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亡命場所

 もう何時間走り続けているだろうか。

 私の乗っている馬もかなり疲弊しているようで駆け走ることはもうできない。息も荒く、とてもじゃないがこれ以上走らせるのは難しい。

 ふと空を見渡す。明かりすらない闇夜だったのが今では薄っすらと光を放っている。月や星の光すらなかったところを見るに曇っていたのは知っていた。しかし、今にも大雨が降りそうなどす黒い雲があるとは思ってもいなかった。


「……急がないと」


 馬を止め、コンパスを手に地図を広げる。

 目印すら見当たらない夜だったが、方角に注意しながら走っていた。少しばかり明るくなってきたことで周囲の状況が少しずつ見えてくる。

 地図と周囲の状況を見比べながら、自分の場所を確認する。

 予想通り、この場所はエルラトラムに近い場所らしい。あの国の目印でもある大きな防壁は今のところ見当たらないが、丘を越えればすぐにみえることだろう。

 それよりも亡命とはどうすればいいのだろうか。国のことはよく勉強していたつもりでもそういった対外的なことはほとんど何も知らない。

 しかし、弱気になっている場合ではない。こうして国外へと逃亡できるようにと助けてくれた警備隊のためにもやり遂げる必要がある。知らないからと言ってやらないわけにはいかないのだ。

 私は頬を軽く叩いて再び馬に跨ることにした。


 丘を越えるとすぐにエルラトラムの防壁が見えてきた。子どもの頃に一度だけ父の仕事でこの国へと来たことがあったが、その頃とほとんど変化していない。あの分厚い防壁はドルタナ王国のそれとは全く違い、異質を放っている。

 目を閉じて集中しながらゆっくりとその防壁へと近づいていく。弱気な姿勢を見せてはいけない。交渉するわけでもあるのだ。当然ながら、隙を見せてしまってはすぐにでも付け込まれていしまうことだろう。剣術指導のときにアミュラから教えてもらったことを思い出す。

 態度は相手にすぐ気付かれてしまうもの、常に強い姿勢で居続けることが最大の抑止力となる。


「行くしかないみたいですね」


 マントを脱いで隠していた自分の聖剣を見えるようにする。私の聖剣は装飾が少し派手で美しいものではあるが、国から逃げ出すには隠しておく必要があった。しかし、ここまで来たらもう隠さなくてもいい。

 防壁門へと近づくとすぐに警備の人が集まってくる。

 理由としては単純に私の着ている服にあるだろう。戦闘用に作られているとはいえ、王女という威厳に相応しい美麗さと清楚さが感じられる服を着ている。もちろん、その服も大きなマントで今まで隠していたものだ。


「……ドルタナ王国第二王女のラフィン・アルテネディスです。エルラトラム議会に話を通してくれるでしょうか」


 この段階ではまだ強い姿勢を見せる必要はない。まだ交渉という段階ではないからだ。


「用件を聞いてもいいですか?」

「この国に亡命したいと考えています」


 そういうと警備の人たちが急に話し始めた。一国の王女が亡命するということはなにか紛争に巻き込まれそうになっているということでもある。もちろん、それ以外にもいろいろと要因は考えられるが、今の時代では人同士が戦うことなんてほとんどない。魔族という共通の敵がいるのだから。


「なにか問題でもありますでしょうか」

「……いえっ、すぐに手配します」


 そう警備の人が言うとこちらですと案内を始めた。

 案内された場所は防壁近くの兵舎のようで、ここでしばらくの間待機することとなった。もちろん、王女であるために清潔な場所で食料も提供してくれた。

 円滑に物事が進むとは思っていなかった。ここでこれからの計画をゆっくりと考えておくことにしよう。


   ◆◆◆


 俺、エレインは久しぶりに議会へと足を運んでいた。

 数日ほど前、エルラトラムとマリセル共和国との聖剣取引が本格的に始まった。共和国軍の統制も取れるようになり、軍隊としての機能が復活したようだ。それで俺とリーリアに改めてマリセル共和国のことについての話をしていた。

