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全力を抑えて

 俺、エレインはリーリアとともに大通りを走っていた。

 もちろんだが、この国に出現した魔族を倒すためだ。魔族化が進んでいない人間の場合は魔の気配が感じられないため察知は難しいが、すでに魔族化した者は察知できる。

 ただ、魔の気配を感じ取るには魔族と接触して感覚を覚える必要があるからな。魔族とほとんど接触していない人からすると区別できないだろう。


「エレイン様、かなり強い気配がします」

「そうだな。このあたりも避難は完了しているのか?」

「はい。この場所は住宅地というわけでもございませんので」


 そういえば、この大通りは工業地帯へと向かう道だったな。つまりはそこまで人が密集しているというわけでもないのだろう。それにこの国は最初から計画的に作られたために避難経路はしっかりと整っている。

 古くから歴史のあるエルラトラムとは違い、この国は市民のことをよく考えて計画的に都市設計がなされているのだ。


「市民の安全は第一に考えているということだな」

「そうですね。本当にしっかりしています」


 感心するところではあるが、いつまでも魔族を野放しにしているわけにはいかない。早い段階で魔族を排除しなければ被害が増えていくからな。

 魔族化していない兵士たちとここに駐屯している聖騎士団の一部は市民の警護を担当している。

 そして、俺たちが向かっている最前線では聖騎士団の中でも高い実力を持った人たちが戦っている。ただ、高い実力とはいっても三人で大多数の魔族に囲まれでもすれば苦戦を強いられることになる。


「……この気配、魔族化した兵士以外にも魔族がいるみたいですね」

「魔族化の施術を受けたとされる兵士は多くても数十人と言っていたな」

「はい。ですが、百体ほどの規模のような感じがします」


 確かに通りの奥から感じられる魔の気配はかなり強い。百体近くの魔族がいるのは間違いないだろう。

 それだとしたら魔族化した兵士を率いる存在、つまりは上位種の魔族がいるのだろうか。少なくとも今回の一件に関わっている魔族がいるのは明らかだ。


「なら、急がないとな」

「わかりました」


 それから俺たちは走る速度を上げて大通りを突き進んでいく。

 しばらくすると、剣撃の音が聞こえてくる。


「エレイン様、見てください」

「……魔の力に耐えられなかった兵士たちか」


 魔の力に適性のない兵士に無理やり魔族化を施したことで人間性を保てなくなり、理性を失った魔族とも人間とも言えない存在へと変わり果てていた。体の形も一部がひどく肥大化したりと外見からも人間とは言えない状態へと変貌していた。


「くっ、数が多過ぎるぞっ」

「耐えるんだっ。この国は俺たちにかかってるんだからなっ」


 聖騎士団の三人は魔族化してしまった兵士たちを相手にかなり苦戦している様子だった。それもそのはずで、たった三人で三十体を相手にしているのだから。


「ふっ」


 俺はとっさに駆け出し、聖剣イレイラで変貌してしまった兵士たちを倒していった。もともとはなんの罪もない人間だったと考えると心が痛む。

 しかし、ここで死ぬというのが彼らに課せられた任務なのだ。こればかりは仕方ないと割り切るしかないだろう。

 たった数秒で十数体を斬り裂いた。聖剣イレイラの”追加”という能力を使えばこの程度は造作もない。

 ただ、ここで俺が全力を出して全滅させるにはまだ早い。体が重くなるほどに強い魔の気配はここにいる連中の仕業ではない。他にももっと多くの魔族がいるはずだ。規模がわからない以上、ここで体力を消耗するのは良い判断ではない。


