家に帰る準備
マリセル共和国に魔族が攻め込んできてから数日、私、アイリスはお兄様であるエレインのいる宿に止まっていた。
リーリアから彼がどのような立場で、どのような人間関係を築いているのかを教えてもらうことにした。
彼女の話では彼にはレイの他にもたくさんの仲間がいるようだ。そのなかでもミリシア、アレクにユウナ、そして私も知っているレイの四人が彼と同じ訓練施設の出身だそうだ。もちろんだが、とても強く実力のある人たちなのだろう。
だが、一つ気になったことがあった。
魔族であるというルクラリズとセシルに関しては私も少し不信感を抱いた。エレインが大丈夫だというのならきっと大丈夫なのだろうが、どうしても魔族だという先入観が彼女たちのことを不信に思わせる。まだ彼女たちに直接会ったこともないのだ。口頭だけの説明だけで彼女たちのことを考えるのは野暮と言えるだろう。
「……お兄様にはたくさんの仲間がいるのですね」
「はい。エレイン様は人望のあついお方ですから」
きっとリーリアの言うとおりなのだろう。
私もエレインのことはまだまだ知らないことばかりだ。それでも一緒にいたいと思える。
私は彼のためなのだとしたら、似た境遇ではなくても自身を捧げたに違いない。
「それにしてもお兄様のお姉様となると、困りましたね」
正直なところ、エレインに姉がいるとは想像もしていなかった。私と同じような境遇なのだとしたら家族といった存在はいないと思っていたからだ。しかし、よくよく考えてみればおかしなことだ。
セルバン帝国は崩壊、当時は私たちと同じく子どもだった彼らは誰かに引き取られていても不思議ではない。誰の子なのかわからない彼らを迎え入れるには代わりの家族となる人たちが必要だからだ。
「……アレイシア様もエレイン様と同様にお優しい人でございます」
「優しい人なのですか?」
「はい。エレイン様に惚れているのですから、彼のことなら優しくなります」
確かに好きな人に甘くなるのは当然とも言えるか。
とはいえ、何も知らない私がすぐに受け入れられるとも考えられない。
「それでも少し気になります。エレイン様のお姉様に当たるアレイシアさんは聖騎士団だったのですよね?」
「そうですが、そこまで気負う必要はございません。アレイシア様も普通の人ですよ」
「……」
そう言われても怖いものは仕方ない。一度感じてしまった印象はなかなか拭えないものだ。
ただ、まだ話しても出会ってもいない人たちのことなどこんなところで考えていても仕方がない。なるようになる、そう考えて私はお兄様の、私の実家になるであろう場所に帰ることに使用。
明日にはこの国を出発してエルラトラムに向かうのだ。
「こんなところで戸惑っていても仕方ありません。エレイン様の妹になると決意したのですから」
「はい。そうですよ」
リーリアのその一言が少しだけ私に自信を付けてくれた。
今日はリーリアとエレインたちとでマリセル共和国議会に私たちのこれからのことを報告するつもりだ。別に許可を取らないといけないわけではないが、彼らに伝えておいて損はないだろう。
自分の勝手な都合でもあることだ。そのことはしっかりとしないといけない。
剣聖であるエレインと一緒に行動するためのけじめとも言えるだろう。
◆◆◆
私、ミリシアはエルラトラム議会で数日前に届いたある手紙を読んでいた。
それはリーリアからのある報告だった。
「……明後日には帰ってくるのね」
「そうみたいだね。三日ほどだと言っていたからね」
「このアイリスって女の子、どう思う?」
私は報告書に書かれたアイリスのことについてアレクに聞いてみることにした。
この手紙が届いたときはエレインが帰ってくるということで頭がいっぱいだったが、冷静になった今はそうではない。
彼が帰ってくるということだけではなく、彼の妹となる女性がいたということに驚きだ。
「まぁ境遇が同じってことでは兄妹といってもいいんじゃないかな」
「……それだったら私たちだって家族みたいなものよね? 訓練をともにしてきたんだから」
「だけど、僕たちは最高記録を取ったというわけではないよ。それに僕たちはエレインに追いつけなかった」
「それは、そうだけど……」
アレクの言うように私たちはエレインの記録を超えることはできなかった。私もアレクも彼の持つ異次元の実力に圧倒されていたのだ。ある意味ではレイもとんでもない実力を持っていたとはいえ、総合的に見ればエレインと並ぶことはなかった。
ところが、この報告によるとアイリスという人は私たちと似たような訓練内容で最高記録を叩き出したという逸材だ。
実力の伴っていない私たちがどうこう言えた立場ではないのかもしれない。
「私はエレイン様が良ければそれでいいと思っています」
すると、ユウナがそういってコーヒーを運んできてくれた。最初の頃とは違って、今は美味しいコーヒーを淹れてくれている。
「……本人がいいからって言ってもね」
「それだけでは不十分なのですか?」
「僕もそう思うけどね。結局はエレインの意志が大事だからね」
アレクもそういって私の方を向いた。
それはそうなのだろう。何も関わっていない私たちが彼らのことに口出しできる立場ではないのだ。
そうだとしても不服だと感じるのは仕方のないことなのかもしれない。
「まぁ一番の問題はアレイシアがどう判断するかだけどね」
「エレインのことだし、すんなり認めると思うけどね。ルクラリズのときだってそうじゃない」
「……口では認めるかもしれないけどね。心の中では反対の意見を持っていたりするよ」
「そんなこと言ってたらきりがないじゃない」
私がそう彼に言ってみる。
すると、彼はそうだねと言ってコーヒーをすすった。
どちらにしろ、私たちはエレインたちが帰ってくることよりもアイリスがここに来るということに対しての準備が必要だということだ。
私としてはエレインの妹だと言い張るのだとしたらそれ相応の実力を持っている事が条件だ。権利を主張するのなら対等な立場だと証明する必要があるのだから。
「……ミリシアさんが怖い顔をしています」
「いつものことだよ」
「いつもって何よ」
そう私が反応するとアレクは私から視線をそらした。
次にユウナの方へと視線を向けるが、彼女も同じ私から視線をそらしてしまった。
「もう」
行き場の失った不満を払拭するようにして私はコーヒーを飲むことにした。
いつもは美味しいと思っているこれも今日だけはなぜか苦く感じてしまったのは言うまでもない。
こんにちは、結坂有です。
ついにアイリスがエレインの実家の方へと向かうことになりましたね。
面倒なマリセル共和国議会への報告を終えて、次回からはエルラトラムに舞台を戻します。
ミリシアとアイリス、一体どのような事が起きるのでしょうか。
二人には仲良くなってほしいところですね。
それでは次回もお楽しみに……
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