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二人目の最強として

 俺、エレインはアイリスとミリシアとの戦いを見て思ったことがあった。双方ともに引けを取らないと言ったいい試合を見せてくれた。それだけで彼女たちがどれほどの実力者なのかはもう言うまでもないだろう。

 ただ、気になったところがあったのだ。アイリスと俺との共通点としてあの試験で最高記録を叩き出したというものがある。しかし、それだけではないような気もする。もっとなにか根本的な部分で共通している。その人の生まれ持っている素質だ。同じ遺伝子というわけではないだろうが、それでも素質としては俺にかなり近いものを感じる。

 指導のやり方によってはミリシアどころか、レイすらも凌駕するような実力を手に入れることができるだろう。

 まぁそんなことはアイリス本人は知らないようだし、彼女も人に勝ちたいという強い信念を持っているわけではない。俺たちと同じく平穏を維持したいと考えているのだからな。


「お兄様、どうかしましたか?」


 そんなアイリスを見ていると彼女は俺の方へと振り向いてそういった。


「少し考え事だ」

「その、なにか問題でもありましたでしょうか」

「別にそういったことではない。アイリスのことを少し考えていただけだ」

「お兄様……」


 すると、アイリスは頬を赤らめてそわそわと体を揺らした。

 その様子を見てミリシアとリーリアが若干ながらムッとしている。


「エレインの妹ってだけで、それ以上のことは認めてないからねっ」

「……ミリシアさん、ありがとうございます」

「感謝をするところじゃないでしょ」

「いいえ、私はお兄様の妹と呼ばれて嬉しいのです」

「……」


 ミリシアの言葉を嬉しく思ったのだろう。彼女にとって妹であるということは誇りなのだろう。ただ、感情のコントロールはうまくできているようだが、まだ耳の部分が赤い。俺たちと違ってまだ未熟な一面があるようだ。


「だけど、実力に関してはまだまだエレインのほうが上って感じね」

「もちろん、それは承知の上です。お兄様を超えるなど、私にできるわけがございません」


 彼女はそういっているが、正直なところ素質という面で言えば俺よりも上だと思っている。あとは彼女の体が耐えられるかが問題だろう。俺も同じく脳の処理速度を上げるとどうしても頭痛を起こしてしまう。

 あらゆる状況を高速で処理する能力においては俺と同等かそれ以上とも言える。

 だが、実際の戦場ではそういった思考能力よりも技術の方が重要だったりもする。常に変化し続ける戦場において考える暇などないからな。それほどに直感力が試されるところでもある。


「エレイン様、アレイシア様が戻ってこられたみたいです」


 すると、リーリアが訓練場の窓を見た。

 俺も窓の方を向いてみるとそこにはアレイシアが立っていた。少し疲れている様子だが、彼女にも軽く話を通しておく必要があるだろう。


 しばらくして、訓練場を出るとユレイナが俺たちのことを待ってくれていたようですぐにアレイシアの部屋へと案内されることになった。

 ミリシアやレイたちはもう少し腕を慣らしたいと訓練場に残るようだ。まぁ夕食時には訓練をやめてリビングの方へと戻ってくることだろう。

 アイリスは少し緊張している様子だ。初対面で勝つこのように呼び出して話をするような相手、それも立場がエルラトラム議長という人間だ。少しばかり緊張するのも無理はないか。


「そこまで緊張する必要はない。別に怖い人ではないからな」

「そうなのですか?」

「ああ、ただ足が悪いからな。訓練場で長時間立って話すことができない」


 もちろん、できないというわけではないが、議会での仕事帰りということもある。あまり疲れさせないようにするのは当然の配慮と言える。


「……そうでしたか。少し緊張が和らぎました」


 そういって一呼吸した彼女は表情から緊張の色が消えた。

 まぁ彼女のことだ。多少緊張していたところで自分の意志をはっきりということのできるはずだ。ただそれでも、今後長く関係を続けることになるからな。互いに印象を悪くしてはいけないな。