「け、剣聖殿っ」


 俺が急に走り込んできたことで聖騎士団の分隊長が驚く。

 それもそのはずだろう。直前まで気配を隠していたからな。団員だけでなく敵も俺のことに気づかなかった。


「魔族はここにいる連中だけか?」

「……まだ大量の魔族が奥に向かったっ」


 すると、分隊長がそういって通路の奥を指差した。

 大量のと言ったことからここにいる数よりも多い魔族がいるということだろう。おそらくそれが相手の本隊といったところか。


「エレイン様、私も加勢いたします」

「ああ、リーリアは団員と協力してここを頼む。俺は奥に向かった魔族を対処する」

「はいっ。気をつけてください」」


 俺は聖剣イレイラを納めて通路の奥へと走っていく。

 残りの相手はリーリアや聖騎士団に任せても大丈夫だろう。問題は先ほどの倍以上は存在する魔族の本隊だ。

 上位種の魔族もいることを考えると手を抜いている場合ではないか。

 それにしても、魔族の狙いは何なのだろうか。俺はこの国のことをそこまで知らないため、この通路の奥に何があるのかはわからない。


「お兄様っ」


 そんなことを考えているとアイリスが俺の方へと走ってきた。

 俺たちとは別の方向から来た彼女は少しだけ息を切らしていた。服の状態からして魔族と戦っていたらしい。


「アイリス、大丈夫なのか?」

「はい。怪我はしていません」

「息が上がっている用に見えるが?」

「これぐらいは少し激しい訓練程度ですのでご心配は無用です」


 そう言っている彼女だが、本心なのかはまだわからない。痩せ我慢をしている可能性だってあるからな。

 だた、疑ってばかりでは何も進まない。彼女の限界が来るまでは見守ることにするか。


「ここから先には大量の魔族がいるらしい。一緒に来るかは自分で判断してほしい」

「……大量の魔族、ですか。ここに来るまでも魔族と戦ってきました。一緒に付いていきます」


 俺の目を真っ直ぐに見つめる彼女はなにか裏がありそうな予感がしたが、別に悪いことではないように思える。一体何を考えているのかはさておき、俺と一緒に付いてくるようだ。

 彼女の本当の実力がどれほどのものなのかはまだ未知数だ。しばらくは様子を見ながら戦うことになりそうだな。


「わかった。無理そうなら早めに離脱してもいい」

「お兄様一人に任せるわけにはいきません。最後まで一緒に戦います」

「……そうか。自由にするといい」


 妹の接し方というものが何なのかわからず、よそよそしい会話となってしまった。まぁ急に馴れ馴れしくするのも不気味がられることだろう。

 今はこんな接し方を続けるしかないか。


「お兄様」


 すると、そういって彼女は剣を引き抜いた。

 彼女の視線の先を見てみると五体の魔族が俺たちの存在に気づいたようだ。彼らは叫ぶことなく、見つけた俺たちへと真っ先に攻撃を仕掛けてくる。


「魔族化した兵士、ではないようだな」

「そうみたいですね。ここは私に任せてください」


 彼女は大きく一歩踏み出すと、彼女の左目が光り始める。魔剣の力を使ったのだろう。

 そして、足元の影から黒い人の形をした存在が現れる。


「私の能力は”影操”と言い、自らの影を操ることができます」

「なるほど、分身と似たような能力か」

「そうですね。では、お兄様。見ていてくださいっ」


 すると、彼女は地面を蹴り、五体の魔族へと駆け込んでいく。

 彼女の影から出現した人影(じんえい)も同時に走り出す。


「ふっ」


 彼女が五体のうち一体へと剣を走らせる。それと同調するように影の方も剣を走らせた。

 どうやら自分が動けなくなるブラドの分身とは違って、所有者も動くことができるらしい。その点では彼女の能力は汎用性の高いものと言えるだろう。とはいえ、分身とは違って複数体出現させることはできない。自分の影は通常一つしかないからだ。

 機動性や俊敏性に優れるものの、分身のような数の暴力で圧倒することはできないということか。


「はっ」


 一体を斬り裂き、次の敵を倒そうとアイリスが動く。しかし、彼女の影はその動きに同調しない。

 そのことからも自らの動きに同調すること以外にもできるようだ。

 血の契約をしたと言っていたことから彼女の持つ魔剣に宿っている堕精霊は彼女の実力を手に入れている。つまりは独立して戦うこともできるということ。

 なるほど、確かに十分な能力を手に入れたということは事実のようだ。

 彼女が走り出してほんの数秒で五体の魔族が斬り殺された。

 魔剣の能力が強力ということもあるのだが、それをうまく操るアイリスの実力も確かなものだ。


「……お兄様、見ていてくださいましたか?」

「ああ、しっかりと見ていた。よくやったな」

「はいっ」

「だが、魔族はまだいる。先を急ぐか」

「わかりました」


 当然ながら、魔族はさっきの五体だけではない。この通路を進んだ先にまだ多くの魔族が存在しているはずだ。

 俺はアイリスの様子を見ながら通路の先へと走ることにした。

こんにちは、結坂有です。


またしばらく休みが続きましたね……

なるべく投稿頻度が安定するよう頑張ります


エレインとアイリスが合流できました。

彼女の実力の片鱗を見たエレインはこれからどういった関係性を築いていくのでしょうか。

今後の展開が楽しみですね。


それでは次回もお楽しみに……



評価やブクマもしてくれると嬉しいです。

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