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頼る意志

 私、ラフィンは議会の待機室へと案内されていた。

 このエルラトラムに来てから数時間経ったが、それ自体はそこまで問題ではない。兵舎でそれなりに食事もしたし、それだけの計画も考えることができたからだ。逆に言えば、余裕なくすぐに面談が始まる方が問題だ。

 しかし、この国の安全はかなり担保されているようだ。私も剣術をかじっているためにその辺はよく分かる。

 まず言えばこの議会を警備している人たちの実力がかなり高いというものであった。もちろん、ドルタナ王国の王城もかなり警備を高めているとはいえ、それでもここまで高い実力を持っている人はそういない。それに王国国内の治安も限りなく安定しているためにそのような場所に剣士を割く必要がないというのもあるが、多くの一級剣士は国境付近の警備を担当している。

 主に魔族の攻撃というものから市民を守る必要があるからだ。


「……」


 治安が安定している、と安全が担保されているは意味が似ているようで似ていないとも言える。

 特にドルタナ王国では王族に対しての忠誠が高いがゆえに同調圧力も高くなっている。別にその状態が悪いというわけではない。そうする必要がある時代があったというのも事実だからだ。ただ、今の時代にはその考えは合っていないと私は考えている。

 内政のことを勉強していくうちにわかってきたことがある。ドルタナ王国の悪い点は新しい革新的な考えが生まれないことにある。王族への忠誠が高いということは彼らの意見を第一に考えるということでもある。そして、その王族の意見が必ずしも正しいとは限らない。日々新しい議論を展開していくことで革新的かつ正しい判断ができると私は考えている。

 まぁ私の考えが絶対に正しいというわけでもないと思うのだが。


「お待たせしました。第二王女ラフィン・アルテネディス」


 そういって扉を開いたのはメイド服を来た美しい女性であった。そして、その後ろから杖を突いて入ってきたのがこの国の議長アレイシア・フラドレッドだ。

 彼女の経歴については勉強してきたためによく知っている。聖騎士団であった彼女は魔族の攻撃によって重傷を負い、現役を引退。その後に議長になったという人だ。一体その裏に何があったのかはわからないが、話だけ聞けばすごい人だというのは間違いない。


「……一人で逃げてきたと聞いていたのだけど、若い王女なのね」


 すると、議長である彼女が私を見てそういった。

 私も立ち上がって軽く一礼だけする。


「初めまして、私がドルタナ王国第二王女のラフィンです」

「エルラトラム議長のアレイシアよ。それと堅い雰囲気は苦手だから気楽にしていいわ」


 そう言うと彼女はゆっくりと私の前に座った。それを見て私もゆっくりと座る。そして、少し遅れて彼女の横に一人のかっこいい男性が座った。

 剣を二本装備しているところを見るにかなりの実力者なのだろう。もっている剣が多い分技術を要するものだ。そして、剣の形状が違うということはすなわち戦い方や技法にも違いが生まれてくる。立ち居振る舞いからはどこまで強いかはわからないが、甘く見積もっていると私が下に見られることになる。

 アレイシアの右隣にメイド服の女性、そして男性の左隣にもメイド服の女性が立っている。どちらの女性も美しく可愛らしい人だ。それだけではない。彼女たちはどちらも剣を装備しているように見える。男性の左側に立っているメイドは一見すると剣を持っているようには見えない。しかし、私は彼女のことを知っている。


「……それで、用件としてはエルラトラムへ亡命したいとのことよね?」

「そうですね。本国では私の身が危険ですから」

「その件ですが、そのようになってしまった経緯などをお話できますか?」


 男性の左側のメイドが私の表情を見ながら質問してきた。

 彼女、リーリアは調査によると精神干渉という能力の剣を持っていると言われている。具体的にどのような力を持っているのかは不明だが、迂闊な反応をしては心を簡単に読まれてしまうことだろう。

 とはいえ、これから私のする発言には何ら嘘はないのだけど。


「結論から言います。私が反逆行為をしていると濡れ衣を着せられたのです。第一王女ジェビリーから」

「確認しておきたいのだけど、それって王位継承権の闘争ってわけじゃないのよね?」

「ええ、私とジェビリーとでは互い協力しあって国を動かしていきたいと考えていました」


 そのことも事実だ。

 父が死ぬ一ヶ月ほど前に話し合ったときはジェビリーがドルタナ剣術界を、私が政界を導く立場にあるべきだと決めていたはずだ。しかし、その数週間後に勝手に裏切られることになるのだが。


