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不安抱え、任務続行

 私、アイリスは剣聖たちが泊まっている宿から近い別の宿に泊まっていた。

 ここもファデリードが手配してくれた場所で窓からは彼らが泊まっている宿が見える。彼らの動向を監視するにはちょうどいい立地の場所となっている。

 それにしても、一般訓練施設で剣聖の実力が見れなかったのは惜しいと言える。ファデリードも交渉していたように思えたが、どうも難しかったようだ。

 代わりに剣聖の従者と見えるメイド服の女性を見てみた。

 私たちでも驚くような実力者であるのはひと目見ただけでよくわかった。そして、なによりも最後の一撃、あれは私でも驚いた。

 特殊訓練施設で最高成績だった私がもっとも得意とする技術かつ、誰も真似できなかった技でもある。

 それをあのメイド服の女性がやってのけたのだ。技に粗さが残っているとはいえ、剣閃が光ってみえた。


「……少なくとも私たちが想定していたよりも剣聖という男はとてつもない実力者のようね」

「あの技、アイリスの得意技の一つよね」


 自分たちが最強だと教えられてきた。もちろん、一般訓練施設の人たちとも圧倒的な実力差があることも戦わずしてわかっていたことだ。

 しかし、あの剣聖一行は少なくとも私たちと同じ実力を持っていることになる。

 あの様子を見てファデリードも驚いている様子でもあった。

 国内での調査ということで楽な任務だと思っていたが、今となっては真剣に取り組まなければ簡単に足をすくわれることになるだろう。


「アイリス、どうするべきかしら」


 すると、コミーナが私にそう話しかけてきた。任務を続行するべきかどうかのことを聞いている。

 もちろん、私の答えは……


「任務を続けます。私たちと彼らとが戦うことはありません。それにまだ人間か魔族かもわかっていません」

「……アイリスがそういうのなら続けましょうか」

「ええ、ちょっと不安はあるけどやらないといけないことだからね」


 コミーナとリシアがそういうと大きくうなずいて任務続行を決意した。

 シンシアは最初から私に合わせるつもりだったようで窓の外から剣聖一行の宿を見つめたままであった。


   ◆◆◆


 翌朝、俺は宿を離れ、聖騎士団の駐在所へと向かうことにした。レイもリーリアも同じく俺たちと一緒だ。とはいっても、俺とレイはリーリアの付き添いのようなものだ。

 あくまで視察の主体はリーリアだ。もちろん、何もしないというわけではないがな。俺たちも一応、この国のことはよく観察することにしている。

 まぁどういうわけか、俺たちがマリセル共和国の監視対象となっているわけだがな。

 そのあたりのことは今回の視察には特に関係のないことだろう。他国からすれば剣聖である俺が一番不自然な存在だと思われていることだろうしな。


「エレイン様、やはり……」

「気にするだけ無駄だろうな」

「……わかりました」


 昨日に引き続き、監視の目は続いている様子だ。いや、正確には近くの宿で俺たちが泊まっている建物を監視していたということもわかっている。かなり計画的に行っていることがわかる。

 つまりは組織的な作戦であるということでもある。ある意味、信頼できる連中なのかもしれないな。

 リーリアも監視されているということに宿を出たときから気付いたようだが、俺はなにも反応しないようにと目で訴えると彼女はそれに従った。

 レイも心地悪そうにしているが、言動を乱さないでいてくれるようだ。

 こんな市街地でもし彼が暴れたとなればとてつもない被害が出そうだからな。そのような大問題は起こしたくないものだ。


 それから俺たちはこの国の大門へと向かった。外との繋がりはこの門一つらしく、大量の人が出入りできるように、大型の馬車が出入りできるように巨大な門となっている。

 もちろん、門番となっている人の数もかなり多い。その中にも聖騎士団の人が何人かいるようだ。

 そして、俺たちが向かったのはその大門の脇にある聖騎士団専用の駐在所だ。

 リーリアは一度駐在所の奥へと入っていき、俺とレイはしばらく外で待機することとなった。


 このマリセル共和国というのは非常に大きな谷底に位置している。地図で見ても谷底のようには思えないが、何世紀もかけて崖を切り崩していったおかげで大きな国へと発展したのだそうだ。