 ほとんどリーリアが話をまとめてくれて俺がここに来る意味はそこまでなかったように思えた。まぁマリセル共和国についての話し合いはただの口実で単にアレイシアが俺と一緒にいたいだけなのかもしれないがな。


「……わかりました。では、マリセル共和国への聖剣引き渡しに反対の人はいますか?」


 アレイシアが議長らしくそう言う。しかし、他の議員は誰一人として手を挙げる者はいない。彼女が圧力をかけているというわけではない。マリセル共和国への聖剣引き渡しに条件を付けたのだ。それは互いに窮地に陥ったときは助け合うという条件だ。

 軍としての機能を完全に復活したわけでもない。まだ不安定なところはあるのだそうだ。それならエルラトラムの有志軍を少しばかり派遣する。そして、安定してからは互いに助け合う存在になる。エルラトラムにとってもマリセル共和国にとっても得となる条件だ。


「反対意見がないようですので、このままマリセル共和国との聖剣取引を許可することにします」


 そういって彼女は書類へとサインをした。

 明日には聖剣の取引が開始され、数日以内にマリセル共和国の聖剣使いが誕生することになる。


「それでは次の議題に……」


 サインを終え、次の議題へと進もうとしたところ、一人の事務の人がアレイシアへと何かを報告しに来た。


「…………」


 しばらくの静寂が続くとアレイシアが再び口を開いた。


「まだ昼前ですが、緊急の要件が入りましたので会議を中断します。剣聖であるエレインとその従者のリーリアも私と一緒に同行してください」


 そう凛々しい表情で彼女は俺とリーリアに向けて言うとユレイナの肩を借りてゆっくりと席から立ち上がった。


「一体何があったのでしょうか」


 俺の横に座っていたリーリアが俺の方を向いてそういってきた。

 兵士からの報告ではなかったところを見ると魔族が侵攻してきたというわけではないらしい。とはいっても、深刻な表情をしていたアレイシアの様子から魔族問題ではない別の問題が起きているというのは間違いない。こうして会議を中断するほどなのだから。


「わからないが、行ってみるしかないな」

「そうですね」


 俺たちもアレイシアに続いて会議室を出ることにした。


「エレインっ、ちょっと……」


 会議室の扉を閉めるとアレイシアがすぐに話しかけてきた。


「緊急の要件というのはなんだ?」

「そのことなんだけど、ドルタナ王国って知ってる?」

「よくは知らないが、剣術競技が盛んだという話は聞いている」

「まぁだいたいそれで合ってるんだけど、その国柄って王に絶対忠誠を誓うような国でね。聖騎士団との交流を拒否するぐらいなのよ」


 アレイシアがゆっくりと歩きながらそう解説を始めた。

 ドルタナ王国とは聖剣の取引をしているとは聞いている。しかし、聖騎士団となんの関わりがないというのは珍しい。剣術競技が盛んだと言うことで聖剣使いの質がかなり高いということだろうか。


「それがどうかしたのか?」

「そんな国の王女が私たちの国に亡命してきたっていうのよ」

「確かに妙な話だな。国民からの忠誠は高いのだろう?」

「第一、第二王女ともに国民からの評判はかなり高いわ。私の知ってる限りではね。でも、一週間ほど前に国王が持病の悪化で急死してしまったらしいのよ。その直後の亡命だからちょっと嫌な予感がしてね……」


 つまりは王女が二人いるということのようだ。国民から好かれているという話なのだとしたら、おそらく王位争いか何かだろうか。


「……亡命してきたのはどちらの王女なのでしょうか?」

「第二王女のラフィンよ」

「一度お会いしたことがありますが、恨まれるような人ではなかったと思います」

「そのことは実際に会ってから聞いてみるしかないわね」


 そういった彼女の表情は真剣そのものだ。俺とリーリアを呼んだことに関してはよくわからなかったが、とりあえずはその第二王女に会ってみるべきだ。

 それから俺たちは第二王女が待っている部屋へと向かうことにした。

こんにちは、結坂有です。


また一日遅れとなりました……


ラフィンが逃げ込んできたのはエルラトラムでしたね。

次々と問題が舞い込んでくるエルラトラム議会ですが、これからどうしていくつもりなのでしょうか。

それでは次回もお楽しみに……



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