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知らない人たち

 僕は再度城の中へと戻っていた。

 相変わらず、兵士たちは第二王女ラフィンのことを憶測だけで何かを判断しているようだ。


「あのラフィンって王女、前々から部屋に籠もってばかりで怪しかった」

「噂によればアミュラ特級剣士と謀反を企んでたってよ」


 そんなことばかりが王城内を歩いているだけで聞こえてくる。

 この王城から聞こえてくることはすべて彼女の話題で尽きることはないそうだ。真偽が明らかではない噂が主だが。

 それでも一つだけ確実と言えることはある。理由はわからないが、第二王女が数人の警備隊を連れてこの国から逃げ出したということだ。反逆の容疑がかけられているだけであって実際にそのような証拠が見つかったという話は今のところ聞かされていない。 まぁなんらかの証拠があったのは確かなのかもしれない。たとえば証言とかだ。それなら複数人で言い合わせればいくらでも作ることができる。

 ただ、そこまでするメリットがどこにあるのかはまったく理解できない。


「……」


 王城内を歩いていると何人か怪しい動きをしている。理由はわからないが、彼らはジェビリー第一王女の親衛隊の人たちだ。あの派手な紋章は遠くからでもよく分かる。それに親衛隊の中でもかなりの上層の人たちだ。おそらくは王女と直接話ができるほどの人たち。

 すると、彼らはなにか耳打ちをして奥へと、地下部屋へと向かっていった。

 王女と話ができる彼らなら噂ではない確実な情報が聞けるだろうと僕は彼らの後を付いていくことにした。

 十分な距離をとって彼らの向かった地下部屋の前に立つ。

 地下部屋は扉を閉めれば確かに音は漏れることはないだろう。しかし、扉に直接耳を当てたりすると中の音はかすかに聞こえてくるものだ。

 中の人たちに気づかれないよう音を立てないようにゆっくりと扉へ耳を当ててみることにした。


「ラフィンの件だが、やはりエルラトラムへと向かったと見られます」

「また厄介なところへと逃げ込んだものだ」

「それで、どうするのかね。あの国とはあまり取引をしたくないとの指示だが……」

「どうするもなにも、ジェビリー王女が何を望んでいるのかもよくわかっていないんだ。我々はただ命令を待つのみだ」


 国外に逃亡したとラフィン王女はどうやらエルラトラムへと向かったらしい。ここから馬でいち早くたどり着く国といえばそこになるのは当然か。しかし、昨日の夕方過ぎに脱出をしたのだとしたら随分と速い。

 優秀な馬を使ったのだろうか。


「とはいえ、昨晩の一件で国内の混乱も大きくなりつつある模様。これからどうしていくのですかな?」

「我々としては国内の統制も当然だが、第二王女ラフィンの動向にも注目していきたいところだ。今頃エルラトラムとどのような話をしているのかまったく想像ができんからな」

「ただ不利な情報があの国に渡ったからと言ってドルタナ王国との関係が悪化することはないだろう」


 確かにドルタナ王国とエルラトラムの関係は聖剣取引だけだ。それに聖剣取引の条約には内政の状況は考慮されない。つまりは王女同士の争いもそれらの取引に影響が出ることはないと言える。

 もし、これでエルラトラムが取引を中止すると言えばそれこそ条約違反となってしまうからだ。ただ例外を挙げるとすれば、内政闘争などで聖剣を悪用することが問題だ。聖剣を横流しして資金を調達するのはもちろん、国民に対して聖剣で圧力をかけるといったことは断固として許されない。

 その場合はエルラトラムのとある部隊が動くらしいが、詳細は明らかになっていない。


「それに今でも必要十分なほどの聖剣を我々は持っている。上位の聖剣はないが、我々だけでも魔族に対抗できる。ここでの一番の問題はジェビリー王女がどうやって国をまとめていくかが問題だろう」

「……こうなってしまった以上はこれ以上状況を悪化させないことに務めるべきだ。いいな?」


 ジェビリー王女の本音は聞けなかったが、彼女の親衛隊の中でもある程度は混乱している様子だ。少なくともこれ以上話を聞いていたとしても進展はなさそうだ。

 僕はゆっくりと立ち上がって地下部屋から離れることにした。


「待て」


 階段に差し掛かろうとした直後、僕の背後から誰かが話しかけてきた。その野太い声は僕の記憶にない声だった。

 振り返ってその声の方へと向いてみる。


「……なにか用かな」

「ここじゃ見ねぇ顔だ。王城の警備隊じゃねぇな?」

「そうだね。僕は防壁の警備隊だからね。ここにはちょっとした用事があってきたんだ」

「こんなときに用事ってのなぁ信じられねぇ話だ」


 僕が防壁警備をしている隊員だとわかった瞬間彼は態度を大きくして僕の前へと歩いてきた。

 地位的な話で言えば、王城の警備をしている人間が一番高い。それに続いて城下町警備隊、そして最後に防壁警備隊と山岳警備隊だ。

 山の麓と言う場所のため防壁だけでは守りきれない山岳側の警備も重要となってくる。防壁と山岳警備隊は密に連携しているが、地位的に言えばかなり下の立場だ。理由としては国王に認められた聖剣使いが王城警備隊として働いているからだ。

