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忠誠の誓い方

 私、アイリスは宿をエレインたちが宿を離れるのを待ってから外に出ることにした。

 理由としては簡単で、この宿を監視されている彼らと外でともに行動するわけにはいかないからだ。私と彼とで繋がりがあると気付かれないようにするにはこうして、別々に行動する必要があるのだ。

 幸いにも宿の内部まで監視しているわけでもなく、私たちと同様に少し離れた場所から監視を行っている。宿の中でなら自由に彼らと接触できる。

 いや、今はそんな事を考えている場合ではない。まず大切なことは私が軍司令部の情報を手に入れる必要があるのだ。

 そして、今私はそんな軍司令本部の近くまで来ている。耳を澄まし、集中すれば本部の中から複数の心拍音が聞こえてくる。だが、その音で誰がいるのかは判断できない。ただでさえ僅かな音なのだ。一つ一つの違いなど区別できない。


「……」


 そんな緊張のような心境を胸に押し込め、私は本部の方へと歩いていく。

 時刻としてはもうすでに正門が開いている頃だ。

 本部への入り口に近づくと兵の一人が私へと話しかけてくる。


「ここは軍司令本部だ」


 目の前にいる兵士は私とはなんの面識もない。それに子どものような容姿をしている私に対して威圧的な言葉でそういった。

 当然ながら、このような場所に子どもが入っていいはずがない。


「……私は軍の関係者です」


 渋々ではあるものの、私はファデリードからもらった軍の、それも上位階級を示す紋章を彼に見せることにした。軍に従わないと言い放った私がこれを差し出すのはどうかと思うが、彼にここを通してもらうにはそうするしかなかった。


「……なっ、申し訳ございませんっ」

「いえ、容姿からして庶民の子どもに見えて当然ですから。気にしていません」

「恐縮です……。それでは、どうぞこちらへ」


 大きく正しい所作で敬礼をした彼はさっと横にずれて道を開けた。

 私はその開けてくれた道を歩いていくことにした。

 そもそもこの場所はファデリードが生きていたときも頻繁に行き来していたわけではない。私を知る人間が少ないのも仕方ない。私が今まで過ごしていたところはは訓練していた特殊施設だった場所だ。そこを簡易的に改築しただけ。

 そんなことを考えながら私は本部の中を歩いていく。

 数えるほどしか来たことがないが、ここの構造はすべて脳に叩き込んでいる。迷うことはない。


「アイリス?」


 そう本部の中をしばらく歩いていると少し離れた場所からリシアの声が聞こえた。

 振り返り、声の方を向くと見慣れない服装をした彼女が立っていた。

 彼女は私の顔を見るとすぐに駆け寄ってくる。感動の再開、というにはそこまで時間は経っていないのだが。


「軍に協力する気になったの?」

「いえ、そういうつもりではないです」

「じゃ、どうしてここに?」

「ただどのような活動をしているのかと思っただけです」


 もし私が彼女たちの仲間ではなかったとすれば、敵情視察のように聞こえることだろう。まぁ実際のところ、その通りだ。


「そう、シンシアとコミーナはあのベジルって人と魔族の討伐に向かったわ」

「討伐、ですか?」

「なんか軍の上層部は魔族の情報がほしいみたいでね」


 どういった情報がほしいのかはわからないが、そのようなことはすべて聖騎士団に任せていたことだ。おそらく上層部の人は聖騎士団にも聞けないような情報を手に入れようとしているのだろう。

 そうでなければ、わざわざ危険を冒してまでする必要がない。魔族と戦ってきた聖騎士団から教えてもらうべきなのだから。


「ですが、魔族の討伐には少なくとも聖剣が必要です」

「ベジルって男が持っていたの、あれは魔剣なのよ」

「つまりは彼だけが魔族に対抗できるということですか」

「まぁそうなるわね。シンシアとコミーナはその監視役みたいなものよ」


 分析力の高いコミーナが魔族の情報を記録し、シンシアがベジルの監視をしているといったところだろうか。

 どちらにしろ、上層部のやろうとしていることがまったくわからない。


「そうなのですね。ところで、リシアはなにをしているのですか?」

「私は彼らが帰ってくるのを待っているところよ。特にやらないといけない仕事なんてないからね」

「剣聖の仕事はしていないのですね」

「あの人たちの監視は私でなくてもできるし、私たちはもっと危険な任務を遂行しないといけないしね」


 確かにそのために高度な訓練を受けてきたと言っていい。

 彼女の口ぶりからするに、軍上層部はどうやら剣聖に対して攻撃的なことは仕掛けない様子だ。

 あのベジルに一対一で戦って、終始優勢を維持した状態だったのだ。魔族という脅威でもにない。


「剣聖、私の目からもそこまで危険な印象はありません。監視だけで十分だと思います」

「まぁ監視って言っても怪しいことをしないかだけなんだけどね」


 そういえば、レイがそのようなことを言っていた。

 自分たちが監視されている状態だからエレインは私に敵情視察をしてほしいと頼んだのだろう。

 それにある程度の信頼もしているようだ。


「怪しいこと、ですか?」

「うん。軍を視察しようとしてないかとか、議会に連絡をしないかとか」

「……大変なのですね」

「ただ、軍のこの動きは不審な点もあるの。特に怪しいのは詳細な情報を教えてくれないところね」


 そう彼女は上層部の態度に不満を示した。

 確かにファデリードが私たちの指揮をとっていたときも情報をくれなかったが、それ以上に開示していないのだろう。

 なにか隠しているというのは事実なようだ。


「それ以外にはなにかないのですか?」

「うーん、剣聖と話しているときに変なことを話していたのだけど……」

「変なことですか?」

「えっと、魔族と協力するとか……私もよくわかっていないのだけど」


 やはり軍上層部はなにかとてつもなく悪いことを企んでいるのだろう。何があっても人類は魔族と協力してはいけないのだから。


「よくわからないのに軍の言いなりになるのですね」

「仕方ないわよ。この前コミーナも言っていたけれど、私たちの居場所はここしかないからね」

「そうですか」

「アイリスも行き場所がないんだから」

「……しばらくは自分で考えさせてください」


 私はそう言うしかなかった。

 軍に戻ったとして、待遇も良かったとして、その先にあるものが魔族との協力なのだとしたら私は軍なんかに所属したいとは思わない。少なくとも今の話を聞く限りは入りたいとは思えない。

 このままエレインと一緒に……


「アイリス、疲れてるの?」

「えっ?」

「顔が赤いから……昨日帰ってこなかったし、何かあったの?」

「だ、大丈夫です。なんでもありません。それではもう……」

「けど、やっぱり変よ。休憩所があるからちょっと休んで」


 そう言って彼女は私の腕を引っ張って軍司令本部の奥へと連れて行く。顔が赤いという自覚はなかったが、頬に手をやると確かに熱がこもっている気がする。

 こんなところまで来て何を考えているのだろうか。

 しかし、強引に逃げるのも不審に思われるだけ。ここはおとなしく彼女に付いていくしかない。

 私ができることは向けられた信頼に誠実に応えること、私の直感がそう言っているのだ。お兄様に忠誠を誓うというのは非常識だろうか。いや、常識などあってないようなもの、私はただ自分の直感を信じるだけなのだから。

 それから私は彼女に連れられて休憩所へと向かうことにした。

こんにちは、結坂有です。


一日遅れの更新となってしまいましたが、いかがだったでしょうか。

まだまだ物語も中盤に差し掛かったばかり、これからどのような展開になっていくのか気になりますね。


それでは次回もお楽しみに……



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