己の道を進むだけ
俺、ベジルは訓練施設だった場所へと戻っていた。
自ら生き残るために戦ったあの訓練施設とは違う場所、つまり腐乱した死体が転がっているわけではない。あの訓練施設には食料になるものがたくさんあったために何回か出入りしたが、ファデリードがあの施設に入って自爆シーケンスを実行、あの施設は瓦礫の山となって消えてしまったのだ。
だから俺は古い訓練施設へと向かわざるを得なかった。
当然ながら、国の中に戻るというつもりは今のところはない。あの国の連中は何を考えているのかわからないからな。軍司令部の奴らは特にだ。
腹の中にとんでもない地雷を抱えているように見えて仕方ない。
それにもう一つ国内に戻れない理由がある。俺はあの国の市民から恐怖の対象として見られていることだろう。街を歩くだけで妙な視線を向けられるのは居心地が悪すぎるからな。こうして国の外に出て一人気軽に過ごしている方がよっぽど楽と言える。
「……」
そんな事を考えていても意味がない。どこで俺が間違ったのかはわからない。全てはあの最後の試験が失敗したことが問題だった。
どのような経緯で俺が不合格となったのか、そして、どうして俺の力は認められなかったのか、それが今も理解できないでいる。
弱いものが強いものの足を引っ張る。なら弱いものはいなくなればいい。そうすれば何も問題ないように思える。強いものが弱いものを守るという理論も意味がないとも思える。
自然の摂理というのはそんな生易しいものではない。弱いものが死に強いものが生き残るのだからな。
「ちっ、誰か来やがったな」
一人で思考に耽っていると訓練施設の外から数人の妙な気配が漂ってきた。
ファデリードはもう死んだ。ここに来るのは限られる。軍司令部の連中に違いない。
あの剣聖がここに来るとは考えられないからな。もう少し聞きたいことがあったとはいえ、あのような事になったんだ。わざわざあいつがここに来るわけがない。
俺は太刀に匹敵するような形状をした刀を腰に携えると俺は部屋から出た。
肌寒さの残る気温、つまりは体を動かすにはまだ最適というわけではないのだ。体というのはある程度の温度まで上昇しなければ血流は良くならない。血流が悪ければ筋肉に力が入りにくくなる。
もし特殊訓練を受けたような連中が何十人も来たとなれば、今度こそ厳しいだろうと感じる。そんな胸の高鳴りを感じつつも気配のする方へと視線を向ける。
足音からしてもどうやら二人のようだ。だが気を抜くわけにもいかないな。奇襲という可能性もあるだろう。
と、そんな事を考えていると視界の中にその二人の男が入ってきた。
「……ベジル、あの訓練で最高の成績を残した上に、廃棄処分すらも生き残った」
「そして、さらには魔族から魔剣を手に入れたのだとか……」
「あ? それがどうしたっていうんだ?」
「その実力を見込んで、頼みたいことがあるんだ。条件によっては相応の地位も保証しよう」
そう男の二人が俺に話しかけてくる。
どういった話を俺にしたいというのだろうか。
「とりあえず、用件を言え」
「あのファデリードの報告書によると、無用の強者と書かれているな」
男の口から出てきた言葉はあの試験以来聞いていなかった単語だった。
あのとき、無機質な機械音声で俺をそう言った。そのことをファデリードに聞こうとしたが、話を濁されただけで終わった。詳しいことを話そうとしなかったのだ。俺の追及をうまくかわしたのはさすがと言わざるを得なかったがな。
「つまりは強きものこそが生き残るべき、そう考えているのだろう?」
「……当たり前のことだろ」
「君の考えは危険そのものだが、我々も似たような考えだ。この際、我々と手を組み、この国を再構築しないか?」
「はっ、再構築だと?」
確かに俺はあの機械音声に向かってそのようなことを言った。
この国の頂点に立つことでこの国をよりもっと強くする。そうすることができれば人類はもっと進化することができる。
強者こそがその進化に欠かせないのだからな。
「この国の、特に中央の考えることは従来のやり方と何ら変わりない。我々と手を組み、改革を起こさないか?」
この男の言っていることの本質が見えない。改革という響きのいい言葉で俺を誘おうとしているのが透けて見える。