 自分が特別で実際に地位も高いともなれば誰でも態度が大きくなるものだ。国王に認められていない僕たちは下に見られるのも仕方のないこと。


「捕らえられたというアミュラ特級剣士に話を聞こうと思っただけだよ。僕は彼の一番弟子だったからね」

「あいつの……なるほどな。話には聞いてるぜ」

「話って?」

「型を持たねぇってな」

「確かにそうだね。僕には相性が悪くて……」


 剣術競技では型の優劣がはっきりするものだ。流派によって違いはあるが、基本的にどの流派も型があるものだ。しかし、僕にはそういった型は存在しない。つまりはどの体勢でも僕にとっては型ということでもある。

 今のただ立っているだけでも、歩いているだけでもそれが型であり、技でもある。それが僕の中での基本なのだから。


「努力を知らねぇお前には防壁警備がお似合いだな」


 いくら僕でも努力してきたつもりだ。それに師匠でもあるアミュラ特級剣士のことを侮辱された気分だった。

 彼も剣士人生の大半を防壁の警備に費やした。聖剣を国家に返納してからは王女の親衛隊として働いていたみたいだが。それも彼の人生でみればほんのごく一部だ。


「逆に言えば、魔族とろくに戦いもせずに剣術修行である競技にばかり出ている君たちのほうが職務怠慢だと思うけどね」

「っ! てめぇ、今なんて言った?」

「職務怠慢だと言ったんだよ。魔族と戦うための道具をどうして競技といった娯楽に使うのか、僕にはまったく理解できないね」


 日頃思っていたことを正直に言ってしまった。この国では剣術競技が盛んだ。町に出歩くとすぐに剣術の修行をしている子どもたちがたくさんいる。

 ここまで剣士を目指す人が多い理由としてはドルタナ王国のとある伝説がある。

 ドルタナ王国初代国王はかつて剣の道を極めていた一兵士だった。しかし、魔族という種族が発生したことにより前身であった国は滅亡しかけていた。そんななか、当時の宝剣を手に魔族を撃退したという伝説がある。

 嘘か本当かはわからないが、それが剣士を目指す人が多い理由だ。

 最初はそんな初代国王のように強くなりたいと、魔族から民を守ろうとして剣士を目指すのだが、いつの間にか剣術競技にばかり集中して本来の魔族討伐にはほとんど参加しない。

 それが職務怠慢という他ないだろう。だから、僕は競技には出るつもりもない。殺し合いを娯楽としている時点でおかしいのだ。


「実績があるからって好き勝手いいやがってっ!」


 喧嘩をふっかけてきた彼が逆上して僕へと殴りかかってきた。

 一歩だけと可能な限り少ない動作で避ける。


「国王に認められてねぇお前らにはっ!」


 突き出した拳を重りにして大きく体を回転させて僕の方へと更に追撃してくる。

 その攻撃を僕は手のひらで軽く誘導することで相手の体勢を一気に崩した。


「なっ!」


 すると、彼は宙を一回転して地面へと叩きつけられた。

 少ない動きで相手を沈める。僕がアミュラ特級剣士からずっと教え続けられたことの一つだ。事実、僕は先程から一歩しか動いていない。


「僕の前では師匠のことを侮辱しないことだね」

「……くそっ」


 受け身が甘かったのか彼は背中を強打してしまっているようだ。すぐには立ち上がれないだろうな。

 僕は踵を返して階段を急ぎ足で上がることにした。

 階段を上がると王城内は変わらずジェビリー王女やらフィン王女の噂で溢れかえっていた。別に状況は変わっていないことはわかっていた。

 しかし、彼らの知らないところで何かが動いているのは間違いない様子だ。少なくともジェビリー王女の親衛隊は何かを企んでいる様子だった。

 それに彼女の真意がわからない以上は迂闊な発言は控えるべきだろう。師匠のように反体制派として認識されては困るからだ。とりあえずはなにか動きが起きるまでは静観しておくに越したことはない、か。

 僕はそう方針を決めて王城を後にした。

こんにちは、結坂有です。


しばらくの間、更新が滞ってしまい申し訳ございませんでした。

これからは安定して更新できると思います。


ドルタナ王国でも何か動きがありそうな予感ですね。

何が起きるのかはまだわかりませんが、嫌な予感なのには変わりありませんね。


それでは次回もお楽しみに……



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