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絶大な力を求めて

 俺、ベジルは軍の施設の中で寝泊まりをした。

 今までの生活があまりにもサバイバル的だったからな。むしろ贅沢をしている気分ですらある。ただ、一つ大きな欠点があるとすれば、それは先ほどからずっと感じている妙な気配だ。

 深く読み取ろうとすればするほど、嫌な感覚に陥る。まるで人間としての本能が拒絶しているかのようだ。

 これではまともに寝れたもんじゃない。

 その点で言えば、魔族を蹴散らした国外の場所で野宿でもしたほうがまだマシだ。


「……」


 そんな事を考えていると俺を監視していると思われる女、シンシアがじっと見つめてきている。


「なんだよ」

「別に、なんでもないわよ」

「なんでもねぇならジロジロ見てんじゃねぇ」


 俺がそう言うと彼女はムッとした表情で口を開いた。


「私は監視役としてここにいるのよ。ジロジロ見るのが仕事なの」

「はっ、男のプライベートまで入り込んでくるってか?」

「プライベートなんて軍の施設に来た以上、ないに等しいわよ」

「だったら……」


 そう言って俺はおもむろに自分のズボンを下ろすことにした。そこまで見たいっていうのなら見せてやろうではないか。男のプライベートってやつをな。


「ちょっ! なにをしているのよっ」

「何をって着替えをだな」

「それなら一言言いなさいっ」


 そう言ってシンシアは扉を強く閉じた。

 まさか四六時中あの女と一緒に生活するかと思ったが、さすがに着替えをしたりするときは部屋を出ていくそうだ。

 昨日から同じ服を着ているわけだからな。今朝新しく届いた服にこれから着替えることにした。

 採寸などは昨日の内に済ませた。

 ズボンに足を通し、上着も着替える。今着ている服は半日で作られたためにかなり簡素ではあるものの生地はしっかりしている。そして、軽く腕を回してみると関節部がほどよく伸縮して動きやすく加工されている。

 鏡で自分の全体像を見てみると、見覚えのあるデザインだ。どうやら先ほどのシンシアの着ていた服とほとんど変わりない。


「……もう着替え終わった?」

「ああ」


 俺がそう返事をすると彼女はゆっくりと扉を開いて警戒しながら、部屋の中へと入ってきた。


「私たちと同じようなデザインなのね」

「そうみてぇだな。安易なくせによく作り込まれてる」


 率直に俺は感想を言ってみたのだが、彼女はどこか不服そうな表情で俺から視線をそらした。

 その表情の意味まではわからない。ただ、彼女はこの服のことに関してあまりいい意味を持っていないようだ。


「そろそろ時間のようだな」

「ええ、こっちよ」


 俺がそういうとシンシアは壁にかかっている時計を見てそういった。


「面倒な仕事じゃなければいいのだがな」

「軍の仕事なんてだいたい面倒なことばかりよ」

「まぁそうか」


 当然のことだが、国の軍っていうのは戦うこと以外にも仕事を押し付けられることがある。悪く言えば、国の雑用係とでも言ったところだ。それがなければ国はしっかりとした自治ができなくなる。

 国にとっては欠かせない必要な存在だ。ただ、俺としてはそこまで思い入れがあるわけでもないし、なりたいとは思わない。

 俺の生きる目的、それは絶対的な力を手に入れることだけだからな。

 俺がこれから向かう場所というのは国外の調査だ。もちろん、魔族が多く生息している。


 それからしばらくして、俺たちはコミーナと合流し、三人で国外へと出た。

 朝日が上り十分に明るくなった頃、正門が開くと同時に国外へと出た。そこ出てからは徒歩で調査だ。

 調査の詳しい内容については俺は知らないのだが、俺ができることはシンシアとコミーナを魔族から守ることだ。魔剣を持っているのは俺だけだ。剣聖一行や聖騎士団から隠れて行動するように言われている。

 正門までは当然のように窓のない馬車で移動し、門を出るときは聖騎士団から隠れていた。そのために他の兵士たちも協力してくれた。そこまでして調査をしたい理由というのがわからないが、まぁあいつらの要望だ。暇つぶしだと思って任務を続けることにするか。


