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平等を求めた計画

 俺、レイは軍司令本部で治療を受けていた。怪我は大したことないのだが、体に回ってしまった毒をなんとかしなければいけなかった。リアーナの能力で人間を超越した肉体を持っているとは言え、魔族の抽出した毒はかなり強力だ。

 歩けることは可能だが、まともに戦えるかと言われれば厳しいだろうな。


「レイさん、これなら大丈夫ですかっ」


 司令本部にいる医師たちが必死に俺の体を蝕んでいる毒をなんとか解毒しようと頑張ってくれている。もちろんだが、この国には聖剣を持った医師なんているわけがなく、魔族の毒を瞬時に治療できるような人はいない。

 カインがいれば一瞬でどうにかしてくれるだろうが、ここにいない人のことを考えても仕方がない。


「知らねぇよ」

「で、では失礼しますっ」


 そういって医師の一人が俺に何かを注射した。

 彼がビビっているのは俺のせいではない。俺の横で無言で立っているリアーナに怯えているからだ。剣を抜き身で持っている上に人間とは思えない邪悪な印象を受ける少女は異質そのものだ。

 普段から精霊や堕精霊と接していない彼らからすれば恐怖を感じるのは当然か。


「……どうでしょうかっ」


 治療を済ませたのか医師は俺から距離を取ってそう聞いてきた。


「よくわからねぇが、さっきよりかはマシだな」


 注射した箇所からゆっくりと痺れのようなものが消えていくのを感じる。完全に消えるというわけでもないらしいが、少しでも楽になるのは治療のおかげとも言えるか。


「も、もう少し時間が立てば解毒剤も効いてくると思いますっ」

「リアーナ、時間がかかるらしいんだが?」

「……ボクに言われてもね。治療系の能力なんて持ってないし?」

「魔族の毒についてなにか知ってたりしねぇのかよ」

「うーん、さっきも言ったと思うけれどボクは何も知らないんだよ。君と一緒でね」


 俺と一緒だなんて言われたくはないが、一心同体となった状態ではある意味同じなのかもしれない。まぁそんなことは置いておいて、今は体が動くかどうかが問題だな。


「とりあえず、体でも動かしてみるか」

「っ!」


 俺がベッドから起き上がると医師の人たちが急に身構え始めた。


「あ? なんだ?」

「な、なんでもありません」


 緊張しているのか知らないが、俺が動くたびに驚かれていては俺も困るというものだ。それにこういったことは俺の経験上、一言声をかけただけでは意味がない。

 そういう人たちだと割り切るしかないか。


「……」


 床へと足を置いてみる。

 しっかりと床の硬い感触が足から伝わってくる。完全に元通りというわけではないが、先ほどよりかはだいぶ良くなっているようだ。

 さっきまでは床に立っているという感覚すらなかったからな。


「はっ、これで問題ねぇっ」

「ひぃ!」

「……」


 少し声が大きかっただろうか。

 それにしても短時間で毒に効果のある薬を用意できたものだな。ここの医師はかなり高いレベルの人たちなのだろうか。少なくとも高い知識や経験を持っているのは確かなようだ。

 これなら聖剣取引をして、魔族と戦えるようになったとしてもうまく治療ができることだろうな。


「その、なんだ。助かった」

「……こ、こちらこそ、貴重な情報でしたのでっ」

「実験台になったってわけか」

「そ、そんなつもりはまったくなくっ。私たちはただただ必死に……」


 医師の人たちが一斉に頭を下げて弁明になっていないセリフを並べる。

 別に俺自身、実験台になったということに怒りは覚えていない。むしろこれから同じように毒を受けた人たちをすぐに治療することができると考えれば別に嫌ともなんとも思わない。


「怒ってねぇから……」

「先生っ、また毒を受けた人がっ!」


 すると、廊下の方から女性の声が聞こえてくる。

 さっそく俺が実験台になった成果が試されるといったところか。


「誰なんだ?」

「リシアって人なんですが、知っていますか?」

「……あの子か。すぐに行くっ」


 そういって医師の一人が廊下を走っていった。

 どうやら彼の知っている人のようだ。まぁ知人を助けたいと思うのは誰でも同じか。

 それにしても、司令本部が混乱に陥っているとばかり考えていたが、指揮系統がしっかりしているのか大きな混乱は起きていないように見える。

 こうして俺がすぐに治療できたのも議会から戻ってきた司令官たちのおかげらしい。そこらへんの派閥争いみたいなのもあるそうなのだが、部外者の俺からすればなんのことだか全くわからない。

 一つ言えることはどこの集団であっても派閥などが存在するということだ。


「リアーナ、施設の中でも警備するか」

「うーん……ま、いっか」


 すると、彼女は俺に持っていた剣を渡すとその中へと姿を消した。

 姿を消す直前に何かを考えていたようだが、それがなんなのかはわからなかった。本当に重要なことなのだとしたらしっかりと話してくれることだろう。今の俺には情報を分析できるほど頭がよくないからな。そういったことはエレインやミリシアの領分だ。

 余計なことを言われるよりかは魔族を倒すといった単純で明快な目的に集中したい。


「ど、どこに行かれるのですか?」

「まぁ司令本部の中を適当に歩くぐらいだ。外の魔族はエレインたちがなんとかしてくれるだろうからな」


 全体としてもそこまで大量の魔族で攻め込んでいると言った印象はなかった。エレインやリーリアたちだけでも対処できることだろう。それにこの国に在中している聖騎士団もいることだ。よほどなことがない限りは失敗に終わることはない。


