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苦痛の果てにあるもの

 目を覚ますと真っ白な空間に一人、私が立っていた。

 周りを見渡してみても私以外誰一人としていない。先ほどまで私は宿の部屋にいた。記憶違いというわけでもないだろう。

 そう、なぜならこの空間がこの世のものとは思えないからだ。

 真っ白な空間は訓練のときにもあった。しかし、影一つない空間というのはあまりにも非現実的だ。


「……意識が戻ったみたいだねぇ」


 すると、どこか聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 その声は確か私の魔剣に宿っている堕精霊シェラだ。まだ私には精霊と堕精霊の違いがわかっていない。だが、そのことはどうでもいいことだ。


「ここは一体どこですか?」

「えっとぉ、それよりぃ うちのことはわかっているのかなぁ?」

「ええ、精霊のシェラですよね」

「おっ、当たりぃ」


 彼女のその反応からして部屋での記憶は夢ではない。むしろ現実だった。わかっていたことだ。


「ところで……」

「まぁ精神世界ってところだねぇ。夢の中みたいな」


 どうやらここは現実の世界ではなく、思っていた通りの非現実な世界のようだ。

 なぜこんなところに私はいるのだろうか。


「あ、自意識は戻ったってだけでまだ体は動かないんだよぉ」


 あの試練で負ったショックで体は動かないらしい。よくよく考えてみればあれほどの痛みは普通の人間が耐えられるわけがない。いや、まともに脳が処理できるようなものではないだろう。


「それで、どうかなぁ」

「なにが、ですか?」

「左目のことだよぉ」


 目には見えていないが、興味深そうに私を見つめている様子が脳裏に浮かぶ。

 思い返してみれば強烈な痛みを感じたのは左目だった。


「今のところ痛みはありません。実際の体はどうなっているのか知りませんけれど」

「そ、痛みがないならもういけるよね。左目、集中してみて。うーん、睨みつけるみたいに」


 そう彼女が言っている。

 左目を集中するとは一体何のことだろう。

 とりあえず、彼女の言ったようにやってみることにした。


「……」


 私は左目へと集中する。血液が集まっているのか熱がこもりはじめる。そして、目を開けてみるとそこには一人の少女が立っていた。


「あなたは……」

「うち? シェラだよぉ。見覚え、あるでしょ?」


 目の前に立っていたのはそう、あの部屋でみた禍々しく赤い目をした少女シェラだ。


「この目は一体何ですか?」

「そのまま集中を切らさないでねぇ。えっと、簡単に言うと影の世界を操る目っていったらいいかなぁ」

「影の世界を操る、ですか」

「そ、うちの能力ってね。”影操(えいそう)”っていってその名の通り影を操るの」


 彼女の、精霊シェラの能力はどうやら影を操る能力のようだ。それだけ聞くとよくわからない。

 もっと詳しく知りたい。この魔剣を手に入れたということはこれから一生彼女と付き合っていくことになる。


「具体的には何ができるのでしょうか」

「ふふっ、興味あるよね。何ができるのかっていうと自分の影を操れるってことだよぉ」

「影を操ってどうするのですか?」

「この世界はねぇ。二つの世界があるんだよ。光と影のね。つまり、一つなのに二つあるんだよぉ」


 光と影があり、その二つの世界が一つになっている。

 そして、彼女の能力を使えば、影を操ることができる。つまり、影というもう一つの自分を操ることができるということらしい。


「それで、相手の影も操ることはできないけれど、感じ取ることができる。うちの感覚を通してねぇ」

「感覚を通すのですか」

「うん。リーリアって人いたでしょ? その人も魔剣と感覚を共有してるのよ」


 彼女に関してはまだよくわかっていないところがある。しかし、彼女から感じた人間ではない違和感のようなものはおそらくそれが要因の一つなのかもしれない。

 彼女の目は私の心を見通しているかのようだった。


「そうなのですね」

「ちなみに、ここまでうちの試練に耐えた人は今まで誰一人としていないよぉ」

「……それはよいことですか?」

「いいも何も、すごいってことだと思うけどなぁ。だって今までで何百人と接してきたんだもん」


 つまりはその何百人のうちの一人ということだろう。

 それがすごいことなのかはまだわからないが、褒められているということらしい。素直にその言葉を受け止めることにしよう。

 すると、目の前の少女が背筋を伸ばして思いついたかのように口を開いた。


「あ、そろそろ起きたほうがいいかもね」

「どういうことですか?」

「さっき言ってたリーリアって人が戻ってきたみたい」

「帰ってきたのですか」


 シェラと話している間にどうやら部屋にリーリアが戻ってきたようだ。つまりはエレインたちも戻ってきているということ。


「じゃ、またねぇ」


 いつまでもおっとりした彼女は手を振った。

 すると、視界が徐々に薄れていき、次第に真っ白になっていった。


   ◆◆◆


 しばらくすると、体が揺れているのを感じる。そして、少し遅れて声が聞こえてきた。


「アイリスさん、大丈夫ですか?」


 この声はリーリアの声だ。

 私は閉じているまぶたを開く。

 目を開くと心配そうに私の顔を覗き込んでいるリーリアが目の前にいた。


「アイリスさん、何があったのですか?」

「私は……」


 体を動かそうとするが、まだ試練のときの痛みが残っているのか少し痛む。


「無理はしなくて構いません。ゆっくり話してくれますか?」

「……魔剣の、試練を受けたのです」

「ここで、ですか?」

「はい」


 すると、彼女は転がっていた私の魔剣へと視線を向けた。

 いつのまにか落としていたようで、少し離れた場所に落ちていた。


「そうですか。疲れていることでしょう。こちらに……」


 そう言って彼女は起き上がった私を肩で支えて、そのままベッドへと連れて行ってくれた。

 そこまでの介抱は必要ないのだが、善意は受け取るべきだろう。それに痛みがあるのは確かだ。


「……ありがとうございます」

「気にすることではありません。今は大丈夫なのですか?」

「はい。痛みもなくなってきていますから」

「痛み、ですか。つまりは血の契約を行ったということですね。無事に突破したのでしょうか」

「かなりギリギリだったみたいですが、大丈夫でした」


 すると、彼女はほっと胸を撫で下ろした。

 彼女の口ぶりから察するに、その試練を一回受けるというのはとてもリスクのあることなのだろうか。


「厳しい試練なのですか?」

「もちろんです。血の契約は非常に恐ろしい契約です。下手をすれば死ぬことだってあります。死は避けられても血の契約に二度目はございません」

「そうなのですか」

「ですが、無事に成功したのでしたら問題ありません。今日はゆっくりと休んでください」


 時間を見てみると夜の八時を過ぎていた。寝るには早いが、体を回復させるには眠るのが一番だ。

 思い返してみれば、あのとき迷わずに試練を受けたのは正解だった。死ぬような思いをしたのは確かだが、それ以上に有益な能力や情報を手にすることができたのだ。

 しばらく休憩したら痛みもなくなることだろう。その時はエレインにもう一度話してみることにしよう。

 彼もきっと私のことを認めてくれるはず。ここまでの能力を手にしたのだ。あとは自身の実力を発揮するだけ、ただそれだけなのだから。

こんにちは、結坂有です。


無事にアイリスは魔剣の能力を手に入れることができたみたいですね。

影操、非常に強そうな能力ですが、実戦でどのように効果を発揮するのでしょうか。気になりますね。


ちょうどこの章も折り返し地点となりましたので、次回は久しぶりの休憩回となります。

いったいどんな話になるでしょう……


それでは次回もお楽しみに……



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