力を得るには孤立を制すべし
俺は自分の家の前にいた。
まぁ分家の家なのだが、今は自宅として使わせていただいているものだ。
玄関の前に行くと、横にいたリーリアが聖騎士団本部に向かうと行って歩き出して行った。
彼女も色々と大変なのだろうが、今日の様子はいつもと違っていた。
「おかえりなさいませ、エレイン様」
扉を開けるとそこにはいつものようにユレイナが立っていた。
「リーリアのことは聞いているか?」
「ええ、本部に向かうとのことですね。少々帰りが遅くなることも聞いています」
どうやら彼女にも伝えていたようだな。
「そうか、俺も本部に向かうとする。夕食は遅くなる」
「そ、そうなんですか?」
「ああ、アレイシアにも伝えておいてくれ」
そう言って俺は駆け出した。
扉を開けたのはそれを言うためだけだったのだ。
「ちょっと待ってください!」
扉の奥でそんな声が聞こえたが、それを気にも留めずに駆け出した。
本部の近くに着いた。
門の警備が五人か。
まぁ聖剣を持っているわけではないから数には含まれない。聖剣を持っている剣士は建物内部に十五人程度か。
建物から聞こえる足音や話し声などで状況を全て把握する。
しかし、数がわかったところでリーリアの場所まで分からない。
「アンドレイア、リーリアの場所はわかるか?」
『ふむ、どうやらあの大きめの窓の奥にいるようじゃな。あの女の魔剣の匂いがするの』
「そうか」
あの距離なら届くか。
俺はアンドレイアを腰から外して構える。
『な、何をするんじゃ?』
「今からあの窓に投げ入れる。危険な状況になっているかもしれないから俺がたどり着くまで時間稼ぎをしてくれ」
『じゃが、わしが離れるとお主に力を分けれんぞ?』
「ああ、わかっている」
距離が離れ過ぎるとアンドレイアの加速の力がなくなる。しかし、十五人程度何も問題はない。
『待て、待つのじゃ!』
アンドレイアはそう言うが俺は思いっきりリーリアがいるであろう部屋の窓に投げ込んだ。
もちろん魔剣の加速という能力を使ってだ。
「な、何をしている!」
すると、門の外でそんなことをした俺に対して警備の人が五人こちらに歩いてきた。
「ただ、投げ入れただけだ」
「剣を投げ入れる馬鹿がどこにいるんだ」
そう言って俺を拘束してこようとするが、甘い体術などに捕まるわけがないだろう。
「なっ! こっちに来なさい!」
「俺は本部の中に入る」
「許可なく入れない!」
「許可などいらない」
そう言って俺は五人を掻い潜り、本部の方へと走り出した。
門の警備なのに五人ともこちらに歩いてきたのが問題だったな。
あっさりと門を突破した俺はそのまま本部の中へと侵入する。
すると、先ほどの警備員が連絡したのか三人の聖騎士団が剣を引き抜いて俺の方へと走ってくる。
「あ、あいつだ!」「侵入者を逃すな!」
逃げているわけではないのだがな。まぁ聖騎士団の実力を測るためにもちょうどいいか。
俺はイレイラを引き抜いて走ってくる騎士らに切っ先を向ける。
「我々聖騎士団に勝てるわけがない!」
「どうだかな」
大きな剣を刺突の構えで走ってきている男に俺は攻撃を仕掛ける。
まず正面からの攻撃に突きはかなり有効だが、横からの攻撃には弱い。
「ふっ」
俺は体を回転させ、刺突を躱し彼の横に立った。
「なにっ!」
どうやら俺の動きに対応できずにそのまま走っていった。
こうして真横から見ているとなんとも間抜けなものだな。
「せいっ!」
避けた俺に対して別の騎士が横方向に斬りかかってきた。これも素早いものでもなく簡単に避けられるものだ。
剣を交えることなく、俺は避けてみせるとさらに背後から縦方向の剣撃が襲う。
その攻撃をイレイラを後頭部に構えて防ぎ、左足を軸に体を回転させることで剣の位置を変えることなく体の向きを変えた。
「なんて速さだ……がっ!」
俺は彼の首にイレイラの刃がない部分で叩いた。
正確な一撃は彼の意識を簡単に刈り取った。
「やっ!」
すると、先ほど横振りを簡単に躱された騎士がもう一度横振りで攻撃してくる。
なんとも学習のしない奴だな。
それを俺は瞬時に屈むことで下方向に避ける。そして、彼の足首をイレイラで叩くとすぐに倒れた。
「はっ!」
刺突を躱された騎士も体勢を整え、こちらに攻撃を仕掛けてきたがそれもお粗末なものであった。
あっさりと反撃することができた。
「ぐはっ!」
攻撃を仕掛けてきた三人の騎士をあっさりと倒した俺はそのままアンドレイアの投げ込んだ部屋へと走り込む。
そして、その部屋の前に着くと槍状の聖剣を持った騎士二人が扉の前を防衛していた。
