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状況は大きく変わる

 私、アイリスはレイと一緒に軍司令本部へと向かった。理由としては軍の上層の人間が魔族に変貌してしまったということがあったからだ。軍の上層部があのように魔族化しては軍の体制は今崩壊に向かっていることだろう。

 こんな状態になっているのに軍が崩壊してしまってはこの国を維持することは不可能だ。

 せめて軍司令本部だけでも守っておきたいところだ。

 少なくとも司令系統さえ守ればなんとかなるだろう。それにデェイブルも私たちの自由行動についてはある程度容認してくれているようだ。議会としてもこの事態を収集するためになにか動いているだろうが、私たちがなにかしたところでその計画が崩れることはないらしい。

 彼の言葉をすべて鵜呑みにするというわけではないとはいえ、私たちにできることはやらなければいけない。いくら議会といっても魔族と戦える聖剣を持っていない。魔族と戦えるのは聖剣や魔剣を持っている数少ない人だけだ。


「……誰かに見られている気がするな」


 司令本部の手前でレイがそう言って立ち止まった。

 私は特に何も感じなかったが、彼がなにかの気配を感じたというのは事実なのだろう。


「方角はわかりますか?」

「後ろの方から……」


 私は左目に集中して影の世界を見ることにした。その直後、私たちに急激に接近している棒状の影が迫ってくるのが見えた。


「っ!」

「……うぐっ」


 ドスッと言う音とともにレイが膝をついた。

 彼の背中には矢が刺さっている。


「クソがっ!」


 そういった彼は剣を引き抜き立ち上がる。

 しかし、足が震えまたしゃがみこんでしまう。


「……大丈夫ですか?」

「あいつら、毒矢を撃ってきやがったなっ」


 傷は深くないものの、激痛が走っているのか彼の額から汗が吹き出ている。神経毒に近いものが撃ち込まれたのだろうか。

 私は再度左目に集中して周囲を確認する。ただ、先ほどの妙な気配や飛翔してくる影は見えない。


「ゆっくりで大丈夫ですので、立てますか?」

「……それより、相手はどこだ」

「私の視界には映っていません。司令本部は近いので急ぎましょう」


 私がそう言うとレイは剣を地面に突き立てる。

 すると、そこから一人の少女が姿を現した。


「ボクが運べばいいだね?」

「あいつら本気で撃ち込んできやがってっ」

「アイリス、だったね。レイは僕が運んでおくから矢を撃った連中を倒してきてくれるかな?」


 彼女は背が小さく、とてもじゃないが体の大きいレイを運べるようには思えなかった。とはいえ、彼女は魔剣の中から出てきた。おそらくは彼と血の契約を交わしているのだろう。

 それなら彼女を信頼しても大丈夫なはずだ。


「わかりました。相手のことは私に任せてください」

「……だけど、気をつけてね。ボクの見立てが正しければ相手は魔族、それでいて知能もある程度はあると思う」

「知能がある、ですか」

「あと、嫌な予感もするんだよね。ま、頑張って」

「はい。頑張ってみます」


 彼女の言う嫌な予感というものが何なのかはよくわからないが、それでも対峙してみないと相手の実力はわからない。

 ただ、彼女の一瞬見せた不穏な顔色は事態の深刻さを物語っていた。


「よっと……それじゃ」


 すると、彼女は片腕でレイを担ぎ上げるともう片方の手を振って軍司令本部の方へと走っていった。いや、駆け抜けていったというべきか。

 とりあえず、私がやらなければいけないことは矢を撃ってきた相手を倒すことだ。

 レイの口ぶりからも複数いる可能性は非常に高いが、それでも誰かがやらないといけない。

 私は駆け抜けていった彼女とは反対の方向へと走ることにした。


 矢の角度から飛んできた方向はわかるのだが、正確な距離まではわかっていない。それなりに距離のある場所から撃ってきたのは間違いない。なぜなら私の視界にも影の世界を通じて見てみても撃った相手の姿を見ることはできなかった。

