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目覚めた先で

 私、フィレスは少し硬めのベッドで目が覚めた。

 天井は温かい色の木が貼られている。なんの木なのかはわからないが、立派なその天井は歴史があるようにも思えた。


「……起きたのね」


 私の横に座っていたのはカインだった。

 ガダンドという老人に連れられて木造の建物へと案内された私はいつの間にか眠ってしまっていたようだ。夜だったために全貌が見えなかった建物だが、部屋の中を見るだけでも歴史ある木造の豪邸であることはよくわかった。


「カイン? どうしてここに?」

「少し用事があってね。この家の事は知ってるの?」

「サートリンデの家なのは知ってるわ」

「そう、セシルは……知ってるわよね。彼女から少し頼まれてね」


 頼まれたとはどういうことだろうか。

 カインはエレインの家にいたはずだ。それに私の怪我を知って彼女が来たというのなら来るのが早い気がする。そもそも私がここに来る前から彼女がいたことになる。


「私とは関係のない用事みたいね」

「まぁね」


 そんなことを話していると部屋の扉が開いた。


「フィレスのことを助けた人が来たみたいね」


 すると、一人の老人が私のところへと歩いてきた。

 私は上体を起こすことにした。


「目覚めたかね」

「……昨晩は助けていただき、ありがとうございます」

「わしはただ夜の散歩をしておっただけじゃよ」

「本当は散歩してほしくなかったのだけどね」


 カインの口ぶりからすると、彼女がここに来た理由はおそらく彼にあるのかもしれない。もしかすると、ガダンドという老人は怪我をしたあとなのだろうか。


「ガダンドさんは怪我をしていたのですか?」

「なに、気にすることはない。この通り怪我一つないわい」

「私の前で言うのはどうかと思うけれどね」


 明るい笑顔で腕を軽く回したガダンドを呆れたような目で見つめるカインはそういって小さくため息をついた。

 彼女の持つ聖剣の能力を使えば大抵の怪我は一瞬で治療することができる。それが原型が崩れてしまっていてもだ。もちろん、すべてが元通りに戻るというわけではないが、それでも強力な能力なのには変わりない。


「正直なところ、剣士として無理じゃと決意しておったわい。じゃが、わしの孫娘が依頼してくれたみたいでの」

「具体的に言うと骨盤が砕けて変形していたのよ。それを私の能力で復元してあげたわ」


 骨盤が砕けてしまっていては確かに剣士生命が絶たれたのも同然だ。腰を自由に動かすことができなければまともに剣を振るうことすらも難しい。

 足や腕が使えなくなったとしてもそれらは技術である程度補うことはできる。しかし、体幹を支える部分である骨盤が崩れてしまっては技術ではどうすることもできないからだ。


「知っての通り、わしは元気じゃよ? 昨日までとは大違いじゃな」

「ほとんど座ったままだと健康にも悪いしね。それにこれぐらいの治療ならそこまで苦労することはなかったわ」

「……そうなのですね」

「腰がこのようになってしまってからは弟子をとっておらんかったが、今なら何でもできそうな気分じゃ」


 すると、私の前にガダンドが立った。

 昨日は暗くてよくわからなかったが、こうしてみると年齢は八〇前後だろうか。あの取引現場にいた男たちがすぐに逃げ出したことを考えると相当な実力者なのは間違いないのかもしれない。

 私はエルラトラム国外の出身のため彼のことはよく知らないのだが、国内ではそれなりに有名な人なのだろう。セシルと同じくサートリンデを名乗っているのだから。


「なんでもって何をするつもりなのよ」

「お嬢さん、わしの弟子にならんか?」


 すると、ガダンドはそう私の目を見ながらそういった。


「……どういうことですか?」

「怪我をする前はこれだけで喜んでくれたんじゃが……時代の流れというものかの?」

「そうじゃなくてただ困惑してるだけだと思うけど?」

「ふむ、そうか。わしはサートリンデ流剣術宗家、六代目師範ガダンドじゃ」


 サートリンデ流宗家と名乗った彼の目はまっすぐ私の目を見ている。

 横に立っているカインがまた呆れたような表情をしている。否定する素振りもないことから彼の言っていることは確かなのだろう。

 しかし、彼がサートリンデ流剣術の師範なのだそうだ。そして今、私はその師範を名乗る人から弟子にならないかと提案されているというわけだ。本当なら快く門下生となりたいところだが、どうして私なのだろうか。人気のあるサートリンデ流の師範だと言えば私よりももっと多くの人が集まるはずだ。


「大変嬉しいのですが、私で本当にいいのでしょうか」

「ほう、お嬢さんよりも適任者がおると?」

「私はそう思います」

「……適任かどうかは意味のないことじゃ。本当に重要なのはその人の素質なんじゃよ」

「素質ですか?」

「見たところ、お嬢さんは剣士としての素質は十分に高い。適任かどうかはわしの指導を受けてから考えればいいだけの話じゃ」


 そう自信満々に、それでいて渋い声で彼はそういった。その言葉は私の心の中に響いたように感じた。なぜならその言葉で私に迷いがなくなったからだ。

 もう答えることは一つしかない。


「わかりました。ガダンド師範、私に剣術を教えて下さい」


 エルラトラムの剣術を学ぶことができる他にない機会だ。自分に自信を持って突き進めばいいだけ。

 今よりもっと強くなって小さき盾とともに世界を救いたい。

 そう、私は強く胸に刻んだのであった。

こんにちは、結坂有です。


更新が大変遅くなってしまいました……


これにてこの章は終わりとなります。

次回からはまた舞台が大きく変わることとなります。


それと大変申し訳ないのですが、次回は一週間後の2月28日(月)となります。

次章では戦闘シーンなどの見どころ満載となる予定ですので、お待ちしていただけると幸いです。


それでは次回もお楽しみに……



評価やブクマもしてくれると嬉しいです。

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