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内情

 アギス・トゥルバスである僕はドルタナ王国の一級剣士だ。とはいえ、僕の評判はあまり高いとは言えない。一級剣士という肩書だが、それは主流とは違った取得の仕方をしたからだ。この国では剣術競技が盛んだ。そのため、剣士としての等級を上げるには基本的に剣術競技の試合に勝利することで等級を上げることができる。

 もちろん、それ以外にも方法はたくさんある。僕がやったように大量の魔族を倒すことだ。僕はこの国としては二番目に多いとされる十五体の魔族を倒した。実戦経験がまだ浅く、特級剣士ではないがそれに匹敵する実力を持っていると自負しているつもりだ。

 ただ、国民を含め多くの人は僕のことを認めようとはしてくれない。理由としては簡単だ。剣術競技にほとんど参加していない僕のことは認めようとしてくれないからだ。みんな僕の実績を疑っている。実際に自分で僕の技量を見たことがないのだから、仕方のないことだと思う。

 まぁ別に僕としてはあまり困っていない。有名になり、強い人物であるという評判が立つと弟子にしてくれと何人もの人が集まってくることになる。教えるのは得意な方だが、はっきり言って面倒だ。

 そんな僕を育ててくれたのは僕の才能を信じてくれた師匠アミュラだ。

 そして、今朝。彼が第一王女親衛隊に捕縛されたという連絡が入った。


 僕は大きなフードを被り、僕は王城へと向かうことにした。こんな僕でも一級剣士だ。自由に王城に出入りできる。

 一級剣士の紋章を見せて王城へと入る。

 王城内は物々しい雰囲気が漂っていた。それも当然のことで、この国での反逆行為は重罪だ。忠誠心の高い国民性も相まって王城内にいる人たちは皆険しい表情をしている。


「第二王女がまだ見つからねぇってよ」

「しっ、ラフィンのことを王女なんて言ってたらお前も狙われるぞ」

「それにしても疑いがあるってだけで親衛隊をここまで動かすなんてな。反逆を企んでいたって確証があったんだろうな」

「まぁ少し変な感じもするが、反逆があったかどうかなんてラフィン本人に問い詰めるしかねぇよ」


 王城内を歩いていると色んな人たちの発言が耳に入る。

 まだ詳しい内容までは知らないが、第一王女ジェビリーが第二王女であるラフィンの反逆行為の証拠を見つけたそうだ。それからというもの、ジェビリーはすぐにラフィンを捕らえるよう指示を出した。

 僕もアミュラとは定期的に話をしていたが、そのようなことは一切考えていなかった。むしろ、反逆とは無縁な感じがしたぐらいだ。

 僕には何が正しいのかはまだわからない。情報がほとんどないからだ。王城に入るまでも市民の話ではこの周辺ではかなり慌ただしい戦闘が起きていたそうだ。道中では壊れた馬車なんかもあった。

 とりあえずは直接師匠のアミュラに少し話をしてみるしかない。

 王城敷地内の一番端にある牢獄へと僕は進むことにした。

 重厚な雰囲気を漂わせるその建物の手前には一級剣士の警備隊が何人も立っていた。僕は彼らに少し中に入れるかどうか聞いてみることにした。基本的には一級剣士である僕は自由に捕らえられている人と話をすることができる。それほどに一級剣士の地位というのは高い。


「捕らわれたというアミュラ・クラウディオスに話をしたいのだけど、いいかな?」

「……あんたは?」

「一級剣士のアギスだよ」

「はっ、俺はあんたを一級剣士だなんて認めてねぇ。さっさと帰れ」

「仮に一級剣士という肩書がなかったとしてもアミュラ特級剣士は僕の師匠だ。直弟子である僕に面会できる権利はあると思うけどね」


 僕は当然の権利を主張することにした。一級剣士としてはまだ信頼されていない僕はこうして門前払いを受けることは容易に想像できた。とはいえ、権利やある程度の地位にあるのは事実だ。そう主張するのは何も悪いことではないだろう。


