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幕間:望まぬ想い

 俺、エレインは部屋から出てアレイシアとアイリスとともにリビングへと向かうことにした。

 もちろん、アレイシアは杖をついてゆっくりと歩いている。別にそれに関しては何も言うことはないのだが、彼女の歩き方が以前とは違うと思った。


「アレイシア、また訓練か何かしているのか?」

「……なんのことかな」


 彼女はわかりやすく俺から視線をそらした。一人の剣士だったことから訓練をしてはいけないとは言わない。しかし、また無理な訓練をしていないかと不安にもなるものだ。

 俺を助けてくれた恩人でもあり、家族でもある。そんな彼女には怪我をしてもらいたくはない。だから、訓練も俺の見えるところでしてほしかったのだが。


「歩き方を見れば以前と違うことぐらいわかる。俺がマリセル共和国に向かっている間になにかしていたのか?」


 そこまで問い詰めると彼女は白を切ることができないとわかったのか、小さくため息を吐いて俺の方を向いた。


「やっぱりエレインにこうした隠し事はできないね」

「まぁアレイシアのことはよく見ているつもりだからな」

「っ! そ、そういうことを言うのはもっと場所を考えてからにしてよ。ね?」


 そういってアイリスの方を向いた彼女だが、アイリスはなんのことなのかわからず首を傾げるだけだった。


「……別に隠してたわけではないのだけど、ミリシアたちと一緒にちょっとだけ訓練をしてたの」

「そうなのか」

「怒らないでほしいわ。私から無理を言ってしてもらったから」


 どうやらアレイシアからお願いをしたらしい。そのことに関しては怒ってもいない。


「ミリシアたちなら俺も信頼できる。怒ったりはしない」

「それだったらいいんだけど」

「ただ、どうして訓練を始めたんだ? 議会の仕事で忙しいのではないのか?」


 この前、魔族領を解放したことによって大きく世界は変わった。エルラトラムの貿易が盛んになり始めているのと同時に聖騎士団への期待も国内外から強く寄せられている。それの対処に彼女は議会で様々な決断をしなければいけないはずだ。

 それらに追われていれば、まともに訓練に割く時間があまりないと思うのだがな。


「忙しいわよ。でも、私も一人の剣士よ。自分の身は最低限守れるようにならないと」

「ユレイナもいることだ。それに議会での仕事はナリアも付きっきりなのだろう?」

「ダメよ。彼女たちに負担をかけたくはないわ」


 仕事のときは常に隣を歩いているユレイナに加え、ナリアもいることだ。それだけでも十分な気がするがな。無理に自分を鍛えなくてもいい。

 とはいえ、彼女も優しい人だからな。自分のことで負担を押し付けるのは間違いだと思っているのだろう。


「無理をしていないというのなら俺もとやかく言うことはない。ただ、アレイシアには元気でいてほしいんだ」

「わ、私だってエレインには元気でいてほしいって思ってるわよ」

「……相思相愛の仲なのですね」

「相愛って……え?」


 アイリスの突然の発言に顔を真っ赤にしたアレイシア。何をそこまで驚く事があるのだろうか。直接血の繋がりはなくとも、俺たちは家族なのだ。それぐらいあっても何も驚くことはないと思うのだがな。


「いえ、羨ましいと思っただけです。私もお兄様とそのようなご関係になれるよう努力したいと思います」

「努力って……」


 目を泳がせてまだ頬を赤くしたままアレイシアが俯いた。


「あの、なにか変なことでも言いましたでしょうか?」


 そんな彼女の様子を見て首を傾げるアイリス。


「アイリスの言いたかったことは家族愛というものだろう」

「はい。私はお兄様とアレイシアさんの関係が本当の家族みたいだと思っただけです」

「……と、当然でしょっ。エレインは私の義弟おとうとなんだからっ」


 そう言うとアレイシアは首を振っていつもの凛々しい表情に戻した。

 一体なにをそんな深く考えていたのだろうか。ただ、それを直接今の彼女に聞くのは野暮と言えるな。


 そんなことを話しているとすぐにリビングへと到着した。

 すでに夕食の準備は整っていたようで食卓の上には様々な料理が並べられていた。もちろん、ミリシアたちも訓練場から戻ってきていたようだ。


「アレイシア様、こちらです」


 すると、ユレイナがアレイシアの席を引いた。

 ミリシアは俺とアイリスの様子を見て若干ながらムッとしたが、別にそれは気にすることでもないか。


「アイリス様の席はあちらになります」


 アレイシアを席に座らせているユレイナがそういった。


「……お兄様の隣、ということですか?」

「ええ、もちろんでございます」


 ユレイナのその発言にアイリスの表情は次第に明るくなってとても嬉しそうだった。その仕草を見ていると子どもを見ている気分になる。これが妹を持つということなのだろうか。


