事件の影響
俺、エレインは軍司令本部へと向かっていた。
アイリスやリーリア、ベジルも一緒に来ている。途中、聖騎士団の人たちは市民の安全を確認するためにシェルターの方へと向かった。
市民のことは彼らに任せるとして、俺たちは軍司令本部の状況を確認することにした。
アイリスによれば、レイも本部にいるそうだ。
「エレイン様、この国では一体何が起きていたのでしょうか」
司令本部に入り、慌ただしく動いている兵士たちを見てリーリアがそういった。
「詳しくはわからないが、指揮系統の数人が魔族によって操られていたのは確かだな」
「……ですが、どのタイミングでそのようになってしまったのでしょう。私が司令本部に、ファデリード司令が生きていたときはこのようなことは起きていなかったように思えます」
すると、アイリスがそういった。
まぁこの国のことは俺たちよりもよく知っているだろうからな。
「はっ、今となっちゃ知りようねぇな」
確かにベジルの言うようにこの件に関わっていた重要人物はすべて魔族化してしまい、殺されてしまった後だ。詳しい情報を知っている人などもういないのだ。
それにしてもどのタイミングで指揮系統が崩れ始めたのかは気になるところだがな。しかし、そんなことは他国の人間である俺が調べたところでなんの意味もない。それらを調べるのはベジルたちやマリセル共和国議会の仕事と言えるだろう。
「エレインっ!」
そんなことを考えながら歩いているとレイが俺たちの方へと走ってきた。
「……魔族化した兵士が何人かいたようだな」
「ああ、ぼうっとしてる状態から急に体が膨らみ始めてよ」
俺もその事はよく知っている。リーリアと一緒に司令本部に来たときも似たように兵士の体が急に隆起しだしたりしたからな。
当然ではあるが、兵士の多くは混乱することだろう。
「それにしてもそこまで大きな混乱には起きなかったみたいだな」
だが、周りを見てみると確かに慌ただしく兵士たちが動いているとはいえ、そこまで混乱していたり、焦っている様子は見られない。もちろん、彼らの表情から精神的に焦燥しているようには見えるが。
「ジディールってやつが指揮し始めてから兵士たちの混乱はだいぶ収まったぜ。まぁ仲間が急にあんな風になったんだ。精神的に参ってる連中も少なからずいるがな」
「なるほどな。議会から戻ってきたばかりだと言っていたが、優秀な人だったんだな」
「そのジディールって奴が言うには、俺たちは特に何もしなくていいってよ。あとは自分たちの仕事だってな」
まぁ自国の問題に他国を巻き込むわけにはいかないからな。魔族を倒すだけでなく、国内の情勢までも助けてもらっていては軍の役割が疑われることだろう。
市民の目を意識するならここは彼らに任せるとしようか。
「……それでよ。お前ら、どうしたんだ?」
「なにがだ」
「そりゃ、アイリスとどうなったんだってことだ」
レイにそう言われ、アイリスの方へと視線を向ける。
先ほどまで一歩離れた場所に立っていた彼女だが、いつの間にか肩が触れそうなぐらい近くにいた。気配や物音を立てずに近付いてきたということだ。
すると、俺と同時にアイリスの方を向いたリーリアが若干だけムッとした評定をした。
「どうって言われても……」
「私たちは正式に兄妹として、ともに過ごしていくことにしました」
俺が説明するよりも早くアイリスがそう答えた。
まぁ間違ってはいないが、俺としてはもう少し言い方を考えて欲しかったところだ。
「はっ! お前ら兄妹になったのかっ」
「はいっ」
「おもしれぇ!」
なぜか喜ぶレイに俺はため息を隠せなかった。
「エレイン様、ほんとうに、ほんとうに妹になされるつもりですか・」
「別にこうなってしまった以上は認めざるを得ないからな」
「血縁関係ではございませんよね?」
「……私とお兄様とは直接血縁関係にはございません。ですが、似たような環境で育った上に最高記録を取ったという共通点があります」
リーリアの言葉に続けてアイリスがそう言った。
血縁上の兄妹ということではなく、境遇や共通点が多くあるという点で彼女は兄妹だと言っているのだろう。そこは大きな問題ではないのだが。