「誰かと思えば、アギスじゃねぇか」


 警備隊の一人と話していると奥から一人の剣士が話しかけてきた。彼は僕の知り合いのディジリだ。直接彼と剣術競技をしたわけではないが、彼は僕の実力を知る数少ない剣士の一人だ。


「ディジリか。久しぶりだね」

「おうよ。それでなんのようなんだ?」

「こいつが牢獄にいるアミュラって特級剣士と話がしてぇんだとさ」

「そうか。だけど、第一王女が今回の反逆罪で捕らえられた人との面会を禁止したんだ」


 彼は僕に向かってそういった。

 王族自らが面会を禁止するなんて聞いたことがない。いや、そもそも反逆行為なんてことは何十年も起きていなかったのだが、それでも話をしてはいけないなんて言うのは妙に思えた。


「俺も変だとは思ってる。だが、これは王女の命令だ。従うのが道理ってもんだ」

「はっ、反逆者なんかと話をして馬鹿げた反逆思想なんかを広められたら困るだろ」

「そうだね。それは仕方ないかもしれないね」


 反逆という重罪を犯した人なんて僕も初めて聞いた。そんな人に簡単に話ができるとは思えないか。

 しかし、本当のことが知りたい。彼が本当に馬鹿げた思想で反逆行為を犯したなんて僕はとてもじゃないが信じられないからだ。


「それよりもアギス。噂ではお前も反逆思想を持っているって話を聞いたんだが?」

「確かに僕は王族の親衛隊には入っていなかったからね。だけど、別に反逆思想を持っているわけではないよ。僕はただ魔族から市民を守りたいだけなんだ」


 王族の警護なんてものは基本的に国内での仕事が多い。それに比べて僕は防壁を出て周辺魔族の調査をして防衛の役に立ちたいと思っている。僕が守りたいのは王族ではなく、この国の民全員だから。


「出世を考えていないお前らしいな。まぁ俺もアギスが反逆思想を持っているなんて思っていない。それでもお前の評判も悪くなってるのは事実だ。くれぐれも気をつけろよ」

「ディジリ。お前、ふざけてんのか? こいつは何も悪くねぇって思ってるのか」

「アギスは人畜無害という言葉がよく似合うからな。王族を裏切るようなこともしないよ」


 貶しているのか褒めているのかはっきりしない言葉ではあったが、僕のことを弁明してくれたようだ。


「まぁなんでもいいか。だけどよ。もしあんたが反逆行為をしたなんてことになりゃ俺がまっさきに捕まえてやるぜ?」

「……その時は僕を侮らないことだね。多分そんなことはしないと思うけどね」

「はっ、言ってろよ。なんの戦闘スキルもねぇくせによ」


 剣術競技にまったく興味がない僕は周りから見ればスキルがないからそういった競技に出ないと思われているらしい。

 たしかにそう見られても仕方がないのかもしれない。

 僕は踵を返して牢獄の建物から離れることにした。背後からは警備隊の一人が僕に向かって挑発の言葉を投げかけてきているが、気に留めることなくただ歩くことにした。

 しかしそれにしても、アミュラと面会できないとなるとどうやって情報を得るべきかだ。反逆行為に携わった人たちは全員牢獄に閉じ込められていると言う話だ。彼らに聞くのが一番手っ取り早いと思ったが、そう簡単には行かないようだ。

 牢獄の警備隊を強行突破することはできないが、第一王女の側近とは話をすることもできるだろう。

 アミュラが反逆罪に問われるのはどう考えてもおかしい。そう考えた僕はまた王城の奥へと進んでいくことにした。

こんにちは、結坂有です。


ドルタナ王国で突然起きた反逆事件に戸惑いを持っている人もいるようですね。

少しでも真相に近づけるといいのですが、どうなることでしょうか。


それでは次回もお楽しみに……



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