「……彼女の発言には嘘はなさそうです」

「そのようね。嘘がないって私の目からでもわかるもの」

「嘘は言いません。それに私はなんの条件もなしで亡命したいと言っているわけではありません」


 ここで自分から提案することにした。

 強気の姿勢で相手に考える隙を与えないということもあるが、今はそういうわけではない。自分の有利な流れに持っていきたいからだ。


「条件?」

「ええ、私の無実が証明され、無事ドルタナ王国の混乱が収まった暁には聖騎士団にドルタナ王国剣士を派遣したいと考えています」

「ドルタナ王国剣士は国王に絶対忠誠、その人たちが他国の作った聖騎士団に入団するとは考えられないのだけど……」

「そのことは問題ありません。王族である私が復権すればそれこそ皆は私の指示に従うことでしょうから」


 本当はといえば私は王族なんて立場を捨てたいと考えている。このままこの国で平和に過ごしていきたいとも考えている。しかし、私を信頼して逃亡を手助けしてくれた人たちへの示しがつかない。

 多くの人を不幸にして、私だけ平和にのうのうと生きていくことなんて勝手ながらプライドが許さないのだ。

 すると、今まで話を聞いていた男性が口を開いた。


「ラフィンの口ぶりから話を有利に進めたいように見えるが、何か焦りでも感じているのか?」

「……どういうことですか」

「そのままの意味だが、まぁ俺の勘違いなら無視してくれてもいい」


 予想外の質問で少しばかり戸惑ってしまったが、ここでうろたえていてはダメだ。ここには私を援護する人は誰ひとりとしていない。平静を保つべきだ。


「確かに焦りは感じています」

「それはどうしてでしょうか?」

「私がここまで来るのに多くではありませんが、身代わりとなってしまった人たちがいます。当然ながら、王権への反逆行為は重罪です」

「その人たちが心配なのね?」

「そのとおりです」


 この発言に嘘や偽りはない。綺麗事のように聞こえるかもしれないが、本音であるとわかれば私の説得力が増す。


「本音のようです」


 すると、リーリアがそう断言してくれた。


「……俺から確認したいことはラフィン自身の考えが知りたい」


 男性の発言にアレイシアが一瞬視線を向けたが、すぐに私の方へと向いた。私の認識が間違いでなければ議長である彼女が立場としては上のはずだ。それなのに男性に一瞬だけ動揺したところを見るに実際の状況はそうではないのだろうか。

 そういえば、エルラトラムは新しく剣聖という称号を作ったと聞いた。

 いや、そんなことを考えている場合ではないか。今は彼の質問に応じるべきだ。


「私の考えですか。推測で話すのは避けたいところですが、仕方ありません。第一王女ジェビリーが魔族と結託している可能性があります」

「なるほど、確かにそれは大問題だな」

「え?」

「申し遅れたが、俺はエレイン、この国の剣聖だ。もしその話が本当なら問題解決を手助けしても構わない」


 それを聞いた瞬間、私の心臓に電気が走ったような感じがした。その正体がなんなのかはわからないが、これが剣聖の持つ力なのだろうか。

 そもそも聖剣などとはまったく違うもっと根本的なもの、感情的ななにかが働いたようにも感じる。想定外どころか意味のわからない衝動に戸惑っている場合ではない。

 とはいえ、焦っているのは私だけではなかったようだ。


「エレインっ、また勝手に……って言っても仕方ないわね」


 すると、どこか呆れたようにアレイシアが小さく息を吐いた。

 その様子から議長は剣聖であるエレインに多少なりとも振り回されているといった印象だ。しかし、とてつもない実力者であることで強制することはできないと言ったところだろうか。


「それは、つまりどういうことでしょうか?」

「第二王女ラフィンの亡命を認めるわ。魔族が関わっているって可能性が少しでもあるのなら私たちとしてはあなたの亡命を断る理由がないもの」

「どういう意味ですか?」

「エルラトラムの最大の敵は魔族、人同士の闘争には関与しないのが原則なの。だけど、その闘争の裏に魔族が関わっているというのなら話は別ということよ」


 彼女のその言葉を聞いたときに私の緊張した心が緩むのを感じた。

 正直に魔族が裏で糸を引いているかもしれないと言えば円滑に話が進んだようだ。無用なやり取りになってしまったのはよくなかったか。

 それでも一つだけ、私の本当のことをまだ言えていない。


「そうなのですね。今まで緊張ばかりでしたが、ほっとしました」

「私も怖い女性が来たと最初は思ったのよ」

「……一つだけ話しておきたいことがあります」

「なに?」

「この問題が無事に解決できたときの話です」


 すると、私と同じように安堵に満ちていた彼女の表情がすぐに引き締まった。

 それを確認した私は言葉を続ける。


「先ほどの条件は建前です。本音は私の王権が復活したときには、ドルタナ王国の統治権をエルラトラムに譲渡したいと考えています」

「え?」

「議長一人に決定を押し付けることはしません。ゆっくりと会議でもして決定してくれても……」

「本気で言ってるの?」

「もちろん、本気です」


 私がそうはっきりと明言すると彼女はただただ目を丸くするだけであった。

こんにちは、結坂有です。


ラフィン王女はどうやら王族という呪縛から解放されたいみたいですね。

忠誠心が高過ぎるというのもどうやら問題がありそうです。本当の平和ってなんなのでしょうか。


それでは次回もお楽しみに……



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