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噂話の始まり

 私、ミリシアはレイと一緒にドルタナ王国へと向かっていた。

 私たちがここに来た理由は大きく二つで、まずこの国が魔族に狙われている可能性があるということ、そしてもう一つはこの国の近況調査だ。まぁ最後に関しては定期的に行われているものでここに来る大きな理由ではなく、聖騎士団を駐屯させる気がないこの国をエルラトラムが知るためにわざわざこうして調査する必要があるのだそうだ。

 この国の調査はそこまで優先度の高いものではないのだが、魔族に狙われているとなれば話は別だ。今の現状において人類側の損耗を大きくするわけにはいかない。現状以上の損害は即ち人類の敗北と同等なのだ。

 ただ、こうした任務に関しては剣聖であるエレインが相応しいのだが、こうして私たちが代わりに動いているのはエルラトラムも大きな問題を抱えているからだ。便宜上の理由とはいえ、私はこうすることでしかエレインを守ることができない。


「……」


 そんな事を考えながら、ドルタナ王国でそれなりに人気のある喫茶店で一服している。

 喫茶店には多くの客が多く出入りするために短時間でも多くの情報を集めることができる。主に大衆向けに公表している情報だけだが、それだけでもここに来てまだ数日の何も知らない私たちからするとそれなりの価値がある。

 彼らの話を聞いているとやはり昨晩の話で盛り上がっている様子だ。喫茶店に入る前、大通りでも同じような話をしていた気がする。その話によるとこの国の第二王女が国外へと逃亡したのだそうだ。どこに逃げたのかはまだ公開されていないようだが、一大事件となるのは当然だろう。


「第二王女の話ばかりでつまらねぇな」


 正面にいる私にだけ聞こえるようにしてレイがそういった。確かに話題はそれだけとなっているかもしれないが、国民からすれば王女の逃亡はとんでもない出来事に違いない。ここに来るまでの話によると、ドルタナ王国の王家に対する忠誠はとんでもないものなのだそうだ。大通りの旗はドルタナ王家の紋章で彩られ、この国で主流となっている剣術も王家の剣術がベースとなっているものばかり。

 さまざまな系統で複雑に派生進化しているエルラトラムの剣術とは経緯が大きく異なるようだ。強いか弱いかは別として、古い歴史があるというのは確かなようだ。


「信頼のある一国の王女が大罪を犯したというのは妙な話よ。どのようなことが起きたのかはまったくわからないけど、大きな事件なのには変わりないわ。この国は王家に絶対の忠誠があるみたいだからね」

「そうかも知れねぇが、変な話だな。王家って言っても個人だろ? それに多くの国民は遠くから見る程度で知り合いでもねぇってことらしいしな。そんな知らねぇやつに忠誠を誓うのか?」


 確かにこの国では王家が絶対的という存在になっている。全知全能の神でもないのだから、そこまで強い忠誠を誓う必要はないのかもしれない。結局の所、王家と呼ばれる人間も一般人と何ら変わりない。歴史があるから、威厳があるからと言って畏敬の対象にはなれど、忠誠や服従とは別だと私は思う。

 まぁこんな魔族が蔓延る世界で何かに縋りたいと思う気持ちは十分にわかるのだけど。


「何もできないって思い込んでるのよ。国民全員がね」

「はっ、信じた挙げ句に裏切られることもあるかも知れねぇのによ」

「考えたくもないし見たくもない。それでも不安だから強い人に縋る。今も昔も変わってないのよ」

「つまらねぇ生き方だな」


 誰かに縛られる生き方はレイのような人からすると確かにつまらないのかもしれない。しかし、そうすることで安心安全を手に入れている人もいる。ドルタナ国民の多くが王家に忠誠を誓っている。それだけで王家からだけでなく国民からも守られる存在になれる。


「別に私はそうした生き方もいいと思っているわ。それに、生き残ることに正しいか悪いかなんてないんだから」

「……手段なんて考えてる場合じゃねぇってことか」

「そういうことよ。もう少しだけ様子を見てから移動しましょうか」

「ああ」


 それからしばらく周囲の話に耳を傾けてみたが、真偽のわからない噂話や突飛な話ばかりでそれ以上の情報は得られなかった。


 喫茶店を出て、街の様子を見てみるがどこも同じような話題だ。


「誰かに言わされてるみてぇにあの話ばかりだな」

「……王国の一大事なのは間違いない。けれど、ここまで歩き回って話に進展がないってのも妙ね」

「朝から同じ話ばかりだぜ」


 今の時刻は昼を過ぎたばかり、事件が起きたのは昨日の昼から晩にかけてだ。それなのに話が停滞しているというのがどうも怪しい。情報が統制されているのか、それとも意図的に仕組まれた話題なのかはまったくわからない。

 そもそも逃亡した王女が悪いのかすら怪しいところだ。


「こうなったら噂の元になっている王城に行くってのはどうだ?」

「そうしたいのだけど、無理矢理そんなところにいくのは逆に怪しまれるわ。もっとちゃんと手順を踏まないと」


 外部の人間、それも聖剣取引国であるエルラトラムの人間に詳細な情報を教えてくれるとは思えない。この国は安全で何もないと言うばかりだろう。


「何もしないよりかは行動してみるべきじゃねぇか?」


 私は立ち止まってレイの耳元で囁くようにこの国に来てずっと思っていたことを口にした。あまり公の場で話すべきではないが、この際言っておくべきかもしれない。


「レイはまだ気付いていないかも知れないけれど、ずっと見張られてるわ」

「……なるほどな」


 私の話を聞いてすぐに納得したようだ。

 不自然だと思われないようにと私はレイの頬に軽くキスをして離れた。こうすればカップルのいちゃつきだと思うことだろう。


「直接話を聞くのが無理なら協力してくれそうな人を探すしかねぇな。それとも……」

「それとも?」


 そう聞き返してみるけど、レイは遠くを見るばかりで応えてくれない。一体何を考えているのだろうか。

 すると、私の目を見てゆっくりと口を開いた。


「今、人が何人も死んだな」


 淡々と彼の口から出たその言葉を聞いた私は背後から恐怖の波を感じた。目を背けてばかりいたその気配を彼は気付かせてくれたのだ。

こんにちは、結坂有です。


更新がしばらく止まってしまいましたが、また投稿していくことができると思います。

今後、月曜は投稿をお休みする形となります。自分の無理のない程度に、それでも早い更新頻度を保ちつつ続けていきたいと思いますので、これからもよろしくおねがいします。


ドルタナ王国に向かったのはどうやらミリシアとレイの二人だったみたいですね。

彼女たちならきっとうまく立ち回ってくれることでしょう。しかし、彼らの感じた恐怖の波とは一体なんなのでしょうか。

王国でこれから何が起きるのか……


それでは次回もお楽しみに……



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