わっているのならそれをまず先に解決するのが一番だと思うわ。そもそも緊急事態なのだから責任問題とかは二の次よ」


 責任がどうではなく、事態の解決が先だ。


「けどよ。可能性が低いって話だぜ?」

「それなら真偽を確かめるべきよ」

「お前、本当に王女が偽物だって思ってるのかよっ」

「少なくとも、あれ以降王女殿下の言動がおかしくなったのは確かだわ」


 解決すべき問題があるのならすぐにでも行動するべきだと私は考えている。

 もちろんだが、ジェビリー王女に失礼のないよう努める必要があるのだけど。


「……確かに君の言うとおりかもしれない」


 近衛騎士団長がそう言うと聖剣を腰に携えた。


「おい、なにすんだ?」

「話は決まったということだ。俺が王女殿下に直接話をしよう」

「ちょっと、あまり軽率な行動は……」

「何も問題はないだろう。ただ話をするだけだ」


 そういって彼はそのまま扉へと歩いていく。

 引き止めようかと思ったが、一度決定したことは決して曲げない彼の性格を知っている私からすればそうするだけ無駄なのかもしれない。


「っ!」


 ガチャっと扉が開いた。ちょうど団長がドアノブに手をかけた直後であった。


「あら、こんなところにいたのね」

「……王女殿下」


 扉を開けたのはジェビリー王女であった。どこをどう見ても彼女が偽物だとはまったく思わない。一緒にお風呂をともにした私だが、彼女のすべてが本物に見える。実は偽物ではなく本物だったりするのだろうか。


「それで、随分と長話だったわね。何の話か、私にも聞かせてくれるかしら」

「……」


 その彼女の問いがとてつもなく重たく感じた。背筋を凍らすほどに冷たい冷気がこの小さな一室を満たす。

 言動が変わったというのはここにある。以前の彼女はもっと明るく穏やかな人だった。妹である第二王女ラフィンに対してはたまにきつい言い方をするときもあったが、普段は優しい人なのだ。


「その、ふと疑問に思ったことが……」


 凄まじい圧力の中、団長がゆっくりと話し始める。

 その様子を見て私の横に立っていた女性が息を飲んだ。


「疑問?」

「ええ、先日の基地内での話をもう一度聞きたいと思いまして……」

「そのことなら近くの兵士の人と話したわよね? もう忘れたの?」

「どうも腑に落ちない事がありまして……あのとき基地ではどのようなことが……」


 そう団長が話し始めた瞬間、視界のすべてが真っ暗になった。完全な漆黒の空間に飛ばされたかのような……そして、かすかに聞こえたあの時の異音が鳴り響く。


「基地内は平和だったわ」


 その漆黒の中、ジェビリー王女の声が響く。


「あなたたちが感じているように真っ暗で、それでいて穏やかな空間に満ちていたわ」


 声を出そうにも何も出ない。そもそも息を吐いているのか吸っているのかすらわからない。


「そうそう、大きな鐘のような音も聞こえていたわね」

「…………」


 手探りで近くに立て掛けていたはずの聖剣へと手を伸ばしてみる。しかし、何も感じない。すぐ近くに椅子や机があったはずだ。


「その音が響くにつれてどんどん感覚がなくなって、最後には考えることをやめてしまう」

「…………」


 彼女は一体何を言っているのだろうか。いや、話の内容なんてどうでもいい。

 これではっきりしたことは彼女はジェビリー王女なんかではないということ。そして、この異質な力は人間のそれではない。聖剣の力というわけでもないだろう。もしかすると彼女は……


「ふふっ、人の頭って意外と小さいのよね。あ、苦しむ表情は嫌いなの。だから、ゆっくりと殺してあげるから安心してね」


 その言葉を最後に何も聞こえなくなった。ただ、首元を伝う汗の感覚が妙に生暖かく気持ち悪かった。

こんにちは、結坂有です。


大変怖い回となってしまいましたね……

ですが、魔族が本気だということは間違いないようです。これ以上被害が出ないためにも事件を早く解決しないといけませんね。


それでは次回もお楽しみに……



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