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戦いは本格的になる

 エレインとリーリアはそのまま学院の方へと向かっていった。

 彼らの姿が完全に見えなくなるのを確認した私、ミリシアは口を開いた。


「この人たち、討伐軍の制服を着ているわね」

「ああ、そのようだが顔は見たことのないやつばかりだ」


 ブラド団長は三人組の一人の兜を取り外して、顔を確認しながらそう言った。


「じゃあ捨て駒扱いの人?」

「それにしては連携がしっかりしていた。おそらくは議会で見込みのあるやつを独自で鍛えているのだろうな」

「こんな鉄砲玉みたいに扱う人をわざわざ育成するって言うの?」

「確かに無駄なことだ。しかし権力を持つ者はそう言った無駄を好むものだ」

「……それはそうだけど」


 団長の言葉に腑に落ちない部分はあるが、一瞬納得してしまった自分もやはり彼の考えに似ているのだろう。


「お前ら、聖騎士団はもはや意味を為していない。魔族なんて攻めてくるわけないだろ」

「それはどう言う意味だ」


 団長はその鋭い目つきでそう発言した人を睨みつけた。

 睨まれた人はまるでカエルのようにじっと動けずにいた。それもそのはずだ。

 団長の目は殺気も混じっているのだからだ。

 しばらく沈黙が続いたが、睨まれた人はゆっくりと口を開いた。


「あんたらが魔族を刺激しなければ、俺たちなんかに攻撃してこねぇってことだ!」


 すると、団長は彼の目線と同じ高さに合わせる。


「お前たちは知らないのだろうな。あらゆる国が魔族からの攻撃で苦しんでいることを」

「し、しらねぇな、そんなこと。ここは俺たちの国だろ? 俺たちだけで生活すればいいんだよ!」


 確かに自分の国だけを維持する考えは保守的ではあるものの、理にかなっているとも言える。

 国民の安全を第一に考えることで生存力を上げることは悪い考えではないのだ。

 しかし、世界というものはあらゆる国々の支援の上で成り立っている。

 エルラトラムの武器とも言える聖剣の素材となっている鉱物は世界各地から送られてきているのだ。

 聖剣を作ることが、エルラトラムのするべきこと。そしてそれら聖剣を扱う人間を各地に派遣することこそがこの国の役目なのだ。

 非常に重要な役目である聖騎士団のことを彼らは何も分かってはいないのだろう。


「他国と協力するなと言うことか?」

「……そうだよ」


 萎縮気味だが、彼はそう返事した。

 団長は少しだけ目を閉じ、そして口を開いた。


「目先の利益だけを求めるな。安全や平和と言うものは幻想に過ぎない。人間関係のようにふとした瞬間に拗れることがあるものだ。だからこそ、我々は強くならなければいけない」

