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最強と最弱の二人

 ベジルが逃げた後、俺は彼の落としていった剣を拾い上げることにした。彼が戦利品と言っていたからにはそれなりのものなのだろう。

 確かに剣格の高い聖剣イレイラと張り合えるほどの上位の精霊が宿っているのかもしれない。

 もちろん、このまま拾い上げると精霊との試練が始まってしまう。柄を掴まないようにして俺は鞘に剣を収めた。


「……そのようにいれるのですか?」

「ああ、柄を掴んでしまうと精霊と試練が始まってしまうからな」

「そうなのですか」


 黒髪の少女に俺はその剣を渡すことにした。

 俺は十分過ぎるほどの聖剣と魔剣を持っている。これ以上剣を携えることになると移動するのに支障が出る。イレイラに関しては重さを感じないほどではあるが、少なくともその剣には重さがあるからな。


「戦利品と言っていたが、俺にはもう必要ないからな」

「剣を集める、といったことはしないのですね」

「俺は別に収集家というわけでもない」


 それに一人で聖剣を集めるのはあまりにも効率が悪い。本当なら一本で十分なのだ。


「わかりました。それではいただきます」


 そう言って彼女も柄を持たないようにして剣を腰に携えた。

 彼女自身もまだ聖剣との契約を始めたくない様子だ。覚悟できていないのなら今すぐにさせるべきではないか。

 本当なら知っている人と契約してほしいところで、別の人に渡したくないのが本音だがな。そればかりは仕方ない。


「アイリスっ」


 すると、建物の奥から三人の女性が出てきた。


「……ファデリードのことはお願いします」

「え?」

「私は剣聖と一緒に少しお話をしてきますので」


 そう言って彼女は瑠璃のような深い青色の目を俺に向けた。その瞳はどこか遠くを見ているようで、それでいてまっすぐに俺を見つめている。

 そこから相手の心情までは読み取れないが、それでも強い志のようなものすら感じさせる。


「……わかったわ」

「こっちのことは任せて」


 彼女たちがそう言うと黒髪の少女は歩き始める。俺も彼女の後を追うことにした。

 後ろの三人の女性は最後までじっと見つめたままであった。監視していたのはこの黒髪の少女の他にあの三人もそうなのだろう。

 四人で俺を監視していたというのはまた不思議だな。


「名はアイリスというのか?」

「はい。アイリス・セラスティンといいます。剣聖エレイン・フラドレッド、ですね?」

「ああ、よく知っているな」

「新聞に書かれていたので覚えています」


 やはり新聞に書かれていたのか。

 ここの国民がやけに落ち着いていたのはそのせいのようだ。この日に剣聖が来るということを知っていた。普通であれば、もっと好奇な目で見られるのだからな。


「覚えている、か。新聞に書かれていることは全部知っているのか?」

「知っているというよりも記憶しているが正しいです。新聞の一面を画像のようにして覚えています」

「なるほどな」


 そういった覚え方もあるということか。ミリシアが得意とする記憶法だったな。

 俺もできなくはないが、完璧にできるという自信はあまりない。


「ところで、特殊訓練施設のことはご存知でしょうか」

「……特殊部隊を育成する施設のことか?」


 俺がそう答えることにした。

 セルバン帝国の特殊訓練のことを言っているわけでもないだろう。この国のことだとすればアイリスたちのような特殊部隊のことを言っているのかもしれない。ただ、そのことを聞いているわけではないのは確かなようだが。


「いえ、そうではありません」


 そう言って彼女は立ち止まる。そして、振り返って俺の方を向くと彼女は続けて口を開いた。


「第四の型……」


 すると、彼女は俺のよく知る構えを取った。剣こそ持っていないものの体の形、筋肉の使い方、重心の位置まですべて良くできている。

 ユウナでもここまで完璧にするのは難しい。このアイリスという女性はまさかとは思うが、セルバン帝国の特殊訓練のことを知っている。


「……その様子だと心当たりがあるようですね」

「ああ、アイリスもその筋だったとはな」

「その筋、どういうことですか?」

「俺はセルバン帝国の生き残りなんだ。この情報は公開されていないがな」


 俺がそう言うと彼女は目を丸くした。

 感動でもしているのだろうか。この話のどこに感動する要素があったのだろうか。


「その、成績上位だったということは……」

「最高成績でずっと突破してきた」

「おにぃ……」


 そこまで言うと彼女は顔を赤くして俺から視線をそらした。

 その様子からに彼女はなにか知っている。とは言え、詳しく言及するのは避けるべきなのかもしれない。


「どうかしたのか?」

「いえ、なんでもありません。は、話は以上です」


 顔を赤くして視線をそらしたまま、彼女はそういった。


「そうか。まぁ詳しくは聞かないでおこう」

「……その、そうしていただけると嬉しいです。また会えることを楽しみにしています」

「今日帰る予定だったが、その予定は変更する。この国のこともよく知りたいからな。しばらく滞在することにしよう」


 俯いていた彼女は顔を上げると俺の目をみて、また視線をそらした。

 まだ俺のことを直視できないでいるようだ。一体なにがあったのだろうか。

 ただ、ここで彼女のことについて言及するのはよくはないからな。しばらくは様子見になるな。


「そうなのですか?」

「ああ、ベジルという男の件もあることだ」

「外部の、それも要人である剣聖を巻き込むわけにはいきません。これは私たちの問題でもありますので」

「別にそのことは気にするな。俺も彼のことについては少し興味があるだけだ」


 それについては事実だ。彼からは俺たちと同じような雰囲気を感じたからな。

 かなり高い実力を持っていることも確認済みだ。少なくとも俺と近い、小さき盾に匹敵するほどだろう。

 まだ対等な状態で戦ったことがないから断言はできないが、俺でも気を抜けば殺されてしまいかねない。


「わ、私も剣聖のことに興味が……」

「なんだ?」

「なんでもないですっ」


 さっと後ろを向いた彼女はどこか様子が変だった。


「エレイン様っ」


 すると、少し離れた場所からリーリアの声が聞こえてきた。

 どうやら俺のことを見つけてやってきたようだ。


「……その、私は失礼しますっ」


 そう言って彼女はどこかへと走っていった。それもかなりの勢いでだ。

 追いかけることもできたが、別に今日限りというわけでもないだろう。それに一度気配を覚えた。

 少し離れた程度ならそれで把握することはできる。


「落ち着いたと思って戻ってみたら兵士たちが集まってたからよ。どこ行ったのかと思ったぜ」

「すまないな。探させてしまって」

「いえ、それよりもご無事なのですか?」

「怪我もしていない。大丈夫だ」


 それから俺たちは宿へと戻ることにした。

 情報の収穫としては確かにあったものの、なんともいえない状況になってしまったのには変わりない。

 まぁ別に今日だけというわけではない。何事もなければ明日にでもまた会ってみるか。

こんにちは、結坂有です。


まだ剣を持つことのできないアイリスですが、いつか元通りの力を取り戻すことができるのでしょうか。

そして、エレインと彼女の今後の関係もよいものになってほしいものですね。


それでは次回もお楽しみに……



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