強さの裏側
俺、ベジルは魔族と戦っている。六体の魔族を倒し、それからも魔族の数が増えてきた。
しかし、そんなことは大した問題ではない。なにせ俺にとってこの魔族は雑魚同然だからな。それにこの魔族らは俺が拠点を攻撃したときにいたやつと同じだ。
戦いなれた相手ならそこまで恐れる必要はない。
「ふっ」
俺が一気に剣を振り上げると魔族の体が二つに斬り裂かれていく。すでに俺の魔剣の刀身は深紅に染まっている。
魔族の血を手に入れたこの魔剣にもはや斬れないものはない。
続いて一体、また一体と確実に魔族を斬り伏せていく。ここまで斬撃の能力が強化されればこの戦いも作業とかしている。
魔族が俺の攻撃を防ごうと棍棒を構えるが、そんなものはなんの意味もない。硬い木だろうとなんだろうとこの魔剣の前では紙でできた棒と同じだ。
「ギャグアアァァ」
悲鳴とも言えない奇怪な声をあげる魔族。
そいつの両腕は半分に斬られている。続いて、俺はそいつの腹部を瞬時に斬り裂く。
別に俺は意図的に苦しめて殺そうと思っていない。ただ、俺の戦い方の問題だ。相手の攻撃能力を一つ一つ強引に潰していき、最後にとどめを刺すこの戦い方は嫌でも苦しいだろうからな。
「……」
そんな俺の戦いを少し離れた場所から見ているシンシアとコミーナは少し引いているようにも感じた。
まぁそのような目で見られるのは訓練をしていたときに何度もあったことだ。慣れないものではあるかもしれないが、子どもの頃からずっとそのような環境で育ったものだからな。今はもう慣れた。
「最後の一体」
そう言ってから俺はさっと振り返り、背後から攻撃してくる最後の魔族へと地面を蹴って突撃していく。
当然ながら、疾走する俺に動揺したのか魔族の動きが一瞬だけ硬直する。俺はその隙を狙って斬り込んでいく。
訓練評価として神速とまで言われたこの斬撃は魔族の四肢をほぼ同時に斬り落とし、刃を首へと向ける。
「はぁっ」
勢いよく俺は刀を振り下ろした。そして、少し遅れて魔族の首が地面へと溢れるように落ちた。
「……シンシアっ。後ろにっ」
「くっ」
その声に俺は先ほどの彼女らの方へと視線を向ける。
そこにいたのはゴースト型の魔族だ。戦いの最後まで気配を隠していたというのだろうか。どちらでもいい。今は彼女らを助けることに集中するか。
完全に背後を取られたシンシアはコミーナの声で瞬時に反応するが、それでも攻撃を防ぐには遅いように見える。
ガキィン
俺の予想とは裏腹にシンシアは体を器用に撚ることで直撃の時間を稼ぎ、持っていた剣を滑り込ませるようにして魔族の攻撃を防いだ。
しかし、それでも無理な態勢だったために彼女は踏ん張ることができずそのまま吹き飛ばされる。
「ゔぐっ!」
足を捻ったのか地面に膝をつく彼女をかばうように俺が前に立つ。
「なっ」
「よく防いだな。だが、油断はするなよ」
「……ええ、わかってるわ」
俺は再度構え直して、そのゴースト型の魔族へと攻撃を仕掛けることにした。
このタイプの魔族は強力な攻撃をしてくる代わりに防御力が低い。相手の弱点となる核を斬ることさえできれば瞬殺することができる。
まぁそれも聖剣や魔剣がなければ無理なんだがな。
「ふっ」
魔族の攻撃を避けるとすぐに俺はその核を半分にした。
すると、目の前にいた魔族は実体を維持することができずに消えていった。
「……シンシア、大丈夫っ」
「少し足を捻っただけ、大丈夫よ」
「はっ、それにしてもあの態勢でよく耐えたな」
そう俺は彼女らに話しかけるが、まだ俺のことを警戒しているのかすぐに返事が返ってくることはなかった。
そして、しばらくの沈黙の後、コミーナが口を開いた。
「あの、私たちのことはどう思っているの?」
「どう思ってるって?」
「……敵、だとは思っていないのかしら? 最初のときは攻撃してきたから」
どうやら彼女らは最初に出会ったときのことをまだ引き摺っているようだ。
別に俺は彼女に対して敵意を向けたわけではない。指令書に書かれたファデリードに敵意があったわけだ。俺は彼のことが嫌いだからな。
「お前らのことが気に食わねぇならあのときに殺してた。聖剣もねぇお前らを殺すのは簡単だからな」
「どういうことなの?」
「ファデリードってやつが気に食わなかった、それだけだ。今はお前らのことを敵だとは思っていない。安心しろ」
「……どうやら本心から言っているようね」
コミーナが鋭い視線で俺を見つめてくる。俺の表情、仕草から真意を探ろうとしている。しかし、俺は自分の心に嘘をついているわけではない。
「まぁお前らが俺のことを敵対視するのだとしたら、話は別だがな」
「いいえ、そんなことはしないわ。疑ってごめんなさい」
そう小さく頭を下げるコミーナ、それに続いてシンシアも頭を下げる。
どうやら今回の任務が始まる前から俺に対してそこまで信頼がなかったのだろうな。まぁあのような出来事があった後だ。警戒するのも当然と言える。俺も彼女と同じ立場だとしたら同じように疑った。
「それで、目当ての情報は手に入れたのか?」
「……ええ、魔族がどのような存在でどのような力を持っているのかわかったわ」
「はっ、見りゃわかるだろ」
「見たことがないからこうやって直接目で見に来たのよ」
「まぁそうか」
確かに魔族を初めて見るっていう彼女からすれば今回のことは大収穫だと言えるか。当然ながら、聖剣がなければ倒すことができないというのは言うまでもなく理解したことだろうしな。
あとは彼女自身の実力なんだが、さきほどのシンシアの動きもある。俺が想像しているよりかは高い実力を持っているらしいな。
あの施設での戦いは俺の不意打ちだったということもあり、まともに実力なんか測ってやれなかった。
「……ベジルって意外と抜けてるところがあるわよね」
「あ?」
そんなことを考えているとシンシアがそうぼそっと呟いた。
俺はとっさにそう声を上げたが、自分自身もなんとなく自覚している。頭が悪いわけでもないが、賢いかと言われればそれも違うだろう。
一般的か、それより少ししたといったレベルのはずだ。
「まぁいいわ。強いのならそれでいいし」
「ただ強いってだけじゃねぇ。最強になりてぇんだ」
「……」
本心からそう言ったが、なぜか彼女たちは俺にジト目を向けてくる。
最強になりたいと思うのは当然だろう。
俺より弱いやつは必要ないのだからな。彼女たちの実力はこれから測る予定だ。品定めしているわけでもないが、付いて来れねぇなら早い段階でいなくなってほしいところだ。
ただ、俺が思っているよりもシンシアやコミーナは根性がありそうだしな。
しばらくは放っておいていいか。
一番の問題は軍上層部の考えていることだ。ファデリードのやつも気に食わねぇやつだったが、それ以上に嫌な奴らなのかもしれないな。
どちらにしろ、胸糞悪い連中はこの世界には要らねぇってことだ。
こんにちは、結坂有です。
徐々にベジルの考えていることが見えてきましたね。
悪い人というわけでもありませんが、なにか裏がありそうで楽観視はできませんね。
それにしてもマリセル共和国軍上層部は一体何を考えているのでしょうか。
これからの展開が気になりますね。
それでは次回もお楽しみに……
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