表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/675

異なる立場に揉まれる

 夜、俺は自分の部屋でアンドレイアに話しかけていた。


「一つ聞きたいことがある」

「なんじゃ?」

「もし俺が死ぬことがあれば、お前はどうするんだ?」


 すると、彼女は真剣な眼差しで俺を見つめる。いつものおっとりとした目ではない。


「嫌じゃ。そしたらお主を殺した奴を殺す」

「どうしてそこまでするんだ」

「当たり前じゃろ。好きな人を慕う気持ちは人間も精霊も同じじゃ。まぁわしの場合は少し異常じゃと思うがの」


 そういうとアンドレイアは目を閉じて心を落ち着かせた。


「それほどに大切だと思っているんだな」

「そうなんじゃよ? まさか気付いていないとは言わせんぞ?」


 彼女は鋭い目で俺の顔を覗き込んできた。

 その目は何か俺を疑っているようだ。


「気付いている。俺のことが好きなんだろ」

「……改めて言われると恥ずかしいものじゃの」


 彼女は俺から目を逸らして顔を赤くした。

 そして、頬が熱くなっているのを手で確かめると顔を軽く横に振ってから口を開いた。


「だから、わしはお主に向けられた殺意を見逃さぬようにしとる。いつでも阻止できるようにするためじゃ」

「それなら俺も助かる」


 いくら俺とて全てを把握することはできない。

 意識外からの攻撃は対処が難しい。場合によっては怪我を負うことも覚悟しなければいけない。

 だが、こうして周囲を見張ってくれている存在がいると俺も動きやすいというものだ。


「じゃろ? もっとわしを大事にしておくれ」

「ああ、大事にするよ」


 そう言って俺は剣の方を抱き寄せてみる。


「なっ。本体を大事にするのじゃ!」


 まるで駄々を捏ねている少女のように俺に縋り付いてくる彼女はやはり可愛らしいものだ。

 そんな彼女を横目に俺はベッドに潜り込み、寝ることにした。

 それに釣られるように彼女も布団の中へと入ってくるが、まぁ邪魔ではないからな。

 俺はゆっくりと目を閉じた。


 夢の中、俺は以前にも見た景色の中に立っていた。


「この場所は……」

「エレイン様、少しいいですか」


 そう言ったのは純白のドレスに身を包んだ美しい緑の長髪と淡いピンクの透き通るような桜色の目をした女性が現れた。

 彼女はイレイラだ。精霊が姿を現すことができるのは意識が覚醒していない状態でのみだからな。

 こうして夢の中なら問題がないそうだ。


「ああ」


 俺はそう返事するとイレイラは俺の目の前にまで歩いてきた。


「先ほどのアンドレイア様との会話を聞いていました。エレイン様がお亡くなりになることになれば、私もどうしたらいいか分からなくなります」


 どうやら寝る前の会話を聞かれていたようだ。


「安心しろ。そう簡単には死なない」

「ですが、あのようなことをお聞きになるというのはどういうことですか?」

「周りの状況が少し変わってきていてな。色々と目をつけられている」

「そうなのですね」


 俺が今置かれている環境は非常に危険な状態だ。

 まだ攻撃を仕掛けていないとはいえ、それも時間の問題と言える。

 少なくとも議会は俺の力を手に入れたいと考えている。

 それとは別に何者かも俺のことを探っているようだしな。


「まぁ俺は大丈夫だ」

「もし、エレイン様のお力だけでは厳しい状況、そしてアンドレイア様のお力でも対処できない時は私が掟を破ることも視野に入れています」

「いや、それは色々とまずいのではないか?」


 掟を破るということはその存在力を維持できないのではないだろうか。

 アンドレイアほどの高位の精霊であれば問題ないかもしれないが、イレイラはまだそこまで強くはなっていない。

 大聖剣にはなっているが、もともとは精霊の中でも一般レベルの存在力だ。


「エレイン様がお亡くなりになるのは私も嫌なのです。私の命に代えてでもお守りしたいのです」


 そう言って決意の目を向けてきた彼女は本当に覚悟を決めているのだろうな。


「ありがとう。だが、俺とアンドレイアを超える敵などそうそういない。安心してくれ」

「そうですか……っ!」


 俺はイレイラを抱きしめた。


「え、エレイン様?」

「難しい決断を迫るようなことを言ってしまったな。悪かった」


 イレイラも俺に対して好意を持っているというのは知っていた。

 だからこそ、俺は少し配慮するべきだったな。