しかし、そんなことでは俺は揺るがない。この国がどうなろうと俺にはもう関係のないことだからな。
あの特殊訓練を実施していたファデリードももういなくなったことだ。俺は俺の道を歩くというのが筋だろう。
ただ……
「別にいいぜ。ちょうどいい暇潰しにはなりそうだ」
俺は彼らの提案に乗ることにした。
興味があるというわけではない。それに退屈だからという理由でもない。
彼らがどれほどのことを考えているのか、一体どのようなものを考えているのか詳しく知りたいからだ。
俺が提案に応じない限りは詳しい内容までは教えてくれないわけだ。なら、後で裏切るという前提で俺はその提案に応じればいい。
自分に不都合なことが起きればそのときはそのときで自分で乗り越えれば問題ないだろう。
「つまりは我々に協力する、ということか?」
「ああ、そういった」
「それは……思ってもいなかった返答だ」
「はっ、不満でもあんのか?」
「そういうわけではない。まぁ詳しい話は司令本部ですることにしよう」
そう言って二人は振り返る。
付いて来いと言っているようだ。こういう連中は自分が上の立場だと思い込んでいる節があるからな。
気に食わない連中ではあるものの、今は少しばかり我慢をするべきだな。
後で思う存分裏切ってやるつもりだからな。
そう考え、一歩前へと踏み出すと左右からほんの一瞬だけ気配を感じた。
殺気のようなものを若干含んでいたものの、攻撃してくるわけでもない。目の前の二人も堂々と歩いていることから問題が起きてはいないようだ。
もしかすると、俺に気付かれないように何者かが潜伏していたということなのだろうか。どちらにしろ、気配を隠すのが上手い連中も引き連れているらしい。
俺が思っている以上に目の前を歩いている二人は深い計画を立てているということだ。
それから俺は二人の男の後を付いていき、国内へと正門から入った。今まではこそこそと隠れて侵入したりしていたが、こうも堂々と国内に入ったことはなかったな。
そんな新鮮さの余韻に浸る間もなく、馬車に乗らされた。
窓らしきものはあるが、木の板によって塞がれている。子供の頃の記憶を懐かしむようなことはさせてくれないようだ。
まぁそんなことは俺も望んでいないがな。
馬車に揺られること一時間弱、軍司令本部とやらに到着した。
ファデリードに連れられてこそこそと入り込んでいたときと同じく、妙に殺気立った居心地の悪いこの空間は彼が死んだ今も変わりないようだ。そもそも変わるとも思っていなかったがな。
しかし、目の前を堂々と歩く二人が今何を考えているのかはわからない。どのように俺を利用しようとしているのか、推測すら立てられない。
「……第三会議室」
「どうかしたのか?」
「いや、こんなところなんてあったのかと思ってな」
「もともと倉庫だった場所で新設したのだ。こんなことはよくあることだ」
そう言って二人はその第三会議室と書かれた部屋へと入っていった。
俺も続いて部屋の中へと入っていくことにした。
そこで詳しい説明を聞くことができるらしいからな。俺が今できることは彼らの考えていることを聞いてから自分の意志を決める。
悪くない提案ならそのまま応じることにしようか。別にそれもまた俺の自由意志というやつなのだからな。
こんにちは、結坂有です。
ベジルの視点になりました。
試験の頃からどういったことがあったのかはわかりませんが、ファデリードがどうやら彼と関わっていたようですね。
そして、ベジルはそこまで悪い考えを持っているわけではないようです。
ただ、極端な考えを持っているだけ。
それでは次回もお楽しみに……
年末最後の回です。
新年からはまた新しいことも始めてみたいと思います。新しい作品を書いてみたいのですが、発表するまでは楽しみに待っていてください。
今年は少しでも文章力が上がったのかなと若干ながら、上達を感じているところです。来年も精進して勉強して行きたいと思いますっ。
これからも応援のほど、よろしくおねがいします。
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