権利を得るには
私、アイリスはエレインたちと一緒にエルラトラムへと向かっていた。いや、これから故郷となる国でもある。私の中では第二の故郷、そう考えるだけでも少しばかりドキドキする。
戦いに関してはかなり自信を持つことができるが、こればかりはなかなか慣れないものだ。物心付いたときから戦いのことばかりを教えられてきた。そこのことはエレインと同じなのだが、彼は戦いの他にもある程度の教養もある。
聞いた話だと、エレインやレイたちが育った施設には図書室なる場所があったそうだ。訓練の合間にそこで教養を積んでいたらしい。私の育った環境にはそのような場所はなかった。せいぜい訓練指導の人の話を聞くぐらいだった。
まともに本を読んだのは訓練も試験も終えてからだった。それに本を読んだと言ってもそれは軍の施設にあるような本だけ、戦術に関するものだったり軍備に関するものだったりがほとんどだ。彼のようにいろんな知識を手に入れることはできなかった。
いや、彼はエルラトラムの剣術学院に行っていたようだ。そこでの知識もあるのだろうか。
彼の生い立ちについてはもっと知りたいところなのだが、今は彼の妹として見て得られるものから習得していくべきだ。
「そろそろエルラトラムに到着します」
馬車の窓から外を見てリーリアがそういった。
私も窓の外を見てみることにする。すると、そこには大きな防壁がそびえ立っていた。私の育ったマリセル共和国は爆薬などで拡張してはいるものの断崖で覆われている国だ。土地を利用して壁を作っている。
しかし、このエルラトラムという国は人工的な壁で外部と隔てているようだ。もちろん、魔族でもすぐに超えられないよう返しのついた立派な防壁がこの国の周囲を囲っている。
初めてマリセル共和国以外の国を見てみたが、やはり外の世界は知っておくべきだと改めて思った。
それからしばらく馬車は進んでいき、防壁の門をくぐるとすぐに停車した。
「着きました。ここからは徒歩になります」
そういって馬車の扉を開いたリーリア。続いてエレイン、レイと外に出る。私は息を整えて彼らに続くようにして馬車の外を出る。
ここに来るまでに三日ほどかかった。今朝はかなり早い時間に出た上に行商人の協力もあって予定よりも早めに到着したとはいえ、それでもそれは夕方となっている。薄暗くなってしまっているものの、それでもこの国の景観が美しいと思えるのはしっかりと整備された国だからだろう。
もともとこの国は王国だったために城下町を中心に広がった主要な大通りは直線的で、それに沿うように建てられた建物がこの国の荘厳さを醸し出している。しかし、大通りから視線をそらして脇道へと視線を向けると最近になって建てられた大衆向けの店があったりと環境としてはかなり住みやすい国だと思った。
「マリセル共和国とは全く違うだろ」
想像を超えた異国感に耽っているとレイがそう話しかけてきた。
「はい。あの国は歴史の浅い計画都市ですから。このように古い時代から続いている国とは全く違います」
「歴史か。俺もよくは知らねぇが古くからの伝統があるそうだぜ」
「伝統ですか」
「今となっちゃ、聖騎士団って名前だがな。昔は国王騎士団って名前だったらしい。今も聖騎士団本部には王国だった頃の紋章がところどころ残っているんだ」
言われてみれば、聖騎士団の制服にはどこかの紋章のようなものが縫い込まれていたように思える。
それに大通りの建物にも似たような紋章が刻まれている。王政だった頃の名残なのだろうか。そういったところもやはり異国感を醸し出している要因の一つなようだ。
「魔族が蔓延る世の中になってもこうして残っているのは素晴らしいことだと思います」
「まぁそれは言えてるな」
マリセル共和国はもともと魔族によって滅んでしまった国同士が集まって一つの国になったようなものだ。そのため、いろんな地域から人が集まってきていろんな文化が混合している。良くもあるのだが、そのせいで特徴が薄れてしまっている印象だ。
まぁ今の時代に生まれた私がどうこう言えた話ではないのだが。
しばらく歩いていると、次第に商店街が見えてきた。
マリセル共和国の門の近くに店が並んでいるというわけではない。リーリアはこれも魔族が攻撃してきたときに被害が少ないようにとのことらしい。