 魔剣となり自由の身であるアンドレイアならともかく、まだ精霊として掟という縛りがある状況のイレイラにとっては難しい決断だっただろうな。


「そんなこと、ないですよ」


 そう言ってイレイラも俺を抱きしめてくる。

 イレイラとアンドレイアと話して、俺がするべきことはもう決まった。

 自分の道を貫くこと、それが俺がするべきことなのだ。




 翌日、リーリアと一緒にいつものように家を出て学院へと向かう。

 そして、昨日と同じように見張りのような人が俺の後ろを尾行してきている。当然ながらリーリアは気付いていないが、言ったところで何も変わらないからな。

 まぁ後ろの奴は今は考えなくてもいい。なぜなら彼女からは特に殺気のようなものは感じられない。ただ監視を続けているだけと言った印象だからだ。


 問題なのは俺の正面にいる男三人だ。

 装備は聖剣を持っている。二人が長剣、もう一人が大剣という構成だ。それに攻撃の意思があるのか、こちらに向けて殺意に近い視線を向けている。

 作戦としては大剣で先制攻撃を仕掛けてきて、再度からリーチの長い長剣で止めを刺すと言ったところだろう。

 確かに悪くない。悪くはないが、俺の力を過小評価しているようだな。


「リーリア、少し下がってろ!」

「っ!」


 そう言って俺はリーリアを後ろに下がらせた。

 当然、俺が奥にいる三人組の突撃の時間を予測して彼女に伝えたのだ。

 離れたことでリーリアは完全に間合いの外だ。攻撃もされないことだろう。

 正面の男が大剣を振り上げ、左右の二人が長剣で挟み込むように刺突してくる。


「喰らえ!」


 やはり議会の討伐軍だったということだろう。


 この程度の剣士がいくら集まったところで俺を倒すなど不可能だと分かっていることだろう。

 なぜこのような真似をするのか全く理解ができない。

 俺はイレイラを亜音速で引き抜き、突撃してきている大剣の男を振り下ろす前に腹部へと打撃を入れた。

 イレイラは片刃のため殺すことなく倒すことができる。

 そして、左右から刺突してきている二人も倒すことにした。

 俺はまず、一歩だけ前に出過ぎていた左の男へと斬りかかり同じく刃とは反対側で意識を刈り取る。


「次に……っ!」

「え?」


 すると、背後から尾行していた女性が突撃してきた。

 当然リーリアは今までうまく身を隠していた彼女に反応することができなかった。それに剣はスカートの奥にしまっているために援護が遅れる。

 そして、俺の今の態勢では背後からの攻撃に対処は難しい上に、すぐには対応できないであろう時間を狙って行動してきたな。

 こうなったら今の動きを変える必要があるか…… いや、この攻撃は俺に対してではないな。


「ぐぅふあ!」


 背後から突撃してきた女性は持っている剣の柄を使って俺の右側の男の腹部を攻撃した。


「見事な援護だった」

「……」


 鉄仮面の女性は無言のままだ。


「それにその身のこなし、普通ではないな。一体誰なんだ?」

「……」


 そう質問してみせるが、彼女は沈黙を続けた。

 喋れないのだろうか。それにしても不自然だな。


「エレイン、驚かせて悪かったな」


 すると、背後からブラド団長が現れる。


「ブラド団長か」

「この三人組は俺たちに任せてくれ。遅刻しないようにすぐ学院へ向かうといい」

「ああ、そうする」


 俺は彼にそう言われて学院に向かうことにした。

 その時、リーリアはブラド団長に向けて敵意のような目を向けていたのが分かった。


 今の状況を見るだけで色々と思惑が交錯しているのだろうな。

 詳しくは当人ではないためわからないが、その辺りのことも追々分かってくることだろう。

 これからの動きにも注目しなければいけないな。

こんにちは、結坂有です。


議会や聖騎士団はついにエレインに対して動き始めました。

当然、二つの勢力は今、敵対関係にあります。そんな中に狙われてしまった彼は一体どうなるのでしょうか。

そして、リーリアの考えている思惑も気になるところですね。


それでは次回もお楽しみに。



評価やブクマもしてくれると嬉しいです。

感想もTwitterなどでコメントしてくれると励みになります。

Twitter→@YuisakaYu

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 日本刀は峰側では抜きにくいと思うのですが、抜いてから持ち替えたのかな?(^^)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