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沈黙の議会

 それから私たちは市場から離れることにした。しばらくは宿に戻れそうにないだろう。それにエレインたちもまだ戻ってくる様子はない。


「アイリス、さっきの攻撃は外れてたのか?」

「いえ、あの程度の攻撃でしたら避けることは可能ですから」

「……まぁそうか」


 レイは頭を掻きながらそういった。

 当然ながら私はあの程度の攻撃なら何度でも避けることができる。特別反射神経がいいというわけでもなく、単にできるように訓練させられたと言うだけのこと。

 だが、思い返してみれば多くの訓練生が途中で失敗していたところをみると案外難しい技術なのかもしれない。


「……それより、ここはどこなんだ?」


 市場から逃げるようにして離れた私たちは先ほどいたところから随分と遠い場所へとたどり着ていた。もちろんだが、私はこの場所がどこなのかは理解している。


「ここは軍の司令本部でも、支部でもない場所です。今は廃墟となってしまっていますが、私の育った場所です」


 そう、ここは司令本部から一番遠い場所にあるとある施設で数年以内には取り壊される予定だ。

 当然ながら、ここを管理する人は誰もおらず訓練に使っていたグランドも雑草が生え始めている。


「アイリスが育った場所?」

「はい。私は物心がつく前からこの場所で訓練を受けていました」

「ここがか? 俺らの場合は地下だったのだがな」

「地下もありますが、今は封鎖されてしまっています」


 地下に向かう唯一の通路は厳重に鍵がかけられ、封鎖されてしまっている。破壊することは可能かもしれないが、施設を完全な状態で残すには鍵を使って開ける方がいいだろう。

 それにその地下に向かう鍵はファデリードが亡くなって以降、議会が預かっているらしい。まだなにも言っていない議会は何を考えているのだろうか。


「廃墟ってのに……誰か人がいるんじゃねぇか?」

「人ですか?」


 レイが周囲を見渡しながら私にそういった。

 すでに廃墟となり、取り壊しの決定した施設だ。今更誰がここに来るというのだろうか。


「……そこにいるのは、アイリスか」


 そう言って施設の中から出てきたのは議会の制服を着た中年の男性であった。私の名前を呼んでいるものの、私は彼のことを何も知らない。いや、私が知らないだけなのだろうか。


「私のことを知っているのですか?」

「ファデリードから聞いていたよ。まさかこんな美しい女性になっているとは思っていなかったがね」

「……」

「私は議会の作戦執行役デェイブル。この施設で訓練していたときの君を知っていてね」


 私が訓練や試験を受けているときに何人かの研究員と軍関係者らしき人たちに見られていた事は知っている。それは私以外でもそうだ。

 シンシアもコミーナも同じく色んな人に見られていた。

 つまりはその時に彼もいたのだろう。

 それにファデリードが実行したこの特殊訓練は議会の援助もあったと言っていた。


「議会の人間、なのですね」

「そうだよ。まぁ本来なら沈黙を貫く主義なんだけどね。今回ばかりは黙っていられない事情があってね」

「なんだか知らねぇがよ。人を呼び出しておいて自分は姿を出さねぇのは失礼じゃねぇか?」


 そう言えば、剣聖一行を呼び出したのは軍と議会だ。軍は訓練施設などを案内していたが、議会はなにもしていない。していたことと言えば宿の手配ぐらいだ。


「その件については謝罪するよ。だけど、こちらにも事情というものがあってね」

「事情とはなんですか?」


 私はそうデェイブルに聞いてみることにした。

 軍の暴走のことは先ほど市場で私たちも確認したところだ。まさかとは思うが、あのような魔族が軍の内部、それも上層部に存在していた事自体が異常事態なのだから。


「以前から軍の上層部が分裂していることは知っていたんだよ。でも、よくある権力闘争ではないかと思って無視していた。それが失敗だったみたいでね」

「……つまりは軍の動きはすでに議会は知っている、ということですか」

「詳細な情報はもちろん知らないよ。人間の魔族化の研究をしているぐらいで」

「人間の魔族化は踏み入れてはいけねぇ領域だ。それを容認してるってのか?」


 すると、私の横からレイが飛び出して彼にそう問い詰める。

 私はその人間の魔族化がどれほど危険なものなのかは全く知らない。だが、直感でとても危険なことをしているということだけはわかる。

 それに、レイの口ぶりからして彼はその危険性についてよく知っていると見れる。


「この国では議会と軍はそれぞれ独立した組織、議会の言うことを素直に聞くようなものでもないんだ」

「ですが、ファデリード司令は議会と協力していました」

「それは目的が同じだったから。同じ考え同士は協力するのが当然だよね」


 聖剣の取引を成功させたいと考えていたのはファデリードだけではなくマリセル共和国議会も同じだったということ、同志だったと言うことのようだ。


「今回の件は第三者のお前らでも容認できねぇってことか?」

「まぁそういうことになるね」


 ため息交じりにデェイブルはそういった。その様子からして議会の人たちも頭を悩ませているらしい。

 それにしても人間の魔族化とは具体的にどのようなことをするのだろうか。

 そのこともレイやエレインから詳しく聞くことにしよう。今はそのことよりも議会の動向が気になるところだ。


「議会としては今回の件、どのように収拾をするつもりなのですか?」

「簡単に言えば、議会が軍を吸収するといった計画を考えているよ」

「……可能なのですか?」

「まぁね。腐りきった上層部をどうにかして崩壊させて行くしかないけれどね」


 どうやら議会としてもある程度作戦を考えているということのようだ。そう言えば先ほどデェイブルは自分のことを作戦執行役と言っていた。そのような彼がこのようにして動いているということはすでに何かを起こしていることになる。

 その点についてはあまり深く干渉しない方がいいのかもしれない。


「そこまで心配する必要もないよ」


 私がそう考えているとデェイブルが話しかけてきた。


「どうしてですか?」

「君のことだ。性格特性上、我々の活動に干渉しないようにと考えているのだろうね。でも、気にしなくていい。君は君の考えた通りに動けばいいんだよ」


 訓練時代に大量の情報を私から収集していたために彼は私の性格のことをよく知っているらしい。育てた側にいた人間なのだ。それぐらいは読まれて当然といったところか。


「……では、私は自由に行動させてもらいます」

「ええ、ですが、剣聖一行。君たちは無茶をしないでほしい」

「あ?」

「我々からしても君たちの実力はあまりにも未知数。あまり思い切ったことをされると逆に困るんだよ」


 すると、レイは呆れたように口を開いた。


「少なくともこの国は俺たちの国じゃねぇ。他国の事情に深入りするようなバカじゃねぇよ」

「それは……」

「だけど、協力はするぜ。魔族を殺してぇんならな」


 そうレイがいうとデェイブルは優しく微笑む。


「よろしく頼むよ」

「はっ、魔族化した連中のことは任せろ」


 そういったレイはどこか頼もしいと感じた。

 私にはできないようなことを平気で実行する。恐れ知らずとも見れるその姿に私は心のなかで無自覚に感心していたのだろう。

こんにちは、結坂有です。


夕方の更新ですが、明日は朝七時ごろに更新できると思います。

次回からは少し激しめの戦闘シーンが始まります。

マリセル共和国議会と軍、そして魔族化した人間。これからどのような展開になっていくのでしょうか。


それでは次回もお楽しみに……



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