 今となっては谷底というよりかは断崖という自然の防壁に囲まれた大国と言えるだろう。

 そんな国がここ数年、聖剣の取引を本格的に進めようとしている。防御という面ではヴェルガーと同じく十分と言っていいほど高いものとなっているだろう。正直なところエルラトラムよりも高いと言える。

 議会の報告によると共和国内でも魔族と戦い、本国のため、人類のために役に立ちたいという若者が多いのだそうだ。

 兵士になるという選択肢もあるのだが、自国だけでなく人類のためにも活躍したい人が多いらしい。

 エルラトラム側としても戦える聖剣使いが増えることは問題ない。とはいえ、ここまで急ぐ理由がよくわからない。

 ということもあって、俺たちが急遽マリセル共和国へと向かうことになったのだがな。


 そんなことを思い返しているとリーリアが駐在所から戻ってきた。


「お待たせしました」

「そこまで待ってねぇぜ」

「意外と早かったのだな」

「問題があるかないかの確認だけでしたので……それより予定よりも早く終わりましたね。この後どうしますか?」


 近くの時計台を見てみると針はまだ十一時を指している。

 この後の予定としては軽く報告書をまとめてエルラトラムへと帰還するだけなのだが、そう簡単には終わらせてくれないような予感がする。

 理由としては三つほどある。

 まず1つ、俺がここで待機している間に監視している連中が動き始めたからだ。二つ、妙な気配が市場の方から感じる。三つ、誰か一人がこちらに来ているからだ。


「あの、すみません」


 そう駆け寄ってきたのは胸元まで伸ばした黒髪に、まだ幼さの残る顔立ちの美少女とも言える女性が近付いてきた。


「……どうかしましたか?」


 俺の前に出たリーリアはその女性へと真っ先に話しかけた。刺客を警戒しての行動だったのだが、そのまま彼女へと話しかけたのだろう。


「商店街の方で大男が暴れています。助けていただけませんか?」

「エレイン様、どうされますか?」

「……仕方ない。言ってみるか」

「へっ、大男なら俺が……」


 レイがそう言いかけると黒髪の女性が話し始める。


「相手は複数人います」

「なら、俺とレイで協力するか。街中ということもあるしな。剣の力は使わないでいく」

「おうよっ」


 巻き込まれてしまったのなら仕方ない。それに、監視している連中が動き出したことも不自然だったしな。


 それから黒髪の女性に案内されて、市場の奥へと向かっていく。この場所は人通りも少なく、喧嘩が起きていそうな場所とも言えるだろう。

 すると、そこには複数の剣が散らばっていた。それも刃には血がこびりついている。


「っ!」


 動揺したのはリーリア、ではなく、黒髪の女性の方だった。


「暴れているのは複数、そうだったな」

「……そう見えました」

「エレイン様、ただの喧嘩というわけではなさそうですね。兵士の方たちを呼んできます」


 そう言ってリーリアは真っ先に先ほどの大門の方へと向かっていった。

 確かにこれはただごとではないからな。死体は見えないが、致命傷となるような傷を負っているのは明らかなようだ。


「……」

「見たくねぇなら目をつぶっててもいいぜ。俺たちが守ってやるからよ」

「……はい」


 そう黒髪の少女にレイが話しかける。

 だが、彼女は怯えているというよりかは考え込んでいるように見える。一体何を企んでいるのだろうか。いや、そもそもこの少女は一体何者なのだろうか。

 ここに来るまでに彼女の足取りを観察していたのだが、違和感のようなものを感じる。俺と似たような何かを彼女が持っているのだ。

 ただ、そのことは今考えるのは目の前の惨状だ。まだ近くに犯人がいるだろうからな。


「エレイン、見てみろよ」


 近くの斧を指差して、レイが言った。


「武器の扱いに長けた人物と見ていいな」

「ああ、脂の付き方からして正確に人間の腹部を斬り裂いたように見えるぜ」

「それも一番威力の高い部分を使ってな」


 斧の刃の一部分にしっかりと脂がこびりついている。深い部分まで斬り裂いたというわけではなさそうだが、それでもかなり大きい傷であることはすぐに分かる。

 他の落ちている武器を見てみても同じだ。それぞれの特性に合わせて斬り方を変えている。つまりは得意とする武器で戦ったのではなく、これらの武器を巧みに操って戦ったと見ていいだろう。