「それなら俺も弟になるのか?」
「あなたは最高記録を取っていません。最後の試験で大きなミスを犯しました」
「……あれがミスってか?」
「少なくとも指導者であるファデリード司令はそう言っていました」
まぁどちらにしろ、アイリスは俺の妹になるために強引にでもそう宣言したいそうだ。一体何が彼女をそこまでさせているのかは理解できないが、強い決意のようなものがあるのも確かだ。
それに彼女の力は人類にとってかなり重要なものとなるだろう。俺と一緒にエルラトラムに来ることで俺にとっても彼女にとっても有益であると俺は考えた。
「エレイン様はそれでよろしいのでしょうか」
「何度も言ったが、構わないと思っている」
「……わかりました」
またしてもムッとしてしまったリーリアとは裏腹にアイリスは俺に向けて感謝を伝えるかのように真っ直ぐな瞳で見つめてきている。
「こりゃ面白くなりそうだなっ」
その様子を見て楽しそうにしているのはレイただ一人だけであった。
それから俺たちは宿へと戻ることにした。
軍司令本部はジディールやベジルたちに任せるとして俺たちは休むことにした。リーリアとアイリスが生き残った司令官たちに今回の魔族のことを知らせてくれた。
まぁ案の定、彼らの知らないような魔族だったようで、今まで確認されていなかった種類だそうだ。確かに上位種の魔族がこうして大規模な攻撃を仕掛けてくるというのはかなり珍しいことだからな。
ただ、それにしても魔族の動きが活発になっているような気がする。すべては魔族の一国が崩壊してからだ。魔族という存在は敗北という言葉を知らない。徹底することはあっても完全な敗北というものは経験していないのだ。
それを俺たちが壊してしまった。彼らの無敗という誇りを傷付けてしまったということだ。
ともあれ、このまま無敗というわけにもいかないからな。人類をここまで分断させた彼らにはそれ相応の報いを受けるべきだ。
「エレイン様、お疲れさまでした」
「いや、リーリアとアイリスが俺の代わりに報告をしてくれたんだ。俺はただ戦っただけだ」
「そう言いましても、逆に言えば私たちはそういったことでしかエレイン様をサポートできないのですから」
リーリアはそういうが、彼女も魔族と戦ったというのは事実だ。
報告だけしかしていないというわけでもない。そういった点では俺以上に仕事をしているとも言える。俺はただ魔族を殺して回っていただけなのだから。
「そんな顔をしないでください」
すると、アイリスが話しかけてきた。
「お兄様は私たちよりも早く魔族の殲滅を開始しました。そのおかげで人的被害を最小限に抑えることに成功したのですよ」
魔族といち早く遭遇して倒すことができたというのも市街地で魔族化した兵士がいたからだ。理性を失い始めていた彼らはなんとしても殲滅させる必要があったのだ。
「はっ、みんながよく頑張ったってことでいいんじゃねぇか?」
「ああ、レイの言う通りだ」
「……そうですね。そうなのかもしれません」
アイリスがそういうとリーリアも小さくだが頷いた。
大きな戦いになることはなかったとはいえ、上位種を何体も倒してしまった。これが魔族との新たな戦いへと発展するきっかけになりそうな予感がする。
今は何も起きていないが、少なくとも近い内に魔族側が何かしらの行動を起こしてくることはずだ。負け続けで彼らも不快に思っている頃合いだろうからな。
こんにちは、結坂有です。
しばらく更新が空いてしまいましたが、毎日更新できるようがんばります。
マリセル共和国での一件は終わらせることができましたね。
ですが、これで魔族側にどう影響が出てしまったのかはわかりませんね。本格的に人間側を攻撃してくることだってあるかもしれません。
これからは事後ということで平和な回が続きます。
次章の展開がどうなるのか、楽しみですね。
それでは次回もお楽しみに……
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