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特殊な体制の軍隊

 俺、エレインは宿から出て軍司令本部へと向かっていた。

 向かう理由としては宿にいるときに聞こえた異音だ。俺の横にはリーリアも歩いている。ただ、レイは付いてきていない。彼にはアイリスを任せることにしている。


「エレイン様、先ほどの音はやはり……」

「明らかに爆発的な何かが起きたのだろうな」


 司令本部から宿までは歩いて行ける距離ではあるが、それでもあれ程にはっきり何かが崩れるような音が聞こえるのは不自然だ。

 前に訪れた時、銃器を持った兵士がいなかった。それにそもそも訓練場のような設備はなかった。あれ程の音が鳴ること自体不自然なのだ。それにアンドレイアとクロノスが魔の気配を感じたというのも何か原因があるのかもしれない。


「まさか、魔族が国に侵入して軍司令部を攻撃した、ということでしょうか」

「いや、その可能性は低いだろうな。この国にためにはあの大きな門をくぐるしかない。その門は聖騎士団と兵士で厳重に警備されている」


 この国に魔の気配を隠したまま侵入するのはかなり困難だ。

 考えられる中で可能性が一番高いのは司令本部にもともと魔族がいたのだろうか。とりあえず、現地に向かう以外に真相を知る他ない。


「……それにしても急に事件が起きましたね」

「そうだな。このまま何もなければ明日にでも共和国議会に顔を出そうとも考えていたのだがな」

「ですが、私たちから行動を起こす必要はなかったみたいですね」


 それに関して言えばよかったのかもしれないが、普通にこの国を視察して、普通に本国のエルラトラムに戻る。本来ならそれが望ましいのだがな。

 他国の事情にあまり干渉したくないものだが、こうして巻き込まれてしまった以上はもう割り切るしかないか。


「エレイン様、本部が見えてきました」


 道を曲がると奥に司令本部の建物が見えてきた。いくつかの建物が並んでおり、それぞれに役割があるのだそうだ。司令本部直轄部隊の兵舎だけでなく対魔族戦略研究棟なる施設もあるようだ。

 どのようなことを行っているのかは知らないが、名前から察するに魔族との戦いに関しての研究をしているのだろう。


「なにか慌ただしい様子だがな」

「そうですね。警戒態勢とでも言ったところでしょうか」

「何が起きたのかはとりあえず行ってみるしかないか」

「はい」


 それから俺たちは司令本部の警備の人に話しかけることにした。


「け、剣聖様っ」


 俺を見るなり畏まった彼はマリセル共和国式に敬礼をした。

 以前来たときとは違う人のようで俺を見るのは初めてのようだ。まぁ軍の兵士なのだとしたらそういった反応をするのは当然と言えるか。


「……ところで、司令本部でなにかあったのでしょうか?」


 そんな彼に鋭い視線を向けてそうリーリアが問いかける。

 そのような目では向こうも話しにくいだろうが、警戒するに越したことはない。


「っ! その、外部には話さないようにと言われまして……」


 まぁ普通はそう指示されることだろうな。


「私たちがここに来た目的はわかっていますよね?」

「はいっ、聖剣取引に関しての調査だと聞いております」

「でしたら、ここで私たちに隠し事をするのは聖剣取引の契約に影響が出ることもあります。それでもよろしいのでしょうか?」


 威圧的な視線を向けてリーリアは彼にそういった。

 別に隠し事をしたからと言って契約自体に不利が生じることはないだろう。よほどなことを隠していない限りはな。

 しかし、彼女の口ぶりはあたかもこの事件が契約に影響ができるかもしれないと半分脅しのような言い方で彼に問いかけた。

 確かに軍の中でもそこまで地位の高い人ではない彼にとっては効果的ではある。だが、少しやり過ぎな気もする。


「……っ! その、確認してきますので少しお待ちしていただけないでしょうか」

「今、ここで通してください。私たちも時間がありませんので」


 逃げる隙を与えない彼女の追及に目の前の警備は完全に萎縮してしまっている。

 上からの命令に従うか、ここで剣聖を通すべきか。彼にとっては非常に難しい決断を強いられていることだろう。

 すると、一人の男がこちらに歩いてきた。


「何をしている」

「はっ、ジディール司令っ」


 どうやらこちらに歩いてきた男は上層部の人間の一人なのだろうが、俺の知らない顔だ。以前ここに来たときはいなかったようだ。


「……司令本部でなにかあったのでしょうか?」


 やってきたジディールにリーリアはそう問いかけた。

 彼は目が悪いのか目を細めると俺たちの顔を確認すると、すぐに強張った表情を崩した。


「剣聖御一行ですか。本来なら外部にお話することではないのですが、部隊の反逆行為があったものでして」

「反逆行為、ですか」

「私も本部に戻ってきたばかりでよくは知りませんが、あそこの研究棟で事件があったそうです」


 そう言ってジディールは施設の奥を指差した。

 彼の言うようにその建物の周囲には多数の兵士たちが集まっている。何かがあッタというのはどうやら本当のようだ。

 しかし、具体的なことまではジディールは知らないようで、それ以上はなにも言わなかった。


「私たちがここに入ることはできますか?」

「……私も上層の人間ではありますが、議会にしばらくいた身ですので今はどうすることもできません」


 そう素直に自分の権限では難しいと認めた彼はとても申し訳なさそうにしていた。

 だが、事件の内容を聞く限りでは俺たちが深く関与するほどのことでもないような気がするがな。反逆行為があったというだけでそんなことはどこの国でも有り得る話だ。それ自体で聖剣取引に不利になることはない。

 流石にこれ以上は厳しいか。


「そうですか。一つだけ確認なのですが、魔族を匿っているといったことはありませんか?」

「魔族を匿う、ですか?」

「はい。研究の目的かなにかでそのようなことをしているのかと思っただけです」


 そうリーリアが問いかけるとジディールは深く考え込んだ。

 まさか本当に匿っているとでも言うのだろうか。

 すると、彼は重々しく口を開いた。


「私の知らないところで一部の司令官が何かを企んでいるということだけは確かなようですね。ただ、私の耳に入っていないだけで……」

「ジディール司令はどういった立場なのですか?」

「まぁはみ出しものみたいな存在ですかね。ここの軍上層部は他の国とは違う体制なのです。上層部だけでも大きく二つの派閥に別れているのですよ」

「それでは統率が取れないのではないでしょうか?」


 リーリアの質問にジディールは少し考えてから説明を始めた。

 その様子からあまり外部の人間には話したくないないようなのかもしれない。


「……司令官になると自分の部隊が与えられます。その部隊の規模に大小はありますが、司令官一人で一つの小さな軍隊だと思ってください。ですので、統率は取れていますよ」

「それぞれの司令官がそれぞれの軍隊を統率している、ということですか」

「まぁそうなりますね」


 つまりは司令官の裁量で自由に軍隊を利用できるらしい。その中でも派閥があるらしく、二つの派閥は情報が共有されていないのだろう。

 そして、俺に脅しを仕掛けてきた司令官たちは手を組んでその司令官という特別な権力を乱用していると見ていいだろう。目の前にいるジディールという司令官は他の部隊に関しては本当に何も知らないらしい。


「それでしたら……」


 そうリーリアが話しかけた途端、グジャリと肉は弾けるような音が響いた。

こんにちは、結坂有です。


次回から激しい戦闘シーンが始まります。

これからの展開はどのようになるのか、気になりますね。

ところで、この国では軍の司令官はとてつもなく高い権力を持っているようです。

一人に強い権力を与えるとどうなるのか、もう言うまでもありませんね。


それでは次回もお楽しみに……



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