「アレイシア様がお待ちしております。リーリアは私と一緒に夕食の準備をしましょう」

「はい」


 すると、ユレイナはアレイシアの部屋の前でそういってリーリアとキッチンの方へと向かった。

 それを見た俺は扉をノックしてアレイシアの部屋へと入ることにした。


「……遅かったわね」

「一週間ほどの滞在だったが、少し遅くなってしまった」


 マリセル共和国に到着してすぐ手紙を出した。その時は一週間以内に帰ると伝えていたからな。数日後にはもう少し時間がかかるといって結局二週間ほどの滞在となってしまった。

 手紙では報告していたが、遅くなってしまったことには変わりない。


「まぁ手紙でどのようなことがあったのかは知ってるわ。でも、気付いたときは私たちに連絡すればよかったのに」


 そういって椅子に座ったままのアレイシアは机に肘をついて頬をムッとした表情で俺を見つめた。


「普段の状況ならすぐに聖騎士団を呼ぶのが正解なのかもしれないが、聖騎士団はこの国のことで精一杯なはずだ。むやみに距離のある他国へと派遣したくはなかったんだ」

「別に怪我もなく無事に帰ってこれたのならいいわよ」


 レイが矢を受けたことは知らないようだ。彼がこの程度の傷は大したことないと言っていたからな。確かに傷も二日程度で消えていた気がする。彼の持つ魔剣リアーナの”超過”という能力は非常に優秀と言える。


「それで、その子が手紙で言ってたアイリス?」

「ああ、俺の妹になりたいと言ってな」

「はい。エレイン様をお兄様として慕いたいと思っています」


 真っ直ぐな瞳で彼女はそういった。まるで決意に揺るぎがないということを示すように。

 それに若干の驚きを見せたアレイシアだったが、軽く咳払いをして表情を戻した。


「……エレインの妹というのならその実力を、と言いたいところだけどさっきの訓練場での試合を見たわ」

「どう思われたのですか?」

「正直なところ、また私の手に負えない人が来たと思ったわ」


 実力者としてこの国で長く認識されていた彼女は聖騎士団で男女問わず人気だったらしいからな。ただ、孤高の存在ということもあってか直接話しかけられたりするようなことはなかったそうだ。

 孤高がゆえに孤独になっていたのだろう。


「だけど、こうして人が増えるのは私も楽しいのよ」

「楽しい、のですか?」

「ええ、私はずっと一人だったからね」


 忙しい毎日ではあるものの、それでもこうしてみんなとともに生活できる。これ以上、平和で穏やかなことはない。こうした平穏こそが俺にとっても彼女にとっても幸せであり、そして楽しみにでもあるのだ。


「まぁいいわ。私も妹というだけの実力をしっかりと持っているのなら何も言わないわ」

「……ありがとうございます」

「でも、一つだけ忠告よ」

「なんでしょうか」

「エレインの妹ってことは剣聖の妹ってことよ。それに恥じない行動を取るようにね」

「わかりました。心得ておきます」


 アイリスは言うまでもないが、十分に恥のないしっかりとした女性だ。

 まぁ形式上でもそのようにして言っておかないといけないのは仕方のないことか。


「それじゃ、一時間後の夕食のときに詳しくアイリスのことを聞かせてもらうわ」

「それなら……」

「エレインからじゃなくて、アイリス本人から聞きたいわ」

「私からですか」

「当然よ。それと、マリセル共和国でのエレインのことも聞かせてもらうわ」

「……任せてください」


 アイリスは何かを察したのか真っ直ぐな目でアレイシアの目を見つめた。

 一体何のことなのだろうか。

 とはいえ、アレイシアがアイリスのことを快く思ってくれたことは良かったと言えるだろう。

こんにちは、結坂有です。


アレイシアとアイリス、互いに認め合うことができたようですね。

険悪な感じにならずによかったです。

これからのアイリスの立場はどのようになっていくのでしょうか。


それでは次回もお楽しみに……



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