「……」


 そんなやり取りをしていると部屋の隅に立っていた使用人が険しい表情を浮かべながら俺とアイリスを見つめている。

 彼とは昔からいい関係ではなかったからな。こればかりは仕方ないと言えるか。


「それでは、いただきましょうか」


 すると、俺の左隣に座ったリーリアがそういった。


   ◆◆◆


 新しく妹となることになったアイリスと初めて食卓を挟んだ。

 相変わらず、隅に立っている使用人はエレインや彼女に向けて嫌悪の視線を向けているが、それは何度注意しても変わることはない。

 エレインは別に気にしている様子ではないのだが、それを見ている私が不愉快になってしまう。エレインのことを侮蔑するのは許されないからだ。

 ただリーリアやユレイナと比べれば立場は下になるのだが、社会的に見ればそれなりの立場がある人でもある。そんな彼を未だに解雇することができていないのは私の責任でもあるだろう。


「アレイシア様、どうかなさいましたか?」


 私の横で代わりに食卓に並んでいる料理を私の器に装うユレイナがそう聞いてきた。


「……あの人、どうやったら納得してくれるかしら」


 私は使用人に聞かれないように彼女の耳元でそういった。


「難しいご相談ですね。彼を説得するのは難しいと思います」

「そうよねぇ」

「ですが、やめさせるということならできると思います」

「やめさせる?」


 すると、料理を装い終えた彼女が丁寧な所作で私の前に器を置くと続いて自分の分を取り始めた。


「簡単に言えば、私たち全員がエレインに惚れている、という設定にすれば彼も納得してくれることでしょう」

「……っ!」


 私は声を上げようとした途端、ユレイナは意地悪そうな表情をして自分の唇に人差し指を置いた。

 まだ彼女の言葉には続きがあるようだ。


「フラドレッド家は代々、美男美女の家系です。フラドレッド家系の美男ではございませんが、世間的に見ればエレイン様も相当なイケメンでございます」

「……」


 横目で彼のことを改めてみてみた。

 癖のついた茶髪にキリッとした目は角度によって黒から赤に変わる。それに顔立ちからもわかるその落ち着いた容姿は誰がどう見てもイケメンと言える。

 そう言えば彼の右隣に座っているアイリスも彼と似た部分があるように思える。髪色や瞳の色は全く違うのだが、それでも似ていると思った。

 いや、そんなことはどうでもいいことだ。ユレイナは一体何を考えているというのだろうか。


「そんな彼に周囲の女性が惹かれないわけがない、そうですよね」

「そうね」

「あの使用人には悪いことをしますが、仕方ありません。エレイン様がイケメンでかつ強いという事実を見せつければきっと心も折れるはずです」

「だけど、そんなことをしたら……」

「あの人はアレイシア様のことを狙っているようですので」

「え?」


 それは初耳だ。

 確かに思い返してみれば私のことをずっと側で支えてきてくれた。それに彼の家系はフラドレッド家の分家でもある。容姿もそれなりに整ってはいるものの、私とは性格が合わない。

 それなのに私のことが好きだというのだろうか。


「アレイシア様は美女でございますからね。それは私から見てもよくわかります」

「……そう、なのかな」

「どうですか? エレイン様に色仕掛けの一つや二つ、見せつければあの使用人もきっと挫折することでしょうか」


 そういってふふっと笑った彼女はとても意地悪な表情をしていた。

 でも、彼女の話が全て本当だとすれば、私がエレインにアプローチするところを見てあの使用人はきっと挫折するはずだ。恥ずかしいとは言え、エレインにこれ以上迷惑を掛けるわけにもいかない。

 ここはこの家の主でもある私が一肌脱ぐ必要があるということらしい。


「もちろん、私も協力いたしますよ」

「……そ、それならやってみるわ」


 そういって私はゆっくりと席を立つことにした。


   〜〜〜


「……うぅ」

「アレイシア様、とても素晴らしいアプローチでしたね」

「は、恥ずかしかったわよっ」


 私の計画としては酔った勢いでエレインにベッタリとくっつくつもりだった。最初はうまく言ったが、途中で彼から酔ってないだろと言われて顔が猛烈に熱くなったのを感じた。

 もちろん、恥ずかしいと思ったのだ。


「でも、使用人の顔を見ましたか? ものすごく動揺していました」


 私の部屋でふふっと意地悪そうに笑うユレイナ。

 確かに終始動揺していた様子だったのは言うまでもないだろう。しかし、かといってこれで彼の心が挫折したとは考えられない。

 私がエレインとくっついていろんな色を込めた言葉を投げかけていた時間はせいぜい一〇分程度だ。それ以降は何も知らないリーリアやミリシアから便乗して結局の所どうなったのかはわからない。それにアイリスは顔を赤くしてただすぐ隣で私たちのやり取りを見ているだけ。またレイやアレク、ユウナはずっと笑ったまま、引き剥がすこともせず面白そうに見ていた。それが余計に恥ずかしさを助長してくる。

 いや、そんなことよりもユレイナはあの時……


「……そういえば、ユレイナもあの時便乗してたわよねっ」

「もちろんです。エレイン様を抱くことができるのはあのような時ぐらいですから」

「なっ」


 なぜだろう。どうやら私は彼女の口車に乗せられたということだろうか。

 とりあえず、使用人の一件に関しては申し訳ないとは思うものの、実害が出る前に対処するべきなのは確かだ。今度ゆっくりと作戦を考えることにしよう。

こんにちは、結坂有です。


今回は少し気楽な回となりました。

なんとも妙な作戦に乗せられたアレイシアでしたが、いかがだったでしょうか。

こうした休憩となる回も増やしていきたいところです。


それでは次回もお楽しみに……



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