門近くで貿易物の荷降ろしはされているものの、店はそこまで多くはない。多くの建物は倉庫ばかりだ。魔族が侵攻してきたときも人的被害をなるべく少なくしようとしているのが見て取れる。
それから商店街を抜けて住宅地を進んでいく。少し長い階段を降りて数分歩いていくと古い様式でそれでいて大きい豪邸のような家にたどり着いた。
「ここがフラドレッド本家でございます」
そういって案内された建物は華やかな装飾の施されたまさしく豪邸と言うにふさわしい場所であった。
もちろん、フラドレッド家というものが名家であるということはここに来る前から聞いていたが、まさかここまで大きいな家だとは思ってもいなかった。
門の前に立ったあたりでエレインが口を開いた。
「まぁ分家からはそこまでいい目はされていないのだが……」
「ですが、お兄様は本家の人間です。そこまで気にする必要はないと思います」
「……今でも分家の一部からは養子の分際でと口うるさく言ってくる人がいるんだ」
「はい。その方たちは自分の利権ばかりを主張しているだけの無能でございます」
ムッとした表情のままリーリアがそのようなことを言った。彼女がそこまで言うのならおそらく無能なのだろう。
だが、無害ならともかく実害のある人ならすぐにでも破門にすればいいのにとも思う。ただ、大きな名家であることからもそうすぐに破門するなんてことはできないのだろうけれど。
「エレイン……」
そう門を開こうとした途端、後ろの方から女性の声が聞こえてきた。
振り返ってみてみるとそこには女性が二人と男性が一人立っていた。
「ミリシアに、アレク、ユウナか」
「ちょうど今帰ってきたところだぜ」
エレインとレイがそういった。
彼女たちがおそらく私と同じような環境で育った人たちなのだろう。
「……そうみたいね。そこの女の子がアイリスね」
すると、鋭い視線でミリシアと言う女性が私を睨みつけるように見つめてくる。
殺気こそないもののかなり強い意志のようなものを感じる。私を試しているようなそんな目だ。
「はい。フラドレッド家の剣聖ことエレインお兄様にお仕えするアイリスと申します」
「エレインの妹になる、という認識でいいのかしら?」
「はっ、手紙に書いてたとおりだぜ」
「レイはそれでいいわけ?」
どうやらミリシアは私に対して怒りに似た感情を覚えている様子だ。彼女とエレインとの関係性はどういったものなのかは全く知らないが、それでも彼とは良好な関係であるということだけは理解できる。
「まぁ実力は確かだ。俺が保証する」
「……それなら私が確かめてあげるわ。エレインを誑かしているわけじゃないのよね?」
「私がお兄様を誑かすなんて言語道断です」
「なら、私と勝負よ。自分の主張を通したいのならそれだけの実力を見せなさい」
彼女の言うように自分の主張を押し通すにはそれ相応のものを提示する必要がある。今回はエレインの妹であるだけの実力を見せろとのことだ。彼に立ち並ぶほどの実力がないのなら私は妹とは呼べないのだから。
「ミリシアさん、いきなり勝負だなんてアイリスさんも対応できないと思いますっ」
「こうなるであろうとは想定していました。ですので、問題ありませんよ」
「へぇ、想定していたのね」
「はい。考えられることはすべて想定するのが普通でございます」
「……うぅ、怖い方のエレイン様に似てますぅ」
とりあえずは彼女たちに自分の実力を認めさせる必要があるようだ。
別に勝負に勝つなんてことは考えなくていい。自分の本来の力を十分に発揮させることだけを考えるべきだろう。
エレインは私のことをどう見ているのかはわからないが、今はお兄様のことを忘れて勝負に集中するべきだ。
こんにちは、結坂有です。
二日ぶりの更新となってしまいました。
不定期更新となってしまっていますが、次回も早く更新できるよう頑張ります。
エルラトラムに戻ってきたエレインたちですが、アイリスとミリシアの戦いはどのような形になるのでしょうか。
二人の戦いも見逃せないところですね。
それでは次回もお楽しみに……
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