 もちろん、撃ってからすぐに姿を隠したということもあるだろうが、影の痕跡を全く残さないで逃げることなどできるのだろうか。

 とりあえずはこの方角に……


「っ!」


 背後から風切り音が聞こえ、瞬時に振り向く。すると、どこからか矢が飛んできていた。

 体を回転させ、矢を回避する。

 カチャンと音を立てて、地面に矢が転がる。矢尻には粘性のある液体がついており、それがレイの体を蝕んだ毒であることはすぐに理解した。


「……」


 私は左目に意識を集中させ、影の世界を覗き込んで見る。

 そうして見てみると一瞬だけ相手の黒い影が動くのを見ることができた。それにしてもここからだとかなりの距離がある。それに矢が飛んできた方向とは違う場所だ。


「追いかけるしかないみたいですね」


 疑問を感じつつも私はその影を追いかけることにした。

 そして、しばらく走っていくと人が倒れていた。その人は私がよく知っている人だった。


「リシアっ」

「……うぅ、アイリス?」

「なにがあったのですか」


 私は周囲を警戒しながら彼女に近寄ってみる。腹部には切り傷があり、致命傷となるような傷ではない。しかし、彼女の顔の表情からは激痛が走っているのだろう。

 もしかすると、先ほどの矢尻に塗られていた毒が体内に入ってしまったのかもしれない。


「……軍の上層部はすでに崩壊してるわ」


 毒がまわって全身が痺れているのにも関わらず彼女は上体を起こして私にそういった。


「無理しなくて大丈夫です」

「でも、私たちが動かないと……」

「リシアたちは聖剣も持っていないのですよ。魔族相手に何ができるというのですか」

「それでも、この国のために戦わないといけないの。そうでしょ?」


 彼女はそう真っ直ぐな目で私に言った。

 彼女も、他のシンシアやコミーナもこの国のために戦うと誓った。だから何があっても自分は戦うという決意を持っている。

 私は何を決意すればいいのだろうか。

 今はそんなことを考えている場合ではない。


「っ!」

「とりあえず、安全な場所に運びます。少し我慢してください」


 私は彼女を背後から抱き起こして近くの建物へと連れて行くことにした。


「……ごめん、ありがとう」

「まだ傷は痛みますか」

「傷は浅いわ。だけど、毒が塗られていたみたいで」

「そうですか」


 出血量もそこまで多いというわけではない。それでも体が動かせないほどの激痛が走っているのは毒のせいだろう。

 命に別条はないとは言え、苦痛を耐え続けなければいけない。


「アイリス、相手は魔族よ。毒を使ってくる魔族、シンシアたちもその魔族を倒しに走っていったわ」

「私も矢を撃たれました。回避しましたが、矢尻には毒が塗られていたみたいでした」

「他にもいるの?」

「同じ魔族なのかどうかはわかりませんが、私も戦います」

「待って」


 すると、彼女は私の裾を掴んて立ち上がるのを止めた。


「相手の魔族は非常に手強いの。アイリスは剣聖を呼んできてほしいのよ」

「どういうことですか?」

「今の私たちには聖剣がないから」

「ベジルは持っていたと思いますが……」

「彼は別の魔族を追っていったの。だから、他の人を呼んできてほしい」


 ベジルはシンシアたちを置いて別の魔族を追いかけたらしい。

 なら、シンシアたちはどうしてこんなところで戦っているのだろうか。状況が掴めないままだが、何もしないのも問題だ。


「腰に携えているのは魔剣です。私は魔族と戦うことができます」

「……でも」

「大切な仲間が攻撃されているのです。助けるのは当然ことです」

「……」


 すると、リシアは俯いて少しだけ考えた。

 彼女はゆっくりと顔を上げて私の目を真っ直ぐに見つめながら口を開いた。


「絶対に生きて戻ってきてね」

「わかりました。生きて戻ってきます」


 そう私が言うと彼女は掴んでいた裾を手放した。


「……シンシアたちは向こうの道を真っ直ぐ走っていったわ」

「あの道は、東の公園がある場所ですね」

「ええ、気をつけてね」


 私は「はい」とだけ言って走り出した。

 矢を撃ってきた魔族とリシアをナイフのようなもので傷付けた魔族が同じなのかはわからない。もしかすると別の魔族だという可能性もある。

 ただ、考えてばかりでは何も解決はしない。

 今は何も考えず、成り行きに身を任せるしかないだろう。予想外なことが次々に起こっているのだ。作戦などを考えている場合ではない。

こんにちは、結坂有です。


次回から激しい戦闘シーンが続いていきます。

アイリスは本当の自分と向き合うことができるのでしょうか。

そして、エレインは今どこにいるのでしょうか。


それでは次回もお楽しみに……



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