「こっちだっ!」


 廊下を歩いていると兵士の声が聞こえてくる。

 その声の方へと視線を向けて意識を集中させる。


「具合でも悪いのか?」

「さっきからお腹を抱えてうずくまってるんだ」

「とりあえず、医務室にでも……」


 すると、魔の気配が強まる。


「なっ、体がっ」


 どうやら兵士の一人が魔族化してしまったようだ。腹を抱えてうずくまっていると言っていたことからすでに彼の精神は死んでしまっているのだろう。


「グアァア!」


 まだ人間の面影を残した兵士が俺の視界へと入る。


「……くそっ、仕方ねぇ!」


 こうなってしまった以上は人間として戻ることは不可能。セシルのように十分な適性のない人間が魔の力を手にすれば理性を完全に失い、ただの魔族へと成り果ててしまう。

 つまりは彼に人間という自我も存在していないのだ。


「ルグアアァ!」


 魔族が俺を見つけるなりすぐに襲いかかってくる。

 視線の直線上に俺がいたからだ。左右にいる兵士には目もくれず、彼は俺をしっかりと見据えて突撃してくる。


「れ、レイさんっ!」

「おらぁ!」


 剣を引き抜き、そのまま勢いを殺さずに袈裟斬りをする。

 その強烈な一撃は彼の体を大きく斬り裂き、大量の血液が地面を染める。


「……グブゥ」


 俺の与えた攻撃が致命傷となり、彼の体は力が抜けたようにくずおれる。


「っ! 大丈夫ですかっ」

「……ああ、それよりこいつの名前は?」

「その、ヴィブレイという二等軍曹でして……」

「そうか。しっかりと名前を残しておけ」

「は、はいっ!」


 兵士の一人がそういって敬礼をした。

 どうしてこんなことが起きてしまったのだろうか。理由が全くわからない。司令官の一部が暴走したとか言っていたが、何が目的だったのか理解できないでいた。

 適性のない兵士は理性を失い、人間として死んだも同然。それのどこに彼ら司令官の正義があるというのだろうか。

 ただ一つ考えられるとすれば……


「……こ、こんなはずではっ」


 今は聞けないふざけた司令官の事を考えているとベンチに座って絶望したかのような表情で地面を見つめる兵士がいた。


「なにかあったのか?」


 周りにいる兵士たちと違い、ベンチに座っている彼は今にも発狂しそうなほどに焦燥しきった顔をしていた。

 一体何が彼をそこまで追い詰めているのだろうか。


「……もともと平等にするつもりだったんだ。平等に、平等に……」


 俺の話しかけに答えることもできず、ただただ独り言のようにつぶやき始めた。


「あの薬がすべてを平等にするつもりだったんだよっ!」

「なっ、暴れんな!」


 すると、いきなり兵士が立ち上がり自分の頭を壁に打ち付けようとし始めた。

 俺はとっさに彼を引き止め、近くの兵士へと合図を送る。


「お前っ、なにがあったんだっ」

「あの力は人類の呪縛を開放するはずだったのにっ!」

「何を言って……」

「ああああぁ!」


 強烈な力で俺の拘束から逃れようとする。


「こいつ……なにがあったんですかっ」

「いいから抑えろっ!」


 駆けつけてきた三人の兵士が暴れ始めた男を取り押さえる。


「まさか、魔族ってことは……」

「いや、そいつは大丈夫だ。精神的に追い詰められているみてぇだから牢屋にでも入れておけ」

「……はいっ!」


 俺がそういうと三人の兵士たちは男を抱えて牢屋のある棟へと運んでいった。

 断片的でよくわからなかったが、平等にすると言っていたな。やはりここでも目的は同じだったか。

 魔の力は聖剣と違って誰でも手に入れることができる。精霊に認められない人でもだ。

 そんなものがあるのだとすれば、当然ながらそれにすがるような連中が出てくるの自然なことだ。楽をして力を手に入れる事ができるのだとしたら、誰もがそうするだろう。

 しかし、それには大きな欠点もある。そもそも人間の本質なんてものは平等ではない。肉体的にも精神的にも、さらに言えば遺伝子的にもまったく違う。だから同じ力を手に入れたからと言って、誰しも成功するとは限らない。

 今回で言えば魔の力に飲まれ、人間性を失ってしまうと言ったところだ。

 セシルの場合は適性があったために自らの人間性を保つことができていたが、ほとんどの人間には適性がない。

 当然ながら、魔族化してしまう人も多くなる。


 まぁ計画当初はこうなることが予想できなかったのだろうな。それとも裏で糸を引いているやつが魔族化して理性が失うという情報を伏せていた可能性もあるが。

 どちらにしろ、最悪な計画だということには変わりない。壊滅的な被害ではあったものの、まだ軍としてはまだ機能している。再建できたときには聖剣を扱えるようにしたいところだ。


「クソだな。全く」


 俺はただそうつぶやくしかなかった。

こんにちは、結坂有です。


軍司令本部はなんとか機能を保てているようですが、マリセル共和国議会はどう動くのでしょうか。

魔族がいなくなったとはいえ、まだまだ油断できない状況のようですね。


それでは次回もお楽しみに……



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