ここで時間をかけてしまうと追手がすぐに来てしまうため、一瞬で方を付ける必要があるだろうな。
「ここは通さんぞ!」
なんとも門番がいいそうな台詞だが、槍を相手にするのは少し面倒だ。とは言っても室内で槍を使う利点など何一つない。
「せいや!」
二人が同時に槍を突き出してくる。
その二つの槍先をイレイラで絡め取り、二人の槍を交差させることで完全に彼らの動きを制御する。
「馬鹿な!」
槍をすぐに手放せばいいのだが、彼らはそう判断できずにそのまま横方向へと投げ飛ばされた。
「がはっ!」
そして、鎧を装備しているため転べば即座に立ち上がることもできない。
こうした室内戦には不向きな装備を持った二人を横目に俺はその扉を開けた。
扉を開けるとすぐ目の前にリーリアが膝をついており、アンドレイアがブラド団長を剣で押さえつけていた。
「助かった」
俺が彼女に向かって感謝の言葉をいうと、呆れたようにこちらへと歩いてきた。
「全く、わしの扱いも考えて欲しいものじゃ」
そう言って彼女は俺に剣を投げ渡すと姿を消した。
「これは一体どういう意味だ?」
俺はブラド団長に視線を向けてそういう。
リーリアの背中から血が滴っている。
深くはないが、剣が刺さったのだろうな。
団長の部屋で彼女が怪我を負っているというのは状況が掴めない。
そして、何よりも彼女が死を覚悟してここに向かったことが気がかりだ。ここに向かう直前の目がそう物語っていたのだからな。
「エレイン……まさかここまでの強襲をするとはな」
すると、俺の後ろの扉が慌ただしく叩かれる。
「団長! ご無事ですか!」
「ああ、気にするな」
ブラド団長は外の人に言い聞かせるように大声でそう言った。
「エレイン様?」
「大丈夫か」
「……この程度、心配は要りません」
そういうとリーリアは安心したようにほっと息を吐いた。
そこまで深傷ではないから大丈夫なようだな。
後で適切に治療すれば傷跡が残ることもないだろう。
「それで、団長。これはどういうことだ?」
「言い逃れはせん。俺はお前のメイドを傷付けたのは変わりない」
「どうしてそんなことをしたんだ? リーリアが何か悪いことでもしたのか」
「俺の命令に従わなかっただけだ」
確か、彼女は公正騎士だ。自分の意思で世の中の安定を維持する騎士だ。
一応、聖騎士団のブラド団長の管轄らしいが、別に誰の命令にも従う必要はない存在だったはずだ。
「彼女は誰の命令も聞かぬ立場ではないか。それに罰するとしてもこれはやりすぎではないか」
「そうだな。行き過ぎた行為だった」
どうやらこれ以上は彼女に危害を加えることはしないようだ。
しかし、これ以降の俺と団長との関係は敵対関係となったも同然だ。
「俺の大切な人が傷付けられたのだ。今までの協力関係はもうない」
「……やれ!」
そう言って、団長は後ろの鉄仮面の女性に命令した。
彼女は一瞬躊躇ったものの剣を引き抜いて俺の方へと攻撃を仕掛けてきた。
にしても力のない一撃だな。
俺は彼女の攻撃を簡単に受け止めた。
「殺すつもりなら本気でやれ。その剣には重みが感じられない」
「……」
すると、彼女は一歩下がって凄まじい勢いで斬りかかってきた。
なるほど、本来ならこれほどの実力があるのか。
それにしてもこの感覚はどこか懐かしいものがある。
「止めろ」
俺の一歩手前で団長は攻撃を止めるように命じた。
「悪足掻きだったようだ。俺はもうお前に対して何もしない。そのメイドを治療して帰ってくれ」
「そうしてもらう」
俺はイレイラとアンドレイアを鞘に戻してリーリアを抱き上げる。
「っ! 私は歩けますよ」
彼女は顔を真っ赤にしてそう言った。
「怪我人だ。今は大人しくしてくれ」
「……わかりました」
その後は団長の計らいで何事もなく本部から出ることができ、さらにはリーリアの治療も行ってくれた。
まぁ怪我をさせたのだから当然だろうな。
それにしてもこれからは誰も仲間と思える勢力はいないようだな。
聖騎士団もリーリアを攻撃したことで何を考えているかわからない。
もともと誰かに頼る性分ではないから問題はないだろうが、敵を作るのも良くはないことだ。
組織から孤立してしまった状態で俺はこれからどうなるのだろうな。
こんにちは、結坂有です。
エレインの突破力は凄まじいものですね。
本部の聖騎士団相手でも簡単に襲撃できてしまうようです。
そして、これから聖騎士団とどうなってしまうのでしょうか。気になりますね。
それでは次回もお楽しみに。
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