「それがどうしたんだよ。普通のことだろ」

「力は利用しなければいけない。それが魔族への攻撃だろうと防衛だろうと成し遂げる力こそが世界を平和にすると俺は考えている」


 魔族を制する力、現状魔族は人間よりも強い存在だ。

 そんな存在すらも制する力を持っているとなれば、人々はそれを超常的なものとして崇める。

 強いものが頂点にいることで、人々は安心する。そして従う。

 悪い考えではないのだが、私の思い描いている政府の構造とはかけ離れている。

 まぁそんなこと考えてみたって、団長に従うしか私の居場所はないのも事実だ。少なくとも私には彼を止めるなんてことはできない。


「力で平和を手に入れるだと?」

「不可能なことだと思うか?」


 すると、団長は持っている魔剣の一つを彼の足元の地面に突き刺した。

 ギリィィン、と言う重く鈍い金属音を響かせながら団長は言葉を続ける。


「怯えて何もできないだろう? 恐怖は人を簡単に支配することができるのだ。全てが支配下になれば自ずと平和になるだろう」


 団長の言っていることはいわゆる”恐怖政治”と呼ばれるやり方だ。

 歴史的にみても効果は証明されているものの権力者の力不足が影響して長くは続くことはなかった。

 しかし、魔族を支配することが出来る力というものはそう簡単に衰えるものではない上に、市民の安全に関わる問題だ。

 人間が幸せに生活できる最低条件は安全に生きていけることだ。

 それだけが担保されれば、人間はいくらでも繁栄することができる。

 大きな括りで見れば人間も動物と同じ、大きな檻に閉じ込められたとしても生きていくことは可能だ。


「……ふざけてやがる」

「ふざけているかもしれないが、これが一番のやり方だ。これ以外に方法はないと考えている」

「……」


 反論することはできないようだ。

 実際に彼は団長に恐怖を感じ、全ての言動が萎縮した。つまり支配下に置かれたということだ。

 団長が圧力をかければ彼は何もできない。


「団長、連れて行く?」

「そうだな」


 そういうと、微かに金属が擦れる音が聞こえた。


「っ!」


 三人組の一人が手錠をこじ開けていたのだ。

 私が剣を引き抜く前に真っ黒な人型の何かが現れた。


「え?」

「ぶっぐふぇ……」


 そして、その黒い者は一瞬にして手錠を外した男を影のように黒い剣で斬り裂いた。

 胸元を大きく斬り付けられた男はそのまま即死し、地面に倒れる。


「これは?」


 私が団長の方に振り向いている隙に消えたのか、視線を戻すと真っ黒な何者かが消えていた。


「こ、これが噂の”増殖する剣術”なのか」


 兜を外された男はそう呟いた。


「そうだ。妙な行動をすればすぐにっ……」

「だが、相手は二人! 同時に俺たちが動けば問題ない!」


 すると、二人組は上着の袖に仕込まれた隠しナイフで手錠を破壊して立ち上がった。

 さすがに今から拘束技に持っていくには時間がないか。


 私は思考を始める。彼らを私の持っている剣でどう対処するのかを。

 まず大剣の男が厄介だ。彼の腕をこの剣で折り、そしてそのまま流れるように左の男の右足を私の左足で払うことで空中に浮かす。

 そして、振り上げた剣でその男の胸骨を破壊。

 全治まで一ヶ月弱の怪我を負わせることにする。


 そこまでの思考を瞬きの間に考え上げる。

 目を開いた瞬間に剣を引き抜いたその時であった。


「増えるのは一人だけだと誰が言った?」


 瞬きする間にあの暗黒な人型の何かが二人を捕らえていた。


「なんっだと!」

「言い残すことはそれだけか?」


 捕まっている男は暴れるだけで、その黒い存在から逃げることはできない。


「団長! それ以上はっ」


 グギリッ、と鈍い音が聞こえた。

 それと同時に二人の動きが完全に停止した。


「二人は危険な存在だ。我々聖騎士団は自衛目的で剣の能力を使用したのだ。何か問題があるのか?」


 そ知らぬ顔で団長はそう淡々と述べた。


「……いいえ、問題はないわ」


 自衛目的で私も剣を引き抜こうとしたのは確かだ。

 それが殺すとはではいかなくとも目的が同じであれば、私も同じである。


「死体の回収は部下にやらせる。お前は付いてこい」

「ええ」


 そう言って歩き出した団長は無線で部下に事情を話している。それも自衛目的の殺害だと言って。

 私からすれば殺害を目的としていたように見えるのだが、ここでの目撃者は団長と私だけ。

 そして、私は聖騎士団ではないため発言力は団長よりもかなり低い立場だ。

 ここでの正義は団長ただ一人なのだ。




 そうして団長と向かったのは学院の教務室であった。


「これはこれは、ブラド団長ではないですか」

「今日は少し用事があって来た」

「なんでしょうか」


 団長の顔を見るなり、頭を下げてきたのはこの学院の理事長であった。

 学院の管理を主に行なっている彼はエレインの監視を続けてもらっている。

 当然、この学院の管理だけであって直接生徒に関与することは権利として持っていないのだ。

 生徒に関与できるのは教師だけなのだ。


「エレインの監視のことだ。彼の行動記録を全て我々聖騎士団に提供してほしい」

「ああ、あの生徒ですね。この前は凄い記録が取れましたよ」


 そう言って自慢するように机の鍵付きの引き出しから資料を取り出した。


「これが彼の剣術評価と剣技分析です。剣術評価は底辺ながらも剣術分析ではかなりの好成績を叩き出している期待の新人ですよ」

「そうか。いただいておく」


 すると、団長はその分厚い資料を鞄に入れるとそのまま立ち上がり、部屋を出ようとする。


「もう帰るのですか?」

「長居は無用だからな。他にも用があるのか?」

「用というような用事はないのですけど、そのデータをどうするのですか?」

「フラドレッド家の養子だからな。俺も少し気になっただけのことだ」


 ブラド団長はそう言っているが、それは嘘だ。

 本当の狙いはエレインの分析の資料として情報を得たいだけなのだ。

 しかし、そのことを学院に知られてしまっては情報を手に入れにくくなるのかもしれない。


 今はこうして団長だからという特権を利用しているが、その狙いが生徒の安全に関わることであればいくら知り合いだからと言っても学院全体が許さないことだろう。

 これから始まることを考えれば、この程度の横暴はまだ序章と言える。

こんにちは、結坂有です。


ついに聖騎士団が動き始めました。と言っても議会の討伐軍側は前々から色々と動いていたわけですけどもね。

聖騎士団を率いているブラド団長は一体どのような能力を持っているのでしょうか。

非常に強い者であることは確かなのですが、その力について少し気になるところですね。


それでは次回もお楽しみに。



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