「それで、これからどこに向かうんだ?」


 正門を抜け、近くの森の中へと進んでいくシンシアとコミーナに俺はそう問いかけることにした。国内ではいろいろと人の目があるからな。気軽に話しかけることができなかったが、ここなら問題ないだろう。


「……向かう場所なんてないわ。ただただ魔族を討伐してこいとのことよ」

「はっ、調査だと言っていたが?」

「魔族の生態について調べるそうよ」

「あ? そんなことあのファデリードのやつにも報告したはずだ」


 ファデリードから魔族の討伐依頼を受けていたときも倒したという報告だけでなく、どのような魔族がいたかという報告もした。

 司令部の人間である彼ならしっかりと他の連中に報告していると思ったのだが、どうやらそういうわけでもなさそうだ。少なくとも俺たちに依頼した連中は知らないらしいな。


「理由なんて知らないわよ。上からの命令なんだからね」

「何も知らずにただただ任務をやれってか?」


 すると、先頭を歩いていたコミーナが振り返って俺の方へと詰め寄ってくる。


「協力しないのなら、この任務は終わり。あの司令部が何をやろうとしているかは知らないけれど、少なくとも彼らの命令に従うのが筋でしょ」

「そうね。私たちは軍の所属なんだからね」


 確かにそうだ。

 俺も昨日の段階で彼らに協力すると言った。所属も軍になっている。今着ている服がそれの証だ。

 どちらにしろ、魔族が復活してきているのは確かなようだしな。そもそも暇つぶしなのだからな。深く考える必要も今となってはないか。


「まぁとりあえず、考えるのは後だ」


 俺はそう言って魔剣を引き抜いた。


「……っ!」


 木々の間から俺たちを警戒している視線がある。数にして六体ぐらいだろうか。


「魔族の討伐、だったな?」

「そうだけど、さすがに数が多いわ」

「これぐらいなんら問題ねぇ」


 一歩二歩とゆっくりと俺は前へと進んでいく。


「グリリィイイ」


 奇妙な声を上げて一体が俺の方へと攻撃してくる。

 そのようなわかりやすい攻撃が俺に通用するとでも思っているのだろうか。いや、コイツラには思考というものがないのかもしれないな。

 詳しくは知らねぇが、下位の魔族ってのは大して脅威でもないか。


「ふっ」


 俺が相手の攻撃に合わせて切り上げる。

 反射することのない白銀の刃が瞬時に赤く染まる。

 この魔剣の名はゲヴェデエラという。俺とこの魔剣とでは血の契約を交わしている。だから、俺はこの魔剣の力を最大限に発揮することができるのだ。そして、この魔剣の能力というのは”斬撃”というらしい。

 精霊本人から聞いた話なのだが、斬撃という能力は他の聖剣にもあるそうだ。ただ、魔剣として力を解放されたこのゲヴェデエラならそれらより強力な能力だという。まだ比べたことがないからわからないがな。

 つまり、魔剣は聖剣をはかいすることができるということだ。

 聖剣は魔族に対して絶大な力を発揮するが、魔剣は聖剣にも対抗できる力がある。頂点を目指す俺にぴったりと言ったところだろう。


「ギュガアァ」


 奇声を上げた魔族の体は縦に斬り裂かれ、俺の左右にその体が倒れる。

 死ぬ直前まで斬られたすら気付いていない。


「……」

「聖剣も持ってねぇやつは動くなよ。死にたくなければなっ」


 残り五体、俺はシンシアとコミーナにそう伝えると木陰から様子をうかがっている魔族へと駆け走る。

 隠れている木もろとも斬り裂く。

 白銀の刃が更に赤く染まっていく。魔族の血を吸収することで斬撃の威力を引き上げることができる。


「はっ、次だっ」


 俺は地面を蹴って残りの魔族へと攻撃を仕掛けることにした。

こんにちは、結坂有です。


ベジルの残りの魔剣、斬撃という能力のようですが、他の聖剣とは一味違う能力でもあるようです。

敵を倒すごとにその力を増していく。絶大な力を求めるベジルを体現しているようでもありますね。


それでは次回もお楽しみに……



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