「これは、不自然です」

「なにがだ?」

「……いえ、なんでもありません」


 黒髪の少女が何かを言いかけたのだが、途中でやめたようだ。

 まぁ深く聞くのもこの場では不適切だな。


「レイ、しばらく目を閉じる」

「わかったぜ」


 その返事を聞いた俺はゆっくりと目を閉じて気配へと集中する。

 レイと黒髪の少女以外の人間を探すことにした。

 弱い心音が四つ、強い心音二つ。

 この区画にはそれらしかないようだ。


「場所はわかったか?」

「ああ、その角を右に向かったところに……」


 そう指さそうとした瞬間、そこから一人の男がゆっくりと歩いてきた。強い心音の一つだ。


「っ!」


 その男を見た瞬間、黒髪の少女が身構え始める。

 理由は単純だろう。なぜならその男には二本の刀を持っていた。一つは細身の黒く長い刀身、そしてもう一つが金属光沢のない異質な白銀色の刃の刀だ。


「…………」

「あの男が、やったってのか?」

「どうやらそうらしいな」

「待ってください。ここは退くべきです」


 黒髪の少女が俺の服を引っ張りながらそういった。どことなく幼さの感じる仕草ではあるが、年齢としてはレイとさほど変わりないように思える。いや、幼さを感じるのはその顔立ちからだろうか。

 どちらにしろ、目の前の男が警戒に値するというのは明白だ。


「……あのときの、か。用は済んだ。そこを通してくれ」

「何言ってんだ? 人を殺しておいてただで済むと思うなよっ」

「ふっ、死体がどこにあるんだ? それに誰も”殺した”とは言っていない。馬鹿なのか?」

「てめぇ、煽りやがったなっ」

「レイ」

「……チッ」


 大きく舌打ちした彼は魔剣を引き抜くことなくそのまま男へと見据える。

 男の持っている剣が聖剣なのか魔剣なのかはわからないが、明らかに精霊が宿っているということはわかる。


「まぁすぐに手当すれば治るだろう。それと、俺はただ喧嘩を止めただけだ。もう一生できないようにな」

「……」


 そういって剣を鞘に収めた男がそう言って歩いていった。別に彼から殺気のようなものは感じない。それに嘘をついているというわけでもなさそうだ。しかし、怪しいというのには変わりない。

 ここは無理やり取り押さえてでも……


「その男は悪くない。通してやってくれ」


 すると、奥から遅れてやってきたのはファデリードであった。


「だとよ?」

「あ? てめぇ何様のつもりだっ」

「レイ」

「……クソッ」


 俺が道を開けると男はゆっくりとあるき始めた。

 まぁこの国の司令官たる人物がそういったんだ。この国の問題はこの国が解決する。他国の俺が一方的に干渉するのはよくないだろう。


「はっ、剣聖というのも見かけだけのようだな」


 そう通りすがりに言った男はそのまま市場の外へと歩いていった。

 なんとも失礼なやつではあるが、悪い人間ということでもなさそうだ。少なくとも魔族と結託しているというわけではないだろう。

 ただ、とてつもなく強い意志のようなものが感じ取れた。触れてはいけないような、それでいてとてつもなく危険で孤独なもの。

 まぁ俺には関係のないものか。

こんにちは、結坂有です。


市場に現れた男は一体何者なのでしょうか。

そして、エレインに接触してきた黒髪の少女とは……


それでは次回